秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

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番外編Ⅳ

ウルフ・ブルーの幸せすぎる日常

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「ううふ、きもち? きもちい?」

…参った。ライが可愛すぎて死ぬ。


このところライは夜中にこっそりベッドを抜け出し、王宮の厨房で料理にいそしんでいる。俺に朝食を作りたいというこの上なく可愛い理由からなのだが、ライの面倒を見ずにはいられない宮廷料理人ナムラ・ディーンによると、「ウルフ様がお召し上がりになられるまでには今しばらくお時間が必要かと」という状態らしく、今しばらく寝たふりを続けなければいけない俺は苦境に立たされている。

そもそも。
繋がったまま眠っているライが身じろげば、俺が気づかないはずはなく、まして抜け出せばすぐに分かるのだが、バレないようにこそこそしているライが可愛いので眠っているふりをしている。

それなのに。

「…ウルフ。行ってくる」

俺が眠っているのを確認するためか、ライはまじまじと顔を近づけてきたりして、たまにちゅっと鼻の頭に口づけてきたりするので、可愛さが爆発して襲いかかりそうになり、自分を律するのに必死だ。間違ってもにやけたりしてはいけないのだが、ライからキスしてくることは稀なので、その感動をこらえるのは至難の業だ。可愛すぎてツラい。今度キスされたらベッドに連れ戻さない自信がない。

だいたいライのキスは、最初から強烈だった。

初めて狼に変化した日。
自分は始龍神の半身だと悟った。始龍の半身は半獣半人で、始龍が甦るとき、半身もまた甦り、七龍の中から現れる。自分が甦ったということは、始龍も甦ったということで、狼の姿のまま、始龍を探しに行った。どこにいるのかは、本能で分かった。青龍国の国境を越え、霧の谷に入る。本能の赴くままに、深い霧の中を迷わず進んだ。やがて霧が晴れた先に、小さくその気配を探し当てた時、衝撃が大きすぎて動けなくなった。

これほどまでに愛しいと思える存在がこの世の中にいたのか。

背後にヒグマが迫っていることに気づかないほど、始龍の存在は鮮烈で一瞬で何もかもを奪われた。

まだ仔犬のような慣れない狼の身体で、背後から襲われた俺はあっけなくヒグマの餌食えじきとなった。決死の思いでヒグマからは逃れたが、深い谷底に転がり落ちた。雲行きが怪しくなり、あっという間に激しい雷雨に打たれる。寒さと痛みに朦朧もうろうとなって、どうにも動けなくなった。意識が遠のき、せめて一目始龍に会いたいと願った時、ひどく尊いものに触れられたような気がして、完全に意識が途切れ、…

もの凄く愛しいキスで目が覚めた。

始龍ライは俺を癒し高める。ライがキスしてくれたおかげで痛みも苦しさも消えて、愛しさだけが残った。目を開けると、まだ幼い少年ライが傍らで健やかな寝息を立てていた。食べてしまいたい。という強烈な欲望に襲われる。可愛すぎる。狼の本能なのか、自分の証を刻みたくて血が沸き立ったが、『お前、めちゃくちゃかっこいいな!!』まだ幼く無邪気なライに俺を刻むのは酷な気がして、痕をつけるに留めた。

早く俺を見ろ。俺に気づけ。俺に落ちてこい。

ライに焦がれる俺に、ライは一向に気づかない。
統一王の名のもとに満月一族ライを狙う輩を端から退け、もう正攻法でライに求愛しようかと思っていた時、ライの双子の妹が隣国の王子と恋仲であることを知った。

『ライの中にいる始龍を覚醒させるには、良い機会かと』

満月一族の神子しんし様がこの上なく魅力的な助言をくれ、ライを迎えに行った。

そのライが、

『俺も好き、ウルフが好き。もう絶対離れない』

神様、人生でこれ以上に幸せなことってありますかっっ!?!?

