Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】

feel.9

01．

『…大丈夫。俺が守ってやる』

私を見つけてくれてありがとう。
私を救ってくれてありがとう。

形にしてくれてありがとう。
ずっと大切にしてくれてありがとう。

黎くんが私の頬に手を伸ばして、その滑らかな手のひらでそっと触れた。
何か言いたげに澄んだ瞳が私をとらえて揺れる。

ほんの一瞬、キスしてくれるんじゃないかって、自分勝手に期待してしまうほど、黎くんの瞳が愛しさに揺れて、

でも。

「ゆの。だいじにしろよ」

そんなことはあるはずもなく、斗哉くんの偉そうな声に現実に戻された。

黎くん、私の顔があんまり汚いから、ぬぐってくれたんだ。

「それ、せかいいちだいじなひとにあげるんだからな」
「おい」

黎くんが斗哉くんの両頬を片手でつかんで潰す。

「お前が言うな」

今度こそ本当に泣きそうになって、焦って斗哉くんの髪をそっと撫でた。

「ありがとう、斗哉くん」

「ブスおば」から昇格させてくれて。

「深森っ」

声が聞こえて振り返ると、私に駆け寄ってきてくれる榊さんの姿が見えた。
ほんのりとANの残香が漂う。
まだ園内は混乱した人が行き交い、騒然としている。

「じゃあ、…」

頭を下げて踵を返した。
未練を断ち切るように勢いをつけた。

振り返らずに歩くのに、全神経を集中させ、足を踏み出すのに全力を注いだ。

黎くん。

私も黎くんが世界一大事だよ。
だから黎くんを困らせるようなことはしない。
黎くんが幸せなら。

それでいい。




「北岡琢磨 40歳。大のミリタリー好き。
自衛隊入隊歴あり。ただし、半年足らずで退職。その後は定職に就かずにアルバイトを転々とする。
ここ数年はクロスボウにのめり込み、大会に出場したこともある。
母親と暮らす自宅は、軍事関連ショップと見まがうほどのグッズで埋め着くされ、一部ナイフや銃など、入手経路の確認が必要なものも所持。
爆発物は自宅で製造したらしく、化学物質や火薬類が多数発見されている」

有住教授が苛立たし気に事件の一報を伝える新聞を机に投げた。

昨日、郊外の動物園で起きたクロスボウ乱射事件は、その衝撃的な内容も手伝って大々的に報道されている。

唯一の救いは、取り押さえられた北岡を始め、事件に巻き込まれた来園者の中に重傷者がいなかったことだろう。

勿論、私も。
黎くんのおかげでピンピンしている。

…身体は。

「なんで、この男がANを持っていたの⁉」

教授の悲壮な声が耳を打つ。

今朝、検査結果が、センターに届いた。
前回の電車・タクシーの事件と同様、北岡の体内からもANの成分が検出された。

違うのは、北岡は中里大学病院に来たことがない、ということ。
つまり、大学病院の製薬に紛れ込ませたものとは別に、市場にANが出回っているということになる。