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iiyori.09
07.
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「東丸達磨。三宮寺開祖以来の最高法師と謳っているが、お前の力はその程度か?」
あの風剣をものともせず、全く乱れず立ち構えていた志田穂月が一歩一歩と東丸達磨に近づいてくる。
「く、…来るな。来るな、来るなあ、…うわあああ――――――っっ」
渾身の風剣術が効かないとあっては、達磨に為す術はない。
見苦しく腰を抜かしてその場にへたり込んだまま、後ろ手に後退する。
幾多の苦行でようやく手に入れた妖術。愚かで弱い人の世など思いのまま。
この世に自分を上回る人間など存在しないと高を括っていたが、まさか、若干14歳の苦労知らずの武家の子どもにこうも簡単に破られるとは。
達磨に迫る穂月の禍々しい空気は尋常ではない。
妖刀・時切丸の使い手だと城主晴信は恐れていたが、或るいは、穂月は妖刀に宿る悪霊をも欲しいままにしているのかもしれない。そうか、生きた人間が相手ならこの東丸達磨に敵うはずもないが、志田穂月は時切丸の悪霊に化身できるのか、…
抜けた腰を引きずって、じりじりと後退していた達磨の背後に固い柱が当たった。すぐ目の前に志田穂月の脚がある。…追い詰められた。
スラ――っと刀を引き抜く音が聞こえたような気がし、
「お許しを、お許しをおおおお、…――――――っ」
恐ろしさに目も開けられず、身を固くして床に頭を擦りつけ、無我夢中で命乞いをする達磨は、
「あ、…法師様」「え、…まさかの」
震えながらその場に失禁した。
「…達磨、お前が我の言うとおりにするなら、助けてやらぬこともない」
恐ろしさと恥ずかしさに声も出せずに震えている東丸達磨に、志田穂月は悠然と言い放つ。
「今より急ぎ陣の谷へ向かい、父上に進言せよ。戦を止め和平協定を受け入れよと。戦をしても無駄に民が死に土地が潰されるだけで、志田の家名は守れぬ」
もちろん、東丸達磨には承諾するしか術はない。
恥辱と衝撃で言葉が出ず、ただただひたすらに頷いた。
実際。
志田穂月が悪霊に化身できるほどの妖術を手にしているのなら、志田晴信に勝ち目はないだろう。自分を脅かす存在ということで息子を疎んじ、暗殺を企てたり、戦況を利用して亡き者にしようとしているが、剣術も妖術も穂月の方が格段上だし、勘もいい。暗殺計画にも最初から気づいていて、逆に晴信に毒を盛らせたのかもしれない、…
東丸達磨に選択肢はなかった。
志田穂月の迫力にビビって失禁したことを弟子たちには固く固く口留めしたが、権威は地の底まで落ちているだろう。それでもまあ、命あるだけましか。
達磨は志田穂月に言われるがまま、忠臣の弟子と共に、夜明けの陣の谷へ向かった。
谷では、夜明けとともに志田連合軍と羽間合同軍の合戦が始まろうとしていた。
あの風剣をものともせず、全く乱れず立ち構えていた志田穂月が一歩一歩と東丸達磨に近づいてくる。
「く、…来るな。来るな、来るなあ、…うわあああ――――――っっ」
渾身の風剣術が効かないとあっては、達磨に為す術はない。
見苦しく腰を抜かしてその場にへたり込んだまま、後ろ手に後退する。
幾多の苦行でようやく手に入れた妖術。愚かで弱い人の世など思いのまま。
この世に自分を上回る人間など存在しないと高を括っていたが、まさか、若干14歳の苦労知らずの武家の子どもにこうも簡単に破られるとは。
達磨に迫る穂月の禍々しい空気は尋常ではない。
妖刀・時切丸の使い手だと城主晴信は恐れていたが、或るいは、穂月は妖刀に宿る悪霊をも欲しいままにしているのかもしれない。そうか、生きた人間が相手ならこの東丸達磨に敵うはずもないが、志田穂月は時切丸の悪霊に化身できるのか、…
抜けた腰を引きずって、じりじりと後退していた達磨の背後に固い柱が当たった。すぐ目の前に志田穂月の脚がある。…追い詰められた。
スラ――っと刀を引き抜く音が聞こえたような気がし、
「お許しを、お許しをおおおお、…――――――っ」
恐ろしさに目も開けられず、身を固くして床に頭を擦りつけ、無我夢中で命乞いをする達磨は、
「あ、…法師様」「え、…まさかの」
震えながらその場に失禁した。
「…達磨、お前が我の言うとおりにするなら、助けてやらぬこともない」
恐ろしさと恥ずかしさに声も出せずに震えている東丸達磨に、志田穂月は悠然と言い放つ。
「今より急ぎ陣の谷へ向かい、父上に進言せよ。戦を止め和平協定を受け入れよと。戦をしても無駄に民が死に土地が潰されるだけで、志田の家名は守れぬ」
もちろん、東丸達磨には承諾するしか術はない。
恥辱と衝撃で言葉が出ず、ただただひたすらに頷いた。
実際。
志田穂月が悪霊に化身できるほどの妖術を手にしているのなら、志田晴信に勝ち目はないだろう。自分を脅かす存在ということで息子を疎んじ、暗殺を企てたり、戦況を利用して亡き者にしようとしているが、剣術も妖術も穂月の方が格段上だし、勘もいい。暗殺計画にも最初から気づいていて、逆に晴信に毒を盛らせたのかもしれない、…
東丸達磨に選択肢はなかった。
志田穂月の迫力にビビって失禁したことを弟子たちには固く固く口留めしたが、権威は地の底まで落ちているだろう。それでもまあ、命あるだけましか。
達磨は志田穂月に言われるがまま、忠臣の弟子と共に、夜明けの陣の谷へ向かった。
谷では、夜明けとともに志田連合軍と羽間合同軍の合戦が始まろうとしていた。
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