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番外編 イベントなど
クリスマス大作戦 アラン視点
しおりを挟むバンッと大きな音をたてて、執務室のドアが開かれる。
「ノックくらいしろ。」
「ギルマス!クリスマスって知ってます?」
このギルドはエリヤやミナトの同僚のこいつのように話を聞かない奴が多い。
「知らん。雑談したいならエリヤでも探してこい。」
「ミナトがですねぇ、クリスマスの話をしてくれてー」
「簡潔に詳しく。」
この栗鼠が言うにはミナトが話してくれたクリスマスというイベントは家族や恋人、親しいものたちで楽しむものであってミナトは経験したことがないらしい。
ふむ、クリスマスか。それにこの衣装をミナトが着たら絶対に可愛らしい。
「露出のない服にしろ。費用は全て払う。」
「はぁい。あと、ここにミナトのクリスマスにやりたかった事リストが!」
ぴらりとメモ帳を眼前に掲げられる。
「いくら欲しいんだ?」
「んふっ!お金はいらないのでミナトの両親のお店の個室予約してください!いっつも混んでて、行ってみたかったの!」
ミナトに頼むのは利用していると思われそうで嫌だと笑うこいつに好感が持てた。
「頼んでみよう。」
どうせリズさんのところへ行かなくてはならないからな。ここにあるクリスマスディナーの相談に。
「あ、マオさんがリズさんのところにはクリスマスのお料理の事話に行ってる筈ですよ?メモとってたし。」
ミナトの周りは過保護が多い。
「僕の分の衣装代も出してくれます?」
「必要なものは全て一緒に買えば良い。生地は値段を見ずに肌触りの良いものを選べ。」
「ギルマス太っ腹~!ありがとうございます。お礼に情報をひとつ。ミナトは恋人が出来た事がないから良くわからないけど、夫婦や恋人はアクセサリーとかをプレゼントするのが定番かなあ?って言ってましたよ!」
「参考にしよう。」
当日、執務室にひょこりと顔を出したミナトはこのまま閉じ込めておきたいほど可愛かった。細身のミナトがぽってりとした茶色のツナギを着て、頭には大きな茶色の角。後ろを見れば尻尾までついている。
人族のミナトにトナカイという鹿の角。
アンバランスさにやられて、キスをしたら思いの外止まらなくて、なけなしの理性が、ミナトの初めてのクリスマスをぶち壊したいのか?と止めてくれた。
送り出したはいいが、気になって売り場を覗けば頬を赤くしてぽーっとしているミナト。
害獣たちがアホ面で寄っていくじゃないか。思わず殺気立てて睨めば、ギギギと音がなりそうなほどぎこちなく振り返りそそくさと離れていき、栗鼠の方からケーキを買う。
ミナトの周りはケーキに釣られた主婦たちが取り囲む。
一息ついてミナトに近づけばパッとこちらに気づいて笑顔が浮かぶ。
最近、俺の匂いに直ぐに気づくようになってきて喜びが隠せない。
可愛いミナトからケーキを受け取り執務室へ戻る。
このまま冷凍保存しておきたいくらいだが、食うか。
そのケーキはミナトと一緒に食うケーキの次に旨かった。
ケーキを無事に売りさばき、満足気なミナトと一緒に手を繋いでギルドを出る。
「アイラさんとリズさん、ふたりで買いに来てくれたの。嬉しかったです!」
「そうか、良かったな。」
頭を撫でればはにかむミナトをこのままベッドに沈めたい。だが、今日はクリスマスだ。
「あれ?何かお家電気ついてる?消し忘れちゃったかも…」
そう言ってミナトが扉に手をかけて開けた瞬間、パンっパンっとクラッカーの音が弾ける。
驚いているミナトにリズさんとアイラさんが告げる。
「「メリークリスマス!!」」
「え、えぇ!びっくり、しました…」
大きな瞳を見開いて、ぽろぽろと涙を溢すミナトに何か失敗したかと顔を覗き込む。
「僕、今年は毎日幸せで、サンタさんにお願いしなかったのに。お願いしたときは一度も叶わなかったのに、お願いしてないのに、こんな、叶うなんて、」
ぐすぐすとアイラさんの胸に顔を押し当てて涙を流すミナトをリズさんが席に促す。
「クリスマスディナーってやつだぞ?合ってるかわからんけど、泣いてないで食おうな?」
