Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】 

remo

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05.

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「…黎くん、結婚してたんだ」

取り繕えなくて、何の覚悟もないのに、思ったことがそのまま口に出た。
さり気ない風を装いたかったのに、何だか棘のある言い方になってしまった。

黎くんは私を見つめたまま少し黙り込んで、

「…結婚してる奴が好きなんだっけ」

低くかすれた声でつぶやくと、少しだけ強引に私の手を取った。

滑らかな手。長い指。心地よい肌触り。
黎くんの温かい手。救いの手。
涙が出るほど愛しい手。

「…良かったね」

指の間に指を絡めて、黎くんはどこか意地悪に口の端を上げた。

鮮やかな黄緑色。蛍光黄色。
興奮。野次馬。注目。好奇心。
蜂の羽音。大量発生した虫。

さっきまで全然気にならなかったのに、急に周りにいる人たちの視線が気になった。

発酵したチーズのような匂いがする。

釣り合ってない。分不相応。身の程を知れ。
離れて。不潔。ウザい。キモい。消えろ。

消えろ。消えろ。消えろ。

ふさわしくないどころじゃない。
この手を取るのは、罪。

すぐそこに奥さんとお子さんがいる。
みんな見ている。

不正。不倫。不道徳。社会的制裁。
感情の匂いが渦巻く。

この手を振りほどけたらいいのに。

生まれて初めて、何を失っても手に入れたいと思ったものは、

とっくに他の人のものだった。



翌朝。

「男が手をつなぐ時。既婚男性の恋愛心理、…ねぇ」

ピンクのフェロモンを撒き散らしながら出勤してきた芽衣子さんが、さり気なく私の後ろに立ってスマートフォンの画面をのぞき込んだ。

「め、…芽衣子はんっ⁉」

カンニングがバレた中学生のような気分で、スマホの画面を隠したけれど、既に研究室内の注目を集めた後だった。

「男?」「手つなぎ?」
「…既婚」「…恋愛」

研究室がざわついて、一度私に集中した視線が、一斉に私から榊さんに移った。

「…ん? 何かあった?」

デスクでパソコンに見入っていた榊さんが穏やかな表情で顔を上げる。

目が合うと、心配するなというように頷いてみせる。

から。

また、皆さんの視線が榊さんから私に戻ってきた。

とりあえず、

「…薬品庫、行ってきます」

逃げることにする。

「既婚男性って魅力的ですよね」
「え? そうなの、美南ちゃん」

研究室を出る時に、美南さんの声が聞こえてきた。

「包容力っていうか。余裕が違うっていうか。あと、…刹那的で」

「な。…なんか、小悪魔」

どうしたらいいのか分からない。

諦めるのは慣れているはずなのに。
距離を置くのは得意なはずなのに。

左手首でブレスレットが揺れる。

黎くんのバカ。
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