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iiyori.09
08.
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陣の谷を朝日が照らす。
「良いか、敵軍羽間は我が嫡男穂月を人質に降伏を求めている。先代より賜ったこの地を侵略し、我らを羽間の奴隷にするつもりだ!!」
ひしめく志田軍の先頭に立つ大将軍・晴信が、軍を鼓舞するため大声を張り上げた。
「そんな卑劣な奴らに臆するなっ!! 戦え!! 志田の誇りを忘れるな。最後の一人になっても、戦え、戦え、戦い抜くのだっ!!」
「「「おおお――――――っっ」」」
気合で挑む志田軍の士気は最高潮にまで達し、咆哮が朝日煌めく谷にこだました。
一方。
対岸には数で圧勝する羽間軍がずらりと並び、その中央に、総大将・羽間 勝光、その隣に志田穂月がたたずんでいた。
「…穂月殿。晴信殿は徹底抗戦の構えです。合戦は避けられませんな、…」
穂月の意を汲んで交渉に踏み出した羽間勝光だったが、志田晴信はそれを断固はねのけた。
「勝光殿には交渉に臨んでいただき有難うございます。この合戦、まずは私に先陣を切らせてください」
志田穂月は味方の軍に敵軍の先陣として乗り込もうとしている。
晴信の勢いを見れば、息子であっても容赦なく討つのではないかと思われたが、穂月もまた、父と戦う覚悟を感じさせた。
「…いいでしょう。私たちは後方を固めます」
両軍が掲げた槍や鉄鎧が朝日に反射する。
「全軍、進め――――――っ」
晴信率いる志田軍が進撃を開始し、向かい合う羽間軍も前進。両軍ともに谷を下り、ついに決戦の火ぶたが切って落とされた、まさにその時。
ごおおおお、…――――――っ
ひどく強力な風が谷を渡った。
「な、…なんだ、…!?」
兵士たちは軍旗ごと倒れ、軍馬たちも膝を折って異様な風に耐えている。両軍とも前に進めず、ひどい砂嵐に目を開けることもままならない。
「その合戦、いましばらく待たれよ。神の裁きが下ろう」
強風に姿勢を低くし、ようやく薄目を開けることが出来た晴信は、合戦の中心に紫色の袈裟を着た高僧の姿を見た。
「…達磨?」
志田城お抱えの陰陽師でもある達磨法師は、人知を超えた特異な力を持っている。この異常なまでに強い風は達磨が得意とする風術か。
「穂月様を見捨てんとするこの戦い、妖刀・時切丸がひどく騒いでおりまする。このままでは時切丸が晴信様を切り、志田連合軍は全滅、、領地領民は全て羽間のものとなりましょう」
「な、…なに!?」
風にあおられて谷に響き渡る達磨法師の声は、戦に臨む志田連合軍を一気に不安に陥れた。達磨法師には先見の力がある。その力を間近で見てきた晴信には特に衝撃が大きかった。
「穂月様は人質ではなく交渉に臨まれたのです。今、志田に必要なのは勝ち目のない戦で全滅することでなく、羽間の交渉を受け入れることです。さもなくば、志田領は根絶やしになりましょう」
「な、何を言うか、…――――――」
立ち上がれないほどの強風の中、顔を真っ赤にして何とか達磨に抵抗しようとする晴信だったが、勝ち目のない戦であることは晴信自身が一番よく分かっていた。
「お主の風術で敵を抑え込めば、…」
「私の術は時切丸には敵いません」
強風で地面に這いつくばっている志田軍に、敵軍から一騎の兵士が近づいてきた。強風をものともせず、凛々しく馬を駆る兵士の手には、妖刀・時切丸が握られていた。
「良いか、敵軍羽間は我が嫡男穂月を人質に降伏を求めている。先代より賜ったこの地を侵略し、我らを羽間の奴隷にするつもりだ!!」
ひしめく志田軍の先頭に立つ大将軍・晴信が、軍を鼓舞するため大声を張り上げた。
「そんな卑劣な奴らに臆するなっ!! 戦え!! 志田の誇りを忘れるな。最後の一人になっても、戦え、戦え、戦い抜くのだっ!!」
「「「おおお――――――っっ」」」
気合で挑む志田軍の士気は最高潮にまで達し、咆哮が朝日煌めく谷にこだました。
一方。
対岸には数で圧勝する羽間軍がずらりと並び、その中央に、総大将・羽間 勝光、その隣に志田穂月がたたずんでいた。
「…穂月殿。晴信殿は徹底抗戦の構えです。合戦は避けられませんな、…」
穂月の意を汲んで交渉に踏み出した羽間勝光だったが、志田晴信はそれを断固はねのけた。
「勝光殿には交渉に臨んでいただき有難うございます。この合戦、まずは私に先陣を切らせてください」
志田穂月は味方の軍に敵軍の先陣として乗り込もうとしている。
晴信の勢いを見れば、息子であっても容赦なく討つのではないかと思われたが、穂月もまた、父と戦う覚悟を感じさせた。
「…いいでしょう。私たちは後方を固めます」
両軍が掲げた槍や鉄鎧が朝日に反射する。
「全軍、進め――――――っ」
晴信率いる志田軍が進撃を開始し、向かい合う羽間軍も前進。両軍ともに谷を下り、ついに決戦の火ぶたが切って落とされた、まさにその時。
ごおおおお、…――――――っ
ひどく強力な風が谷を渡った。
「な、…なんだ、…!?」
兵士たちは軍旗ごと倒れ、軍馬たちも膝を折って異様な風に耐えている。両軍とも前に進めず、ひどい砂嵐に目を開けることもままならない。
「その合戦、いましばらく待たれよ。神の裁きが下ろう」
強風に姿勢を低くし、ようやく薄目を開けることが出来た晴信は、合戦の中心に紫色の袈裟を着た高僧の姿を見た。
「…達磨?」
志田城お抱えの陰陽師でもある達磨法師は、人知を超えた特異な力を持っている。この異常なまでに強い風は達磨が得意とする風術か。
「穂月様を見捨てんとするこの戦い、妖刀・時切丸がひどく騒いでおりまする。このままでは時切丸が晴信様を切り、志田連合軍は全滅、、領地領民は全て羽間のものとなりましょう」
「な、…なに!?」
風にあおられて谷に響き渡る達磨法師の声は、戦に臨む志田連合軍を一気に不安に陥れた。達磨法師には先見の力がある。その力を間近で見てきた晴信には特に衝撃が大きかった。
「穂月様は人質ではなく交渉に臨まれたのです。今、志田に必要なのは勝ち目のない戦で全滅することでなく、羽間の交渉を受け入れることです。さもなくば、志田領は根絶やしになりましょう」
「な、何を言うか、…――――――」
立ち上がれないほどの強風の中、顔を真っ赤にして何とか達磨に抵抗しようとする晴信だったが、勝ち目のない戦であることは晴信自身が一番よく分かっていた。
「お主の風術で敵を抑え込めば、…」
「私の術は時切丸には敵いません」
強風で地面に這いつくばっている志田軍に、敵軍から一騎の兵士が近づいてきた。強風をものともせず、凛々しく馬を駆る兵士の手には、妖刀・時切丸が握られていた。
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