戦国男子高校生に言い寄られてます!?【完結】

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陣の谷は、南北に長く渓谷が連なり、大小さまざまな岩の上をせせらぎが流れる山深い緑豊かな地である。

今、その渓谷を挟んで、おびただしい数の騎兵隊が夜明けの決戦を待って対峙していた。

東に、羽間軍を中心とした戸上・今森の三軍合同部隊。
西に、志田軍を中心とした北川・河山の連合部隊。
羽間合同軍が数では圧倒しているが、志田連合部隊は背後に北川・河山の鉄砲隊を隠し持っている。

志田の先陣に進み出ているのは藩主・志田晴信率いる特殊精鋭部隊。
晴信は羽間から届いた同盟の誘いを断り、嫡男穂月を人質とする羽間のやり口を猛批判して、羽間に徹底攻撃をかける構えを見せた。鉄砲、大砲等、武器使用を得意とする晴信の特殊部隊を連れ、夜明けとともに羽間合同軍に突入する。

一方、羽間合同軍は同盟の誘いを断った志田領土を力で手に入れるため、徹底抗戦に備えている。
その先頭に配置されているのは、志田の嫡男、志田穂月。未だ14歳にして、名刀時切丸の使い手として数々の武勲を立てた若き武将。ただし、飛び道具相手に刀では不利な面があり、また此度は父や家臣たちと敵対しなければならないという責め苦も負わされている。

羽間の後方に広がる東の空が白み始めている。
志田連合軍と羽間合同軍との開戦まで、一刻ほどに迫っていた。

その頃、陣の谷に向かう山道を急ぐ馬に乗った一行がいた。
夜明けの決戦を前に、不眠不休で疾走する数頭の馬たち。

「…っ、ちょっと、や、…休ませて、く、…っ」

乗っているのは紫色の袈裟を着た高僧。
志田城主晴信お抱えの強力な陰陽師、達磨法師と二人の弟子たち。すでに体力は限界で馬にしがみついているのがやっとの様相を呈している。

「何を寝ぼけたことを言うておる。穂月様の一大事。休んでおるヒマなどあるものか」

その僧侶と弟子を先導するのは志田穂月の側近、若き侍の鷹朋。女中のマキを同乗させている。さらに、一行に付かず離れず、見え隠れしながら漂う浮遊霊二体も付随させている。

「いや、だから実体じゃって」

不遜に言い放つのは志田家嫡男・志田穂月の正妻、三姫。
未来から飛んできた三宮さんの霊魂を吸収したためか、実体浮遊、瞬間移動等、高次な心霊現象を巧みに操り、同じく未来から来た霊魂である私、倉咲菜苗に心霊現象を指導してくれた師匠でもある。

で。

なぜ今このメンバーで陣の谷に向かって夜明けの山道を急いでいるかと言えば、それはもちろん、穂月が直接晴信を手にかけなくてもいいように。イチかバチかの方法を思いついたからなのだけど。

「…うむ。穂月様が妾を頼みにしておる、と」

それには三姫の力が必要だったので。

敵陣営にいる穂月の腕の中という超絶魅力的な場所から後ろ髪を引かれながら退散し、志田城下にある穂月別邸に戻って、泥酔している三姫を叩き起こし、『穂月様の一大事』を強調して懇願してみたのだ。
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