妻は従業員に含みません

夏菜しの

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24:二つのお手紙②

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 手紙が破れようと、この問題が無くなった訳ではない。二割の賃上げに今後どうするのか二人で頭を悩ませた。
「船を止めて汽車を使うのはどうでしょう?」
 先日汽車に乗った時に『これは使えるかも?』と思っていたので真っ先に口に出た。
「残念だが、俺が穀物を仕入れている地区には、まだ鉄道がきていないのだ」
 言われてみれば当たり前、鉄道の線路が国を越えて引かれている訳がなかった。
 良さそうな案だと思ったのは早計、むしろ恥ずかしくて赤面したわ。
 コホンとワザとらしく咳を一つもらし、一度初心に帰ろうと、以前に聞いた話を口に出してみた。
「以前に商売の基本を教えて頂きましたよね。
 それによると、値段が安いときに仕入れ、値段が高いときに売って儲ける方法。そして値段が安い場所で仕入れ、値段が高い場所で売って儲ける方法の二つでした」
「ああそうだ。時と場所、この二つの差額で大抵の商人は利益を上げている」
「フリードリヒ様は主に貿易ですから場所ですね」
「ああ」
「ではもしも穀物をフリードリヒ様が売らなければどうなりますか?」
「ザロモンや他の商人が仕入の量を増やすだろうな」
「仕入の量を増やす理由は?」
「俺が仕入を止めれば穀物の供給量が圧倒的に足らなくなる。
 宝石と違って民には穀物が必ず必要だから、需要と釣りあうまでは確実に売れる」

「これからわたしが言う事は例えばの話です。
 穀物が足りない場合、一時的に市場の値が上がりますよね?」
「ああ。きっと上がるだろう」
「もしそれを事前に知る人がいたとすると、その人は確実に売れる穀物を多く仕入れると思いませんか?」
「事情を知る者とは当然ザロモンの事だな。
 ……つまりリューディアは船の契約を見送れと言っているのだな」
「はい。可能であれば」
「大量に買った穀物を腐らせてあいつに損害を与えるか……
 一矢報いるには丁度良い案だが、どうしても避けられぬ難点があるな」
「ええ。組合に入っていない、別の方に船の都合をつけて貰わなければなりません」
 貿易を止める訳ではないから別に穀物を運んでくれる船を探さなければならない。しかし船が遊んでいるはずも無く、それは決して容易なことではないだろう。
「解った。何とか探してみよう」
「我が儘を言って申し訳ございません」
「ふんっ何を言っている。
 これは俺の我が儘で、俺がリューディアを付きあわせているんだ」
「ふふっではそう言うことにしておきますね」
 主食になりうる穀物の値が上がれば、平民の暮らしにかなりの影響が出るに違いない。そのような事を私怨でやるような男をわたしは絶対に許したくない。


 翌日からフリードリヒは船を出してくれる相手を探し始めた。しかしどこからも良い返事がもらえないまま日付だけが過ぎて行った。

 そんなある日の事。
 フリードリヒを職場に見送った後、わたし宛に手紙が届いた。ザカリアス子爵令嬢の頃ならまだしも、ここに来てからわたしに手紙が届くことなどない。
 時期的に伯母に送った手紙の返事だなと当りを付けた。
 そう考えるととたんに気が重くなり、思わずハァとため息が漏れた。
 封を開けるために手紙を裏返すと、見慣れた伯母のヴェパー伯爵の蝋印ではなく、見慣れぬ蝋印が目に入った。
 はて?
 見覚えが無いので視線はそのまま右下に滑り差出人の名へ。差出人の名前はオストワルト子爵夫人とあった。
 ああ、夜会であったあの初老の夫人だわ。

 話したのはほんの二言、三言。
 連れ立って休憩ブースに移動したが、その後はザロモンとひと悶着あって、お別れの挨拶も出来ずに後日お詫びの手紙を送ったきり。
 その方からどうして一ヶ月も過ぎた今頃に手紙を貰うのか?
 文面が想像できずに手紙を開いて読んだ。
 手紙には、
『折り入って相談したいことがあります。
 どうか時間を頂けませんか?』
 と書いてあった。

 相談ってなに?
 だが簡素な文面だからこれ以上の事は解りようがない。
 まあ良いわ。えーとそうね、初老のご夫人に来ていただくよりは、わたしが出向くべきよね。『お伺いいたします』と返事をし、数度のやり取りで日時を決めた。
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