貴方は僕の運命のひと

まつぼっくり

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穏やかな1日

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椅子に座ったまま部屋の中をくるりと見渡す。
暖色系で揃えられた家具は落ち着いている。
1階は仕切りのないらしいこの家はキッチン、小さいカウンター、僕が座っているダイニングテーブル、先ほど降りてきた階段、ラグの上にソファーセットと収まるところに収まっている。

ドアの向こうは何だろうかとつい眺めてしまう。

「あっちは風呂とトイレだ。これ飲んだら使い方を教える。」

コトリと音を立てて湯気のたつマグカップが置かれた。

「カフェオレ。好きだって聞いた。」

「わ、すみません。ありがとうございます。頂きます。」

カフェオレは良くアイラさんが勉強の合間に淹れてくれたなと思いを馳せる。

「美味しいです。あとでキッチンの使い方も教えてもらえますか?」

「あぁ。体調が大丈夫そうなら晩飯は一緒に作るか?」

「たくさん寝たので大丈夫です…!でも僕料理は苦手で…リズさんに教えてもらって勉強していたんですけどね?足手まといかもしれませんが、お手伝いしてもいいですか?」

野菜の皮剥きがやっとできるようになったレベルです。と恥ずかしながら告げるとくつくつと楽しそうに笑う。

「手伝ってくれるだけで助かる。いつもは1人でやっているし、俺はこう見えて料理はできる方だからな、2人でやるのは楽しそうだ。」

それからカフェオレを飲みながら晩御飯の献立を一緒に考えた。
と言っても、病み上がりの僕を気遣ってくれて鶏肉と野菜のリゾットになったのだが、久しぶりに料理するのが楽しみでついにこにことしてしまう。
アランも片手で頬ずえをつきながら、でもちゃんと僕の今まで習った料理だとかの話を聞いてくれて嬉しい。


アランは何で僕がイルダに監禁されていたのか、監禁される前はどうしていたのかなんて話を聞いてこない。
シエロさんの話は聞かれても話しにくいしイルダの事は聞かれたとしても自分でもわからない。
彼がどうなったかは知らないけどアランは知っているのだろうか…
自分のことなのに知らないことが多いのは何だか胸がスッキリしないが、アランに聞くのは憚られてアイラさんかリズさんなら知っていたら教えてくれるかなあと過保護な2人を思い浮かべた。



美味しいカフェオレを頂いた後は家を案内してもらいお風呂など水回りの使い方を教えてもらった。
そのままお風呂を進められて有り難く使わせてもらう。
起きてからずっとお風呂に入りたかったのだ。
上がって脱衣場に出るとタオルと着替えが置いてありアランに感謝しつつ着替えて髪を拭きながら戻るとソファーに座っているアランに手招きされる。

隣にストンと腰掛けるとアランサイズの大きなソファーはふかふかで爪先しか足がつかずそのままバフッと背もたれ側に中途半端に転がった。

「ふふっ、トランポリンみたい!」

そのままずりずりと深く座り直してポンポンと軽く体を跳ねさせると楽しくなってしまう。

「…トラン、?そのままだと風邪引くぞ。」

僕の頭にかかったままのタオルでその見た目とは裏腹に優しく丁寧に水気を取ってくれる。

「わあ、アラン、着替えありがとうございます。髪も拭いてもらっちゃってすみません。」

「世話を焼きたいと言っただろう?それにしてもミナトが座ると小人みたいだな。」

小人だなんて酷いと不満げな顔で見上げると凄く優しい顔をしていたから言葉が出なくなってしまった。
かろうじてか細い声言えたのはたった一言の「アランが大きすぎるんです…」だけだった。

2人でキッチンへ移動して晩御飯の用意をすることにした。
アランが器用に包丁で人参の皮を剥いて切っている横でキャベツを数枚洗う。
真剣に洗っているのに何故か笑われて、腑に落ちないながらも言われるがままにそのキャベツをちぎる。
適当な大きさで良いと言われるが適当な大きさがわからなくて悩み始めた僕にアランはまた笑って見本と言ってちぎって見せてくれる。

「ありがとうございます。もう本当に足手まといになっちゃってすみません。」

謝りながらアランの見本に合わせてちぎっていく。

アランは一口大に切った鶏肉をバターでこんがりと焼きながら、見てるだけで楽しいと呟く。

僕がキャベツを洗ってなるべく見本通りにちぎっている間に炒めた鶏肉に細長いお米を入れてまた炒めて、昼食の残りだというスープを入れて蓋をしてくつくつと煮込んでいく。

僕がキャベツをちぎり終えるとアランが鍋の蓋を開けてくれたので慎重になるべく急いで入れた。

「…ちぎったキャベツ1枚ずつ鍋に入れるかと思って期待してた。」

「リズさんに火の通りがバラバラになるからなるべく纏めて入れるようにって教わりました。野菜をちぎるのは初めてなのですが包丁で切るより簡単でした!」

そう言って笑顔を向けると頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

「ねぇ、アラン、僕は家族と上手くいってなくてアイラさんたちに出会うまでこういうのした事がなかったんですけど…もしも僕にお兄ちゃんがいたらこんな感じだったんでしょうか?」

すると今度は目に見えて落ち込んでいるような顔になる。
僕と兄弟なんて言われたくないか。

「残念ながら兄ではないな…」

謝ろうもするとそう言われ、わかっていながらも胸にツキンと痛みが走る。

「兄にはなれないが家族にはなりたい。」

兄は家族と違うの?ときょとんとしてしまうとアランの大きな手が僕の手をぎゅっと握る。

「まだわからなくていい。」

そうアランに言われると素直にそっか、まだいいのか。という気持ちになる。

その後暫く手を繋いでいたけれどそろそろ出来るぞと蓋を開ける為に手を離されて感じた感情に少しだけ戸惑った。



何故離されて寂しいだなんて考えたのだろうか。



アランはいつの間にか魚の香草焼きも作ってくれていた。
凄い凄いと驚く僕に事前に用意しておいてオーブンで焼いただけだと言っているけど見た目も綺麗で良い匂いでやっぱり凄いと思ってしまう。

テーブルに料理を運ぶとアランが取り分けてくれる。

「ありがとうございます。僕もアランみたいにさっと料理を作ったり自然に取り分けたりできるようになりたいです。」

「俺の楽しみを奪うような事を言うな。でもそうだな、ミナトと料理するのはとても楽しいし一緒に練習しような?」

それに僕は笑顔で返事をした。
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