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海野山猫

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忘却の灰色(グレイ)

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 雨が・・・降っていた。どんよりと曇った空から降り注ぐ大粒の雨は、横たわった体に当たるとパチパチと弾ける。朧気な意識の中、右の手だけは温かかった事を覚えている。
 「っ・・・・・・あぁ、朝か。」
 ベッドから身を起こして縁に腰掛ける。寝起きはどうにも頭が働かない。窓の外は雨が降っている。あんな夢を見たのはそのせいか。もう半年も前になる。
 「起きてる?」
 「あぁ、いま起きた。」
 「じゃあ・・・おはよう。グレイ。」
 「おはよう。マシロ。」
 部屋を訪れたのは白髪の少女だった。頭が真っ白な白髪だからマシロ。そして灰色髪の俺はグレイ。なんともそのままな名前だ。
 「親父さん、呼んでる。」
 「今行く。」
 ベッド一つ置くと何も置けなくなる様な物置部屋。しかし雨風を凌げて夜露にも濡れず、温かい布団で眠れる。それが如何に幸せな事か、この街で暮らしていると実感させられるのだ。
 「くぁっ・・・はぁ。」
 大きな欠伸が一つ漏れた。
 「おぅ。今日は珍しく遅かったな。体調悪いのか?」
 「いや、夢を見てた。拾われた時の。」
 「拾われた時・・・か。そういやあん時も雨が降ってたな。もう半年か。早いもんだ。」
 着替えてリビングへ行くとガタイのいい中年男性が新聞を開いていた。彼はジダン。通称親父さんだ。
 親父と呼んでいるが、実の父親ではない。半年前、俺とマシロはこの街の路地裏で行き倒れていたそうだ。そんな俺達を拾って面倒を見てくれたのが親父さんだった。一週間くらい俺達二人はずっと眠っていたらしい。そして目を覚ましてみれば二人とも仲良く記憶喪失。そんな厄介者を見捨てなかった親父さんには本当に頭が上がらない。
 「そういやマシロ達はどこ行ったんだ?」
 「あいつらか?卵を切らしたとか言って買いに行ったよ。しかし参ったよなぁ。最近はなんでも値上がりだ。」
 この狭くて小さな家には俺とマシロと親父さん以外に二人の幼い姉弟が暮らしている。姉のアネモネと弟カズラは仲がよく、新参者の俺達二人にも懐いてくれているのは有り難い。そしてこの姉弟も親父さんが拾って育てている血の繋がらない家族だ。何故慈善的な事をしているのかと尋ねたことがあったが、親父さんは少し困った顔をして
「ただの・・・約束だ。」
としか言わなかった。
 「おぉそうだった。お前に頼みたい事があったんだ。」
 「いつものバイトか?」
 「いや、今日はただのお使いだ。こいつをトラッシュ地区の右利きのゴンザって奴に渡しに行ってくれないか。」
 「右利きのゴンザ?」
 「ははっ、会えばわかるさ。見てくれは悪いが良い奴さ。あぁそうだ。まだ朝飯食ってねぇだろ。途中でなんか食ってけ。」
 「悪いな親父さん。」
 「いいんだ。お前さんとマシロが来てくれてからアネモネとカズラも前より笑顔が増えてくれたしな。」
 親父さんから渡されたのは封筒と少し多めの小遣いだった。封筒の厚さ的に手紙だと思われる。こうして何かを届けてくれと言われたのは初めてで少しだけ不安だ。
 「それじゃ支度したらすぐ行ってくる。」
 「上じゃあんまり出たとは聞かねぇが、もし魔獣に出くわしたらすぐに逃げろよ?お前がいくらでも触らぬ神に祟りなしってやつだ。」
 「大丈夫だ。そこまで自惚れてないさ。」
 「まったく頼もしいよ。」
 そうして身支度をする為に洗面台へと向かった。今いるのはガベッジ地区。目的地であるトラッシュ地区は反対側だ。少し急いで行かないと帰ってくる頃には日が落ちてしまうだろう。財布には痛いがロープウェイも考えなくてはならないだろうか。
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