リズさんの言葉にテーブルの上を見て、ミナトが泣き崩れる。
ローストチキンに付け合わせのグリル野菜。コーンポタージュとこんがり焼かれたバケットに、一際目立つ、ピカピカのイチゴの乗った大きなショートケーキ。
ミナトを抱き上げてやれば今度はおれの胸へ泣き顔を押し付けて隠す。
「アラン…アラン。ぼく、幸せすぎて、どうしよう。」
その一言に皆で笑って席につく。
「もっと幸せになれば良い。」
「そうですよ?幸せすぎてもどうにもならないから大丈夫です。」
「ほらチキン切り分けるぞー。ミナト、皿とって。」
「うあ、はい、本当にありがとうございます。お手伝いしても良いですか?」
食の細いミナトが、驚く程に食べるから皆驚いた。
食後に少なめにカットしたイチゴのケーキを食べ終え、ケーキの上にのっていた栗鼠が着ていた衣装と同じ赤い服をきたサンタの砂糖菓子をショリショリと齧っている。
「ミナト、大丈夫か?砂糖菓子は固いぞ。歯が折れるからやめとけ。」
リズさんが心配して声をかけるが気にせず齧る。
「このケーキのサンタさんに並々ならぬ憧れを抱いてたんですけど、意外と普通のお砂糖の味でした!ふふ、面白い!」
沢山食べてアイラさんと風呂に入って暖炉の前でクッションに埋もれるミナト。今日は慣れない事をして疲れたのだろう。うとうとと船をこぐ。
ベッドに運ぼうと抱き上げれば自然と首もとへ回される腕に気分が良くなる。
ベッドに寝かせて布団を首まで引き上げればミナトが薄目を開く。
「ん、も、ねる?」
「あぁ、寝ような。」
「ん。おやすみ、なさい。」
手を繋げばすやすやと眠りに落ちる。
「ふふ。可愛いですね。ミナト、ミナトはとっても良い子ですからちゃんとサンタさんが来ますからね。」
「…それにしても何でサンタって奴は靴下なんかにプレゼントを入れるんだ?小さくないか?」
「確かにそうですね。あっ、リズ!何を入れてるんですか?」
「ん?この前ミナトが「僕もリズさんみたいなナイフを使ってパパっとお料理出来るようになりたいなぁ。」って言ってたからペティナイフ。」
「貴方、馬鹿ですか。そのナイフじゃミナトの指が落ちますよ!」
「だよなあ。だからアランにプレゼントだ。ミナトにはこっちのお子さま用ナイフにしといた。アイラは?」
「私は無難にマフラーです。靴下がパンパンですがしょうがないですね・・・」
「おー、いいな。それじゃあ、そろそろ帰るか。」
靴下にプレゼントを入れるのは親の役割だと伝えるととても嬉しそうにすぐに用意すると言ってくれた。
定休日の日に申し訳なく思う。
「ありがとうございました。本当に。」
「こちらこそ、二人で過ごしたかったでしょうに誘ってくれてありがとうございます。私たちもミナトと過ごせてとても嬉しかったです。」
アイラさんの肩を抱くリズさんが
「アイラが嬉しそうで俺も嬉しい。アラン、ありがとな!」
と部屋を出ていく。
玄関先で見送ってミナトを抱き締めて眠りに落ちた。
もぞもぞと腕の中で身動ぐミナトを微笑ましく見ていると目があった。
「アラン、おはようございます。昨日は、ありがとう。とっても、幸せだったよ。」
「あぁ。俺もだ。ミナトとクリスマスを過ごせて幸せだった。」
暫くお互いの体温を感じて、顔中にキスの雨を降らせて、起き上がると枕元のプレゼントに気づく。
「わぁ、新しい包丁と、マフラーだあ。ほわほわあ。」
お父さんとお母さんにお礼しなきゃ、と話ながら視線は自分の左手に。
「え、アラン、これ…」
「クリスマスプレゼントだ。」
「指輪…なんで?」
うるうると瞳が濡れる。
「邪魔にならないようにとシンプルなものにした。薬指はあまり使わない指だから着けていても大丈夫かと思ってな。貰ってくれるか?」
「僕がいたところでは、結婚するときに指輪を送るんだよ。左手の薬指は心臓に繋がってるから、永遠の愛を誓うの。」
「それは、知らなかったな。」
「アラン、本当にありがとう。僕にもお揃いの指輪を贈らせてね?」
そう言って鼻を赤くして涙でぐちゃぐちゃな顔で笑うミナトはとても綺麗で、思わず押し倒した。
「わわ!待って?僕もプレゼントがある!」
「…もちろん頂こう。」
お預けをくらうのは何度目だ?
