秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅲ

05.

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「…美橙びとう酒を飲んだようだな」

衝動のままにウルフと繋がって、不安を払しょくするようにぶつかり合って刻み合って、疲れ果ててまどろんだ。心地よい疲労感と充足感に満たされて、ウルフの上に横たわる。心臓の音が聞こえる距離で、ウルフにぴったりくっついて全身で温もりを感じていられるこの瞬間が好きだ。

ウルフの精気の結晶は俺の身体を柔らかく溶かして、ウルフを受け入れさせた。逃げ惑う途中、気づかないうちに負っていた怪我も擦り傷も、すっかり癒えて跡形もなくなっている。改めて。『お互いを癒し高める』というウルフの結晶は、俺に絶大な効果を発揮する。

俺にも、ウルフを癒したり高めたり出来ればいいのに。

ウルフの形のいい鎖骨に唇を寄せると、ウルフがくすぐったそうな笑い声を上げ、俺の中でウルフが揺れた。

「いたずら好きだな。足りないのか?」
「…そういうんじゃないし」

唇を尖らせると、長い指で摘まれた。

「…お前は欲しがりだからな」

ウルフに引き上げられて、反転する。上からウルフが密着して、またゆっくり奥まで満たされる。

「お前のが、…っ」

ウルフの方が欲しがりってか、与えたがりっていうか、…

「俺も、もっとお前に、…」

ウルフの首に腕を回してもっとぴったり隙間なく引き寄せた。俺の喜びを全てウルフに伝えたい。俺の全てをウルフに、…

「…あげたい」

俺がウルフにあげられるものはなんだろう。それでもまだ足りなくて、自分をぐいぐいウルフに押し付けながら思う。

「…お前がいれば、何もいらないよ」

ウルフが緩やかに俺をかき混ぜる。その度に俺は快感に弾けてウルフを締め付ける。
ウルフの声も匂いも、形も温度も、全部好きだ。全部欲しい。でも、俺にあげられるものは、…

「…お前が好きだ、レイ」

真実ほんとうだけかもしれない。



「このところ、美橙酒を語る偽酒が出回っている。重度の幻覚症状が現れて、やがて禁断状態に陥り、依存して手放せなくなる。麻薬の一種だ」

ウルフの腕の中に包まれたまま、頬から伝わる振動とともにウルフの話を聞いている。

「光月湖で怪しい動きを見せた奴を捕まえて問い質したところ、橙龍国から不法に入国した一味が、青龍国内で偽酒を不当に売りさばいている。橙龍国は青龍国を偽酒に溺れさせ、混乱に陥れて、一気に攻め込むつもりらしい」

光月湖の怪しい動きはそんな陰謀に繋がっていたのか。

「今回、後宮でミラベルたちの手に渡ったのも美橙酒ではなく偽酒だ。今、入手経路を調べているが、昨夜の時点でミラベルの供人だったカズハとヤスナが消えている。彼女たちは橙龍国の間者だった可能性が高い」

なるほど。だから、ミラベル嬢は橙龍国の事情に詳しかったのか。

橙龍国、…
偽酒による幻覚作用もあるけど、俺が男に戻ったのも事実。俺の正体を確かめようとしてた。ミラベル嬢が言ってた通り、橙龍国は俺ら双子の入れ替わりに関する鍵を握っている。

「あのさ、ウルフ。あの、…」

俺に瓜二つの女が橙龍国で捕らえられてるって話は本当なんだと思う。レイを助け出さなきゃ。それで、…

「あの、…」

ちゃんと元に戻らなきゃな。一緒にいるはずのトウマの行方も気になるけど、レイだってウルフを知ればきっと好きになる。ウルフのパワーは桁違いだし、何より、…レイのことを想ってる。痛いほど。

「…うん? どうした?」

俺の頬を摘みながら唇を弄ぶウルフの指をくわえた。指先と舌が絡まり合って遊ぶ。

「ほへも、…」
「うん? なんだ?」

上手く言葉に出来ない俺をウルフの優しい青い瞳が照らし出す。

俺も、…好きだよ、ウルフ。
だからお前が本当に欲しいものを。唯一、お前にあげられるものを。

…お前にやるよ。
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