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番外編 凍らせちゃうぞ
しおりを挟む「団長さーん、起きて起きて起きてー!」
今日も団長さんの目覚まし係から始まる。
「起きてよお…んわ!」
気がつくと団長さんの胸にぎゅうっと押さえつけられてそのままゴロリと団長さんが仰向けになるものだから、顔が近い。ちゅ、と唇が合わさって直ぐに離れる。それが寂しく感じてしまうのはおかしいかな?
「どうした?」
「おはようのちゅう」
チュッと団長さんの唇を奪おうとしたのに思いの外勢いがついてしまい、額がごちんとぶつかって、唇もぶちゅりと思い切りぶつかってしまった。
焦ったように身体を起こして、額と唇を確認される。
「ツムギ大丈夫か!?」
「…いたい。ごめんなさい。団長さんはだいじょ…ぶじゃ、ないぃ」
団長さんの唇の端が切れて血が滲んでいる。
「ん?あぁ、少し切れたか。ツムギが無事なら問題ない。」
ぐいと手の甲で雑に拭うから赤が伸びる。
「…ごめんなさい。牙が当たっちゃったみたい。」
団長さんに怪我をさせてしまった事が情けなくて、悲しくて、じわりと涙が滲んでくるが、先ずは治療だと、くま先生のところへ行こうと促す。
「こんなん数分もかからずに塞がる。そんなに気にするなら、もっかいちゃんとキスして。」
濡れたタオルで血を拭けば本当に傷が消えていた。
「団長さんごめんね。今度から気を付けるね。」
「気を付けるよりどんどんしてくれ。嬉しい。」
真顔でそう告げる団長さんが面白くて、つい声に出して笑ってしまう。
「ふふっ、ん、ンッ、」
下唇を食まれた拍子に開いた口に舌を差し込まれ、小さな牙を愛撫する。
「ん、や、あぶな、切れちゃう、」
「ん。この少しだけ尖った牙がまた可愛い。」
「やあぁッ、んちゅ、」
開いたままの口から唾液が溢れて、それすら団長さんに啜られる。
僕の朝は毎日息切れしながらのスタートとなるのだ。
「最近、団長さんの目覚まし係全うできてない…」
朝食はもちろん団長さんの上で。これも大事なお仕事だ。
「いや…もう嫁だし仕事としてやらなくても良くないか?」
「…え?」
「は?嫁だろ伴侶だろ。番として起こして、番として俺の膝に居るのは嫌か?」
「でも、お仕事…」
「仕事じゃなかったら口付けも交わいも一緒にいるのも嫌?」
「う。それは、したい。」
「…焦った。全部仕事としてしたいと言われたら泣くぞ?」
「え、泣いちゃうの?」
「確実に泣くな。それから閉じ込めてしまうかもなぁ。それ程辛い。」
食事を中断して、膝の上で向かい合って、髪を撫でられながら言い聞かされる。
「最初に俺が側に居て欲しくて、それを仕事だと言ったからだな、すまない。仕事でも、伴侶としてでもなく、好きだから。側に居て欲しいから、一緒に居て欲しい。」
「ん。僕も、好き。でも…」
「ん?」
「僕、仕事ってしたことなかったから…役割を与えられて、嬉しかった。」
「あー、そうだったのか。そういや隠れて暮らしてたって言ってたな。んじゃ、ツムギの仕事探しに行こう。午前中は変わらず俺の執務補佐が仕事な?」
そう言って残りの朝食も給仕され、着替えさせて貰い、部屋を出る。
たどり着いた場所は何も無い部屋。
「ここ。魔方陣があるから、この上に立つ。んで、転移するから抱き上げるぞ。」
団長さんが何か呪文を唱えると、ぞくりと鳥肌が立って、ひとつの大きくて立派な扉の前にいた。
「えぇぇ」
びっくりし過ぎて、キョロキョロと周りを見渡す。
「とりあえず、驚いた顔が可愛いなぁ。」
よしよしと頭を撫でられ、降ろされて手を繋ぐ。
団長さんは躊躇することなく、その大きな扉を開いた。
「おい。この可愛いのが俺の嫁。何か仕事くれ。」
「…」
「…団長さんっ」