…失敬。

そのライが、俺に朝ごはんを作りたいんだと。ライが作ってくれるなら俺は何でもいいんだが、ライはバレンタイン以来ちょっと料理に燃えていて、「次はぜってー負けねえ!」とぶつぶつ宣言していて、何をしようとしているのか丸わかりなのを本人だけが気づいていない。可愛すぎる、俺のライ。

ベッドで悶絶していたら、料理人のナムラから緊急呼び出しがかかった。急いで厨房に向かうと、

「あ、ううふ~~~~~」

真っ赤でぐにゃぐにゃになったライに飛びつかれた。

「白身魚のポワレにチャレンジなさっていたのですが、フランベを見てみたいと仰られて、私が実演している間に、何を間違えたのかブランデーを召し上がられてしまったようでして、…ごく少量だとは思うのですが、…」

そばでナムラがおろおろしている。
ナムラはライをとても可愛がってくれているのだが、多大な苦労をかけている。

「すまない、ナムラ。世話をかけた。いつもライを見てくれてありがとう」

「いえいえ、あの、…」

連日夜更けの料理教室に付き合わされているナムラだが、みじんも疲れのない晴れ晴れとした笑顔を見せた。

「ウルフ様がライ様とお会いできて本当によろしゅうございました」

俺の料理人は素晴らしい。

「あ、なむら。ううふにはいうなよ? おれがりょうりならってるって、…」

俺の腕の中で真っ赤な顔をしたライがろれつの回らない口調で自ら暴露している。そんなライを見るナムラの視線はとても優しい。ライは懐っこくて素直なので、宮廷内外でとても可愛がられている。後宮からもしょっちゅうお誘いが来て、元々は俺のための後宮なのだが、今やライの友だち集団と化している。

「ううふはおれのだから、なむらはさわっちゃだめ~~~」

すっかり酔っ払ったライを部屋に連れて帰ると、俺に乗っかったままのライにベッドに押し倒された。ライは酒に弱い。真っ赤な顔でふにゃふにゃ言いながら、俺に擦り寄ってくる。外で飲ませるのは心配だが、俺がいるところで飲むなら一向にかまわない。

「ううふ、すべすべ。きもち~~~」

ライが、俺に擦り寄りながら、衣服をはだけ、中に潜り込んで、触ったり頬ずりしたり唇を寄せたりしてきた。くすぐったくて可愛くて、丸ごと食べたくなるんだが。

「…ライ」

引き寄せてキスしようとしたら阻まれた。

「きょうはおれがするから、ううふはうごいちゃだめ」

拷問か。

柔らかくて温かい愛しさの塊が、俺に潜り込んで、さんざん撫でくり回し、舐め回して、摘まんでこすって握りしめた挙句、

「ううふ、きもち? きもちい?」

俺をくわえて問いかけてきた。

いや、無理。参った。可愛すぎて死ぬ。
もうホント、気持ちいいに決まってる。ライが一生懸命で、夢中になっていて、俺に触りながら自分も感じてる様子なのが堪らない。ライの存在は俺の全てで、見るだけで聞くだけで匂いだけで満たされる。

「ううふはぜんぶきもちいいから、おれもううふをきもちよくしたい」

健気すぎて爆発する。可愛いにもほどがある。
ライが気持ち良ければ俺はその100万倍気持ち良い。

「…ライ、いいよ。すごくいい。なあ、もう頼む。動いていいか?」

ライが欲しくて限界で、俺の上で小さく丸まるライを強引に引き上げると、

「…うん」

ライが蕩け切った顔でこくりと頷いて、瞬間、理性のたがが外れた。

ライをぴったり引き寄せて、下から突き入れ、可愛く声を上げるライを塞いで奥の奥まで探り、絡め取って繋ぎ合わせて深く深く交わる。柔らかでしなやかなライに包まれて、もの凄い衝動がこみ上げ、ライを強く抱きしめたまま反転すると、限界まで深く押し込んで解き放った。小悪魔なライに弄ばれて極限まで高められて我慢できず、立て続けに爆発した。してもしても足りない。獣じみた本能が顔を出し、荒々しくライをかき抱くと、至るところで繋がって、突き刺し、噛みつき、俺の証を刻み付ける。

俺の。俺の、…

「…ライ、…っ」
「…うるふ、だいすき」

俺の腕の中でライが溶け落ちる。

半獣の俺はライを食べたいとか滅茶苦茶にしたいとか野蛮な衝動があって、銀狼の姿ではライを傷つけないか怖がらせないか不安になるのだが、ライは俺の獣の部分も受け入れてくれた。

『俺、お前なら何でもいい』

俺がどんなに幸せか、言葉に出来ない。

始龍神はこの幸せを分かち合うために半身を作ったんじゃないかと思う。
愛しいと思える相手に出会い、思いを繋ぐ幸せを。
その幸せを分かち合うために世界は造られたんじゃないかと最近そう思うんだ。
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