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feel.8
05.
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焼け焦げた匂い。火の手。粉塵と土埃。
パトカーと救急車のサイレン。
誘導を試みる園内のアナウンス。
「押し合うと大変危険です。犯人は取り押さえられました。皆さん、落ち着いて避難してください」
レストラン周辺は煙に包まれ、建物も一部が崩れかけ、
騒然として逃げ惑う来客で混乱を極めていた。
ついさっきまで、明るく開放的で笑顔と癒しに満ちていた園内の、
一瞬の変貌ぶりに頭がついていかない。
現実感が乏しくて、もしかしたら、夢を見ているのかもしれないとさえ思う。
だいたい。
黎くんがいるし。
背中に回された力強い腕の感触がする。
傍らで走る黎くんから温もりを感じる。
「黎くん、…」
黎くんが助けに来てくれた。
そんな都合のいいことある?
確かめたくて、黎くんのシャツをつかむと、
「どうした?」
黎くんが足を止めて、私に向き直ってくれた。
すぐそこに、手を伸ばせば触れられる距離に、黎くんがいる。
危険な状況を回避できて、アドレナリンが過剰なのかも。
黎くんに伝えたいことが込み上げた。
本当は一つしかなかった。
ずっとそれしかなかった。
もう遅いけど。今更遅すぎるけど。
これが夢なら。後悔したまま死ぬなら。
忌み嫌われた人生の中で、たった一人、手を差し伸べてくれた。
黎くんのこと。
「…だいす、」
伝えかけた言葉は、
「パパっ‼」
全力で飛び込んできた小さな塊に遮られた。
「…斗哉。大丈夫だったか」
黎くんが優しく斗哉くんを抱き上げる。
「パパ、すごかったね! わるものやっつけたね‼」
黎くんにしがみついて、斗哉くんが興奮した様子で一息に話す。
「いしなげたよね? いしつぶてだよね。ぼく、テレビでみた!」
黎くんは何も言わずに、斗哉くんの頭を撫でた。
そうか。
遅ればせながら理解した。
戦闘服姿の人が屋根から落ちてきたのは、黎くんが加勢してくれたからなんだ。矢が逸れたのも、黎くんのおかげだったんだ。
「黎、良かった。こんなことになって、会えないかと思った」
土埃で汚れてもやっぱり美しい澪さんが近づいてきた。
そうか。
遅ればせながら理解した。いや、さすがに遅すぎだわ。
黎くんがここにいるのは夢でも偶然でもなく、パパとしてなんだ。
今日は家族の休日だったんだ。
「ゆの。お前、何か、…」
黎くんが私に向き直ってくれたけど、もう言えない。
そもそも死んでも言っちゃいけないのに、血迷った。
「黎くん。助けてくれてありがとう」
今だけは、笑え。意地でも笑え。全力で、笑え。
奥歯を噛みしめて笑顔を作った。
「それと、これも」
煙と埃にまみれても輝きを失わない、左手首のブレスレットをかざした。
「お守り、…本当にありがとう」
黎くん。
私を守ってくれてありがとう。
パトカーと救急車のサイレン。
誘導を試みる園内のアナウンス。
「押し合うと大変危険です。犯人は取り押さえられました。皆さん、落ち着いて避難してください」
レストラン周辺は煙に包まれ、建物も一部が崩れかけ、
騒然として逃げ惑う来客で混乱を極めていた。
ついさっきまで、明るく開放的で笑顔と癒しに満ちていた園内の、
一瞬の変貌ぶりに頭がついていかない。
現実感が乏しくて、もしかしたら、夢を見ているのかもしれないとさえ思う。
だいたい。
黎くんがいるし。
背中に回された力強い腕の感触がする。
傍らで走る黎くんから温もりを感じる。
「黎くん、…」
黎くんが助けに来てくれた。
そんな都合のいいことある?
確かめたくて、黎くんのシャツをつかむと、
「どうした?」
黎くんが足を止めて、私に向き直ってくれた。
すぐそこに、手を伸ばせば触れられる距離に、黎くんがいる。
危険な状況を回避できて、アドレナリンが過剰なのかも。
黎くんに伝えたいことが込み上げた。
本当は一つしかなかった。
ずっとそれしかなかった。
もう遅いけど。今更遅すぎるけど。
これが夢なら。後悔したまま死ぬなら。
忌み嫌われた人生の中で、たった一人、手を差し伸べてくれた。
黎くんのこと。
「…だいす、」
伝えかけた言葉は、
「パパっ‼」
全力で飛び込んできた小さな塊に遮られた。
「…斗哉。大丈夫だったか」
黎くんが優しく斗哉くんを抱き上げる。
「パパ、すごかったね! わるものやっつけたね‼」
黎くんにしがみついて、斗哉くんが興奮した様子で一息に話す。
「いしなげたよね? いしつぶてだよね。ぼく、テレビでみた!」
黎くんは何も言わずに、斗哉くんの頭を撫でた。
そうか。
遅ればせながら理解した。
戦闘服姿の人が屋根から落ちてきたのは、黎くんが加勢してくれたからなんだ。矢が逸れたのも、黎くんのおかげだったんだ。
「黎、良かった。こんなことになって、会えないかと思った」
土埃で汚れてもやっぱり美しい澪さんが近づいてきた。
そうか。
遅ればせながら理解した。いや、さすがに遅すぎだわ。
黎くんがここにいるのは夢でも偶然でもなく、パパとしてなんだ。
今日は家族の休日だったんだ。
「ゆの。お前、何か、…」
黎くんが私に向き直ってくれたけど、もう言えない。
そもそも死んでも言っちゃいけないのに、血迷った。
「黎くん。助けてくれてありがとう」
今だけは、笑え。意地でも笑え。全力で、笑え。
奥歯を噛みしめて笑顔を作った。
「それと、これも」
煙と埃にまみれても輝きを失わない、左手首のブレスレットをかざした。
「お守り、…本当にありがとう」
黎くん。
私を守ってくれてありがとう。
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
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