12 / 36
助けてくれたのは大猩々のアラン
しおりを挟む目が覚めるとベッドで寝ていた。
シエロさんのところで住まわせて貰っていた部屋の、つるつるすべすべのシーツや掛布も気持ちが良かったけど、こちらは日本でいうところの綿のような素材のシーツやタオルケット、使い込まれている毛布などでぬくぬくと暖かい。
自分を見ると丁寧に手当てされているのがわかる。
あの助けてくれた大きい人がやってくれたのだろうか。
このベッドは身体の大きな彼に伴ってとても大きくて抱き上げられたときと同じ匂いがする。
するとキィっというドアを開ける音と共に今考えてた彼が入ってきて起き上がっている僕を見ると少しだけ目を見開く。
彼は足早にこちらへ来てくれる。
「目が覚めたのか。おかしなところはないか?あの後怪我が原因であろうが高熱がでてな、丸2日起きないから心配した。」
ほっと安心したように息を吐いて笑顔を見せてくれる。
笑いなれてないのか僕を気遣ってくれているのかその笑顔はとてもぎこちなくて僕の心を暖かくさせる。
「本当に助けてくれてありがとうございました。もうずっとあのままだと思っていました…あの、貴方はどうしてあの場所に…?」
「あー…いや、まぁ、いろいろとだな。あぁそうだ、黒羊の2人は無事だ。アイラさんの方が角を折られているがちゃんと手当てもされていて元気だ。昨日はここに案内してずっと付いていてくれていたんだ。」
「っ、本当ですか!?無事で良かったです。ほんとうに。昨日居てくれたんですね…会いたいです。」
「2人とも泣いていたぞ。今日はとりあえずルーラに戻ってやらなくてはいけないことをやって、また戻ってくるからそれまでここに居てくれと伝言を頼まれた。」
話ながらおでこに手を当てて熱を測ったり水差しから水をついで渡してくれたりしてくれる。
「いや、でもそれは流石にご迷惑では…えっと、」
名前を呼ぼうとして、聞いてないことに気がついた。
「こちらは全然かまわない。気にしないでくれ。自己紹介がまだだったな、俺はアランという。すぐそこの冒険者ギルドでギルド長をしている。困っている人を助けるのは当たり前だ。君の名前はアイラさんたちから聞いたが、君の口から教えて欲しい。」
「えっと、じゃあアイラさんたちが来るまでお世話になっても良いですか?本当にすみません。僕はミナトと言います。18歳で人族です。アランさんは何の種族がお聞きしてもよろしいですか?」
「悪い。人族には獣人の種族はわかりにくいよな。俺は大猩々で年は36だ。アランさんではなくてアランと呼んでくれ。敬語もなくていい。」
「…しょうじょう、」
猩猩って確かあの有名な映画にでてきた人間を喰うから置いてけって言ってたやつ…当時気になって調べたけど、大猩猩はゴリラだったはずだ。言われてみれば大きな体も筋肉がすごくて厚い胸もそのものだ。耳が人族と似ているのも頷ける。大きくて強くてかっこいいなあとじっと見つめると困ったような顔をされてしまう。
「すまない。やはり怖いか?体が大きい種族はそれだけで人族には恐怖感を与えると聞く。」
「え?いや!アランさんは全然怖くないです。僕を助けてくれましたし。でも、もしかしたら他の大きい獣人さんは怖いかもしれないです…イルダも大きかったし、きっともっと大きい獣人さんもいるでしょうし…アランさんほど年の離れた人を呼びつけにする訳にもいきませんし、敬語は癖なんです。」
見た目は体が大きくて言い方が悪いけど顔も強面で、でもこの人はこんなにも優しい。
「そうか。なら良かった。癖はとりあえず仕方がないとして、怖くないのなら名前はアランと呼んでくれないか?慣れたら敬語も外してくれ。」
そう言う言い方をされると断れない。
「…はい。じゃあアランと呼ばせて頂きます。ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。」
アランは嬉しそうに頭を撫でてくれて何故か僕もその顔をみて嬉しくなった。
それからアランが作ってくれたミルク粥を食べて、少し話しているとさっき起きたばかりだというのに眠くなってしまう。
「まだ病み上がりで体は疲れているんだ。ゆっくり休め。」
そう言って寝かせてくれて、毛布と掛布を首もとまであげてくれる。
その時点でもう僕は夢と現実を行ったり来たりしていたのだけれど、アランが立ち上がると思わず飛び起きて大きな手を掴んでしまう。
自分で自分の行動の意味がわからず
「あ、ごめんなさい。何だろう。」
えへへと笑って誤魔化す。
1度起きてしまったら、目を閉じるのが怖くなってしまった。
寝て起きて、またイルダのところにいたらどうしようと考えてしまう僕は本当に弱い。
下を向いて涙を堪えていると1度布団を剥いで僕を軽々と抱いて横へずらし隣にアランが寝転んで一緒に布団に入る。
「…高熱で寝込んでいるときも魘されていた。怖いのは当たり前で普通の事だ。もう大丈夫だ。怖がらなくて良い。」
そう言って控えめに抱き寄せてくれて僕は巣の中で母鳥に守られている雛鳥のように安心して眠りについた。
暖かくてふわふわした夢を見て、その夢が内容は覚えていないけど幸せな夢で、起きたときにアランは隣にいなかったけど、抱き締めて寝てくれたお陰で落ち着けたしドアの外から聞こえてくる生活音を聞きながらゆっくりとベッドからでた。
ドアを開けると廊下と階段がありここは2階だったことを知る。
2階はこの部屋だけらしい。
僕はペタペタと階段を降りるがアランがズンズンと近づいて来てスッと抱き上げられる。
「もう歩いて大丈夫なのか?大丈夫だとしても裸足で歩くな。冷えるだろう。」
「大丈夫です。それに重いだろうし自分で歩けます…!」
「いや全然重くないぞ。俺が世話を焼きたいんだ。慣れてくれ。」
そしてダイニングテーブルの椅子に下ろすとモコモコの靴を履かせてくれる。サイズ的にアランのではなさそうだ。
「この靴、あったかいです。ありがとうございます。」
「昨日、リズさんとアイラさんがミナトの事をみててくれている間にいろいろ用意したんだ。足りないものはまた買いに行こう。」
「僕のためにわざわざすみません。仕事を探して、ちゃんとお金はお返ししますので。」
「俺がしたくてやったことだから不要だ。だがそうだな、ミナトの体調が万全になったら家事などを手伝ってくれると助かる。」
「それはもちろんです!」
気を使わせない為にそう言ってくれるのがわかる。
絶対にお金も返して恩返しもしよう、と胸の中で決意を新たにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
880
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる