Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】 

remo

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feel.8

02.

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榊さんは完璧なのに私は終わってる。

デートなのに黎くんがくれたブレスレットを付けてるところから、
ホントにもういろいろ終わってる。

「あ! ブスでおわってるオバサン!」

ちょっと。
微妙に核心突いてくるのやめて。

お手洗いに行ったら、出入り口で聞き覚えのある声にサクっと刺された。

愛くるしい見た目に反する口の悪さ。

「…ブスおば?」

まとめ方雑だな、おい。

「…斗哉くん。こんにちは」

名前を呼ぶと、斗哉くんは少しだけ照れたように笑った。
ちょっとはにかんだような感じ、高校時代の黎くんみたい。
やっぱり斗哉くんは黎くんに似ている。

まあ、黎くんの子どもなんだから、当たり前なんだけど。

「もう、斗哉。先に行かないで」

お手洗いの方から声がして、
たとえトイレを背景にしていても、芳しい花の香り漂う天使みたいに完璧美人の澪さんが出てきた。

可愛い。美しい。素晴らしい。
しかもやたらといい匂い。
いつ見ても、何度見ても、同じ人種とは思えない。
どうせ生まれてくるのならこんな人に生まれたかった。

黎くんが選んだたった1人の。
奥さん。

「あ、先生。またお会いできて嬉しいです」

澪さんが私を認めて、人好きのする笑みを浮かべてくれた。

清らか過ぎて泣きたくなる。

出来ればもう二度と会いたくなかった。
なんて。

正反対の私は醜い。

「それ。黎の初めてのデザインなんです」

そう言って、澪さんは本当に嬉しそうな顔を私に向けてくれたけど、

「えっ⁉」

そもそも罪悪感の塊になっている私は冷や汗ものだった。

澪さんの視線の先には黎くんからもらったブレスレットがある。

つまり。見透かされてる?

澪さんは、全部分かってる?
私の邪な気持ち。

心臓が嫌な感じに軋んで、うるさいくらい音を立てた。

未練がましくいつまでもブレスレットをつけてるなんて、
奥さんからしたら絶対いい気はしないのに、澪さんから悪意ある匂いはしない。

もしかしたら、黎くんはデザイナーさんだから、人にあげることが多いのかもしれない。

いや。でも。だけど。

引きつり笑いで固まったまま、頭の中を混乱が駆け巡り、何かが引っかかった。

…ん? 初めて⁇

瞬いて澪さんを見返すと、

「高校生の時、初めて描いたデザインなんです。捨てようとしたけど、捨てられなかったみたいで。その道に進んでから、何度も実用化を勧められたんですけど、絶対に承諾しなかった」

澪さんは微笑みを浮かべたまま、大きな瞳で真っすぐに私を見た。

「ただ1人のためだけに、描いたものだから」

…射られる。

胸がつかまれて、苦しいくらい高鳴って、呼吸を忘れた。

黎くん。

だって。黎くんは。

『それ、昨日作ったんだけど、…似合うね』

ずるいよ、黎くん。
そんな大事なもの、なんで今くれたの?

結婚して、子どももいるのに。
今更もう、どこにも行けないのに。
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