「ん?あぁ、この目の前のがこの国の王で俺の上の兄。仲良くしなくて良いが、何かと便利な奴だから顔は覚えておこうな?」
「おうさま?」
「魔族だから、魔王って呼ばれてる。今日は転移したが、ここは騎士団とこからでも近いし、安全だ。」
「まおうさまでおにいさま?」
「…ぐふッ」
「おい変態。俺の嫁の可愛さに悶えるな気持ちわりぃ。」
「いや、ごめん。可愛いのと、冷酷で有名な我が弟の溺愛ぶりに驚いて…それで仕事?なんで?養いなよ。それかクリィマのお気に入りなんだからそっちとか。」
まおうさまで、おにいさま。吃驚したけど、言われて見れば涼しげな目元と、角の形が似ている。
「働いた事がないから仕事が嬉しいんだと。そんな可愛い嫁のお願い断れるか馬鹿。」
通勤とかもしてみたいだろう?と僕を見てにっこり。
「はい。働きたいです。でも、それで迷惑をかけてしまうなら…大丈夫です。わがまま言ってごめんなさい…」
「弟の伴侶が良い子過ぎる…あるよ、仕事!沢山あるから助かるよ…!」
「13時から16時な。」
うんうん、と言いながら指を動かすとふわふわと書類の山から数枚飛んでくる。
「雇用条件読んでお名前書いて次来る時に持ってきてね?…あと、護衛付けた方が良いんじゃない?通勤は特に危ないよ。」
「影はついてる。それに、身の安全を守れる力はある。ツムギ、無同意に迫られたらどうする?」
「おちんちんか眼球を凍らせて、バリンします!」
「…なんて?」
「おちんちんバリンします。」
「えっ…!」
「表情綻ばせるな変態。ツムギ、こいつはかなりのドエムだから。厳しい事を言うと喜ばせるから気を付けろ。」
「えと、はい。」
その時、扉をノックする音が聞こえて、まおうさまが答えると扉が開く。
「おや?こんなところでツムギ君に会えるなんて。」
「くま先生!」
「二人揃ってどうしたんですか?」
「まおうさまにお仕事を頂きに来ました。」
途端に眉間に皺を寄せて団長さんを見るくま先生。
「本気ですか?こんな変態のところで?」
「変態過ぎて安全だろ?能力はある。」
「あぁ、まぁ、確かに…ツムギ君、半年に一度程で良いので私の仕事の依頼も受けてもらえますか?」
「くま先生の?」
「ええ。ペットのお世話なんですけど、マニュアルもあるので簡単です。沢山稼げますよ?」
「僕にも出来るお仕事なら、喜んで。」
「俺への扱い酷くない?魔王だよ?……嬉しいけど。」
「団長さん、ありがとう。僕、お仕事頑張るね。」
「いや、長い人生なんだやりたいことは全部やってみれば良い。」
「あのね、団長さんは騎士団でしょう?危ないお仕事だよね…?」
僕はそれが怖いのだ。騎士団とは、日本で言う軍隊のようなものだろう。戦争は、怖かった。もうあんな想いはしたくない。
「まぁ、確かに危ない仕事もあるが、数百年は争い事もないしやっていることは国の治安維持のようなものだ。多少のイザコザはあるが、俺がやられるわけがない。」
団長さんが強い事は知っている。それでも、不安はつきない。顔に出ているのか、ほっぺをむにむにと優しく摘ままれる。
「俺はツムギを置いていかない。もし、そんな事態が起きたら戦場にだって必ず連れていく。そんでもしも、もしもだぞ?泣くな。俺が死にそうになったら、必ず直前にツムギを殺してやる。看取るって約束しただろう?」
もしもの話も辛いけれど、それよりも約束を守ろうとしてくれる団長さんに涙が止まらない。
「…約束ね?」
「あぁ。約束な?」
指切りをして、この日もぎゅっとして貰って眠る。
「ツムギ、今日も一緒にいてくれてありがとう。また明日も一緒にいてくれ。」
「ん。おやすみなさい、グランさん。」
「…不意打ちの名前呼びはやめてくれ。今夜も同意で良いか?」
「ふふ。凍らせちゃうぞ?」
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