差し出されるのは黄色のカード。
「はい!1日何でも言うことを聞く券だよ。ご飯作れとか、あれとって!とか掃除しろ!とか1日何でもするからね?好きな時に使って?」
「今すぐに使っていいか?」
「うん。もちろんだよ!どうする?朝ごはん作ってくる?」
「いや、今から1日ぶっ通しで抱かせてくれ。」
「え?」
「今から1日中セックスしたい。何度もイかせて、何度もこの薄い腹に注いで、ミナトの精も潮も飲みたい。先ずは全身舐めて愛撫したい。1日ベッドから降りないでくれ。」
ボボボっと赤面して布団に隠れたミナトの上に乗り上げて布団を捲る。
愛しくて何よりも大切な俺の番。
「ミナト、メリークリスマス。いつまでも一緒にいような?」
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(4件)
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みあ様
シエロさんのところまで読んでくださりありがとうございます。
アランの対応は、"甘い"という意見もあったので(他サイトで2018年に完結済)シエロさんと兎さんの事をこんなに考えてくださって嬉しいです。
本当にありがとうございました…🥺
ミナトとお名前が似ているとの事…!
こちらもそう言って頂けて嬉しいです…🥺
また、イベントやトーアの番外編など更新した時にはよろしくお願いします🙇♀️!
みあ様
感想ありがとうございます…!
辛いところが多いこの小説を読んでくださり嬉しいです。
兎さんに対しては生まれ育った環境などもあって偏った考えになってしまったかと…兎さん素直なんですよね…運命であるシエロさんがいるから浮気などもせず。
ルルちゃんは兎の見られ方もわかっているので身持ちが固いので…ルルあたりが兎さんを上手く導いてあげられたらな、と。
番外編の途中まで読んでくださりありがとうございます。最後の方にシエロさん視点があるので…更に嫌いになっちゃうかな…😌
番外編まで一気に読みました。何度も涙したし、バカ兎とバカ狐に怒りを覚えましたよ😠ミナトがアランと幸せになれて良かった!アランの種族、やはり例の映画を思い出して想像してしまいました(笑)
hirohirorin様
読んで下さりありがとうございました…!
感想とても嬉しいです。
シエロさんと兎さんは運命だから人を裏切ってもしょうがないという可哀想な思考の人達です。
シエロさんも甘やかされて育ったからか、あんな感じで…たぶん死ぬまで後悔するんだろうなあ…
シエロさん視点は他サイトでリクエストを頂いて、かなり悩んで、2年以上書いたり消したりしたお話になるので、シエロさんのダメ男さが伝わったなら嬉しいです😌
ミナトは新しい家族とずっとずっと仲良く、沢山愛情をもらって過ごしていきます。
一気読みしてくださったとの事、嬉しいです。本当にありがとうございました…!
猩々は…やっぱりあれですよね🤭例のあの映画がチラつきます🤭