Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】 

remo

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feel.8

03.

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デートして、引っ越して、黎くんから離れようって決めたのに。

こんなの、ずるいよ。

今更どんなに後悔しても、もう遅いけど。
遅すぎるけど。

猛烈に過去を悔やんだ。

『…忘れ物したから、ちょっと待ってて』

どうして。
逃げてしまったんだろう。
何を怖がっていたんだろう。

黎くんは、手を差し伸べてくれていたのに。

失うことを恐れて手を伸ばさなければ、何も始まらないのに。
手に入れなければ、失うことだってできなかったのに。

何も言えずに立ち尽くしている私に、

「渡せてよかった。先生、黎のこと、…」

澪さんが微笑んで、何かを言いかけた。

その時。

ひゅん、と風を切る鋭い音がして、背後から私の肩口をかすめて、何かがレストランの壁に激しい音を立ててぶつかり、爆発して煙が立ち昇った。

「きゃあああっ」「うわあああっ」
「何⁉ 何が起こったの⁉」

レストラン内が騒然となり、頭上からおぞましい悪臭が漂ってきた。

濃い紫。極めて黒に近い深い赤紫。
強い緊張。後がない。不快音。

ANだ。ANの匂いだ。
ANで感情が崩壊して暴走した人の匂いだ。

煙で霞む視界の中、頭上を見上げると、
自然光を取り入れるためガラスを利用した開放的なレストランの屋根に、
戦闘服のような恰好をした人がいて、
天窓からクロスボウのようなものを構えているのが見えた。

クロスボウは、狩猟やスポーツに使われているけど、
かつては戦場で小型の爆発物を投擲とうてきするために使われ、多大な効果を上げたという。

さっき、壁にぶつかった矢が爆発したのは、恐らく爆発物が括り付けられていたから。

そしてまた、爆発物の取り付けられた矢が放たれようとしている。
こちらに。狙いを定めて。

「斗哉くんっ、伏せて‼」

頭で考えるより早く身体が動き、斗哉くんを床に押し倒して転がった。
頭上を矢が通り抜け、再びひび割れかけた壁にぶつかって爆発する。

まばゆい閃光が網膜を焼く。
火の粉が飛び散り、轟音と振動が走る。
立ち昇る煙。鼻を突く焦げた匂い。

壊れた壁の破片が降りかかってくる中、
手で口を覆って、じりじりと床を這う。

ANで暴走した人たちは私に狙いを定めてきた。
今またANが共鳴して、私が標的にされているなら。
近くにいる澪さんと斗哉くんが危ない。

次の矢が放たれるよりも早く、なるべく遠くに離れないと。

矢の恐怖よりも他の人を巻き込まないことだけに集中する。

トイレの中に引き返し、
ドアノブに足をかけて高所に取り付けられている内倒し窓によじ登る。

壁に遮られているから、屋根の上からは狙いを定めにくいはず。
ほとんど希望的観測にしがみついて、狭い窓に身体をくぐらせた。
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