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feel.1
05.
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「…気がついた?」
消毒液の匂い。清潔なリネン。
白い天井。カーテンの仕切り。
医療器具。点滴。心電図。
病院のベッドに寝かされているらしい。
身動きしたら、右肩に痛みと違和感があり、電車の中で通り魔的な犯行に巻き込まれて刺されたことを思い出した。
目を上げると、至極端正な顔立ちを心配そうに歪めた榊准教授が見えた。
「災難だったね」
榊さんが手を伸ばして私の額をそっと撫でる。
枕元に座って私を見ていた長身の榊さんがゆっくり私に近づいて、
その大きくて温かい手のひらが慈しむように私に触れた。
何かを意識するよりも早く、身体がピクリと跳ねて、
「ごめん。痛かった?」
優しい上司を心配させてしまった。
急いで首を横に振ると、榊さんが目じりに穏やかな笑みを刻んで、優しく瞳を緩めた。
榊 創太郎 准教授は、この春、私が勤務する中里大学薬学部付属研究センターに派遣されてきた若き准教授で、私の研究チームの最終責任者を務める、つまり、直属の上司である。
若くて才能に溢れていて、見た目は完璧に麗しく、物腰柔らかで大人の艶めいた色気もまとっているとあり、センター内、いや学部内、いやいや大学内で、今最も話題の人と言っても過言ではない。
「…泣いてた」
榊さんの長い指が慰めるように私の目の下をそっとぬぐった。
優しい指の感触が頬をくすぐる。
触れた指から優しさが浸透して、ささくれだった感覚神経を包み込んでなだめる。
「すみません、なんか、…昔の夢を見てたみたいで」
何気なさを装って、言い訳するようにつぶやくと、
「そうか」
榊さんは私の頭の上に手を置いて、ポンポン撫でた。
温かくて、大きくて、安心する。
私にとって榊さんは、直属の上司以上に特別な存在だ。
榊さんは。
榊さんも。
感情の匂いが視えない。
凪いだ海のような匂いがする。
包み込むように優しくて穏やかな、彼自身の匂いがする。
それは、
胸が痛くなるくらい切実で愛しい黎くんの匂いとは違うけれど、
呼吸することを許されているような心が落ち着く匂いで、
「傷口、痛む? 看護師さん呼ぼうか」
こんな人がずっとそばにいてくれたらいいのに、と願いたくなってしまう。
「痛くはないですけど、…」
言いながら頷くと、榊さんがナースコールを押してくれた。
「…そばにいるから」
低くセクシーな声を響かせて、私の頭を優しく撫でる榊さんの左手薬指には、
…指輪がある。
消毒液の匂い。清潔なリネン。
白い天井。カーテンの仕切り。
医療器具。点滴。心電図。
病院のベッドに寝かされているらしい。
身動きしたら、右肩に痛みと違和感があり、電車の中で通り魔的な犯行に巻き込まれて刺されたことを思い出した。
目を上げると、至極端正な顔立ちを心配そうに歪めた榊准教授が見えた。
「災難だったね」
榊さんが手を伸ばして私の額をそっと撫でる。
枕元に座って私を見ていた長身の榊さんがゆっくり私に近づいて、
その大きくて温かい手のひらが慈しむように私に触れた。
何かを意識するよりも早く、身体がピクリと跳ねて、
「ごめん。痛かった?」
優しい上司を心配させてしまった。
急いで首を横に振ると、榊さんが目じりに穏やかな笑みを刻んで、優しく瞳を緩めた。
榊 創太郎 准教授は、この春、私が勤務する中里大学薬学部付属研究センターに派遣されてきた若き准教授で、私の研究チームの最終責任者を務める、つまり、直属の上司である。
若くて才能に溢れていて、見た目は完璧に麗しく、物腰柔らかで大人の艶めいた色気もまとっているとあり、センター内、いや学部内、いやいや大学内で、今最も話題の人と言っても過言ではない。
「…泣いてた」
榊さんの長い指が慰めるように私の目の下をそっとぬぐった。
優しい指の感触が頬をくすぐる。
触れた指から優しさが浸透して、ささくれだった感覚神経を包み込んでなだめる。
「すみません、なんか、…昔の夢を見てたみたいで」
何気なさを装って、言い訳するようにつぶやくと、
「そうか」
榊さんは私の頭の上に手を置いて、ポンポン撫でた。
温かくて、大きくて、安心する。
私にとって榊さんは、直属の上司以上に特別な存在だ。
榊さんは。
榊さんも。
感情の匂いが視えない。
凪いだ海のような匂いがする。
包み込むように優しくて穏やかな、彼自身の匂いがする。
それは、
胸が痛くなるくらい切実で愛しい黎くんの匂いとは違うけれど、
呼吸することを許されているような心が落ち着く匂いで、
「傷口、痛む? 看護師さん呼ぼうか」
こんな人がずっとそばにいてくれたらいいのに、と願いたくなってしまう。
「痛くはないですけど、…」
言いながら頷くと、榊さんがナースコールを押してくれた。
「…そばにいるから」
低くセクシーな声を響かせて、私の頭を優しく撫でる榊さんの左手薬指には、
…指輪がある。
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