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feel.12
01.
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黎くんの病室に飛び込んだら、白いベッドの上で半身を起こしていた黎くんが驚いたような目を向けた。
息が切れる。動悸が乱れる。こめかみが脈打つ。
頭の後ろがぐらぐら揺れる。
勢い込んできたはいいけど、いざ黎くんを目の前にしたらどうしていいか分からなくなる。
緊張と混乱。そして黎くんが無事でいてくれたことへの安堵。
「黎くん、…」
呼んだつもりの声は、踏まれたヒキガエルくらい醜く潰れている。
「…ゆの?」
黎くんの美しい顔に擦れた跡がある。
腕に点滴の針が刺さっている。
ところどころに痛々しく包帯が巻かれている。
なのに、黎くんの声は、私みたいにしわがれた不快音じゃなくて、
いつもみたいに甘くて優しい少しかすれた声で、
「大丈夫か? どこか痛い?」
黎くんの方が重症なのに、私を心配してくれる。
いつも私を守って、私に手を差し伸べてくれる。
胸がいっぱいになって、熱いものが込み上げる。
「黎くん、…」
黎くんのベッドに導かれるように近づいて、そっとしがみついた。
神様ありがとう。
こんな素敵な人に会わせてくれて。
この人を助けてくれて。
「ゆの。無事で良かった」
黎くんは、こんな状態なのにすごく大切なものみたいに私を呼んで、その滑らかな手で私の頭を優しく撫でてくれた。
「黎くん、ありがとう。…大好き」
涙と一緒に想いが溢れた。
私には、それしかない。
他には、何もない。
だけど。もう。その想いだけあればいい。
「…え?」
わずかに間が空いた後、黎くんが我に返ったように私から身を離すと、
私をまじまじとのぞき込んだ。
え。ちょっと、改めて見られると辛い。
黎くんに見てもらえるような状態じゃないし。
やっぱり言っちゃダメだったかもしれないし。
急にものすごく自信がなくなって、黎くんを直視できない。
「…ゆの?」
黎くんがそのきれいな手を私の頬に添えて、長い滑らかな指で涙をそっと拭う。
柔らかい黎くんの指の感触。
次いで唇に、甘く潤んだ唇の感触。
「もう一回、言って」
すぐ目の前に、黎くんがいる。
優しい顔。優しい温もり。優しい眼差し。
黎くんの澄んだ美しい瞳が甘やかに揺れる。
言わなきゃ伝わらない。
逃げてちゃつかめない。
「…好きです。黎くんが好き。大好き、大好き、…っ」
黎くんをちゃんと見たかったけど、涙の膜に滲んで見れない。
黎くんにちゃんと伝えたいのに、声が潰れて言葉にならない。
黎くんの瞳に映る私は目も当てられない状態なのに、
黎くんは愛しさだけを浮かべて、私を見ていた。
「ゆの、…」
「はい、スト―――ップ‼」
黎くんの麗しい唇がもう一度触れたか触れないかのところで、明るく元気な大声が病室に響き渡った。
「…瑛多か」
黎くんがドアの方を一瞥して、舌打ち混じりに片頬を歪めた。
息が切れる。動悸が乱れる。こめかみが脈打つ。
頭の後ろがぐらぐら揺れる。
勢い込んできたはいいけど、いざ黎くんを目の前にしたらどうしていいか分からなくなる。
緊張と混乱。そして黎くんが無事でいてくれたことへの安堵。
「黎くん、…」
呼んだつもりの声は、踏まれたヒキガエルくらい醜く潰れている。
「…ゆの?」
黎くんの美しい顔に擦れた跡がある。
腕に点滴の針が刺さっている。
ところどころに痛々しく包帯が巻かれている。
なのに、黎くんの声は、私みたいにしわがれた不快音じゃなくて、
いつもみたいに甘くて優しい少しかすれた声で、
「大丈夫か? どこか痛い?」
黎くんの方が重症なのに、私を心配してくれる。
いつも私を守って、私に手を差し伸べてくれる。
胸がいっぱいになって、熱いものが込み上げる。
「黎くん、…」
黎くんのベッドに導かれるように近づいて、そっとしがみついた。
神様ありがとう。
こんな素敵な人に会わせてくれて。
この人を助けてくれて。
「ゆの。無事で良かった」
黎くんは、こんな状態なのにすごく大切なものみたいに私を呼んで、その滑らかな手で私の頭を優しく撫でてくれた。
「黎くん、ありがとう。…大好き」
涙と一緒に想いが溢れた。
私には、それしかない。
他には、何もない。
だけど。もう。その想いだけあればいい。
「…え?」
わずかに間が空いた後、黎くんが我に返ったように私から身を離すと、
私をまじまじとのぞき込んだ。
え。ちょっと、改めて見られると辛い。
黎くんに見てもらえるような状態じゃないし。
やっぱり言っちゃダメだったかもしれないし。
急にものすごく自信がなくなって、黎くんを直視できない。
「…ゆの?」
黎くんがそのきれいな手を私の頬に添えて、長い滑らかな指で涙をそっと拭う。
柔らかい黎くんの指の感触。
次いで唇に、甘く潤んだ唇の感触。
「もう一回、言って」
すぐ目の前に、黎くんがいる。
優しい顔。優しい温もり。優しい眼差し。
黎くんの澄んだ美しい瞳が甘やかに揺れる。
言わなきゃ伝わらない。
逃げてちゃつかめない。
「…好きです。黎くんが好き。大好き、大好き、…っ」
黎くんをちゃんと見たかったけど、涙の膜に滲んで見れない。
黎くんにちゃんと伝えたいのに、声が潰れて言葉にならない。
黎くんの瞳に映る私は目も当てられない状態なのに、
黎くんは愛しさだけを浮かべて、私を見ていた。
「ゆの、…」
「はい、スト―――ップ‼」
黎くんの麗しい唇がもう一度触れたか触れないかのところで、明るく元気な大声が病室に響き渡った。
「…瑛多か」
黎くんがドアの方を一瞥して、舌打ち混じりに片頬を歪めた。
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