Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】

feel.11

05．

どうして私はこうなんだろう。
もう少し。
上手に、誠実に、生きたかった。

もう。何も。残っていない。
私の生きている意味は、もう他には何もない。

聞き苦しい不快音を発して魂の懺悔をした。

つもりだったけれど、
病室には困惑したような静けさが漂って、それから。

返ってきた反応は、思っていたのとは違っていた。

「ええっと、…黎、喜ぶと思うよ？」
「うん。それ、本人に言ってやって」

澪さんと瑛多くんが励ますように、ぎこちなく頷く。

耳障りな私の懺悔を、多分聞き取ってくれたんだと思うけど、
…何か覚悟していた反応と違う。

事あるごとに向けられる、拒絶。排除。怒り。蔑み。嫌悪。
これまで向けられ続けてきた、その類の感情を感じない。

「…らぶらぶ？」

可愛らしく首を傾げる斗哉くんと目が合った。

もちろん、そんな浮かれた話ではない。
はず。…だよね。

なんだか噛み合っていない気がして、澪さんと瑛多くんに視線を巡らせると、
2人とも、生温かく見守るような目でうっすらとした笑みを浮かべている。

瞬くと、引っ込みのつかなくなった涙が、混乱を連れて頬を滑り落ちていった。

「…結婚、して、ます、よね、…？」

再びしわがれ声を絞り出すと、瑛多くんがなぜか嬉しそうに答えてくれた。

「俺はいつでもいいんすけど、澪が恥じらって、…」
「ちょっと、うるさいよ、瑛多」
「だって、澪のウェディングドレス姿、めっちゃくちゃ綺麗に決まってるし―――っっ」
「もう。バカ瑛多」

絶妙に幸せマスカットな香りが漂い始める。

そういえば、瑛多くん、婿候補って言ってたような。

「…らぶらぶ？」

斗哉くんがやれやれだぜって顔をする。

そんな都合よく考えちゃだめだと諫める声と。
いや、だって他に考えられないと逸る気持ちと。

急に心臓がうるさく高鳴り始めた。

なんだか自分がとてつもなく重要な勘違いをしているような気がする。

どう見ても、
澪さんは瑛多くんとカップリングが成立しているような気がする。

「…黎くん、結婚、…は？」

絶望している場合じゃない。
もし。黎くんと澪さんが結婚していないなら。

『ずっと好きだよ』

言えないと思っていたこと、ちゃんと黎くんに言いたい。
伝えなきゃ、死んでも死にきれない。

片言みたいな私の言葉を、何とか聞き取ってくれたらしく、

「黎？　結婚しようって？」
「おおっ、先越されるか⁉」

澪さんと瑛多くんが、一気に祝福ムードを醸し出しかけた時、

「一ノ瀬さん、気づかれました。面会できますよ」

ノックの音が聞こえて、病室に看護師さんが呼びに来てくれた。
身体が勝手に反応して、ベッドから飛び降りる。

顔はぐちゃぐちゃ、身体はよれよれ、精神はぼろぼろ、…

だけど。

「あ、ちょっと、大丈夫ですか？　あの、廊下は走らないで！」

看護師さんの驚いた声が後ろから聞こえる。
黎くんの病室まで猛然と走った。

今更だけど。もう遅すぎるけど。
あの日置いてきてしまった私の生きる意味を。
世界で一番大切な人に伝えることが許されるなら。

未だかつて、こんなに急いだことはない。
廊下を走って怒られたことも。