23 / 47
23:2つのお手紙①
しおりを挟む
西方の街ベアトリクスから戻って、三日と経たないうちに屋敷にヴェパー伯爵からの手紙が届いた。文面はとても丁寧だけど、有無を言わせぬ言い回しは昔の通りでまるで変わらない。
これは間違いなく怒ってるわね……
どこかで勇気を出して伺う必要があるけど、まだちょっと無理だわ。
気分が重くすぐれないまま夜を迎えて、いつもの通り執務室に入り仕事を始めた。
計算のチェックに書類の不備確認を行い溜まった書類を片付けていく。今日のペースは悪くなく、自分の山を片付け終わった所で次の仕事を貰おうとフリードリヒの方を見れば、彼の手はすっかり止まっていて、テーブルに置かれた一枚の書類を憎々しげに睨みつけていた。
「どうかなさいましたか?」
「次回の契約更新から船の賃料が上がると通達があってな。少し頭を悩ませていた。
すまん、君の手を休ませてしまったか」
フリードリヒに限らず、貿易商人の多くは独自の船を所有していない。複数の商人が集まり出資し合うことで港から船の権利を借りている形式を取っている。今回の通達でそれが上がるらしい。
「いえそれは構いませんが、いかほどとお聞きしても?」
「二割だ、どうだ笑えるだろう」
次の契約更新は三ヶ月後。
こんな時期に交渉も無く一方的に値上げの契約書が届いただけでもあり得ないのに、その値上げの幅が二割とはまったく穏やかではない。
「賃上げの理由はなんと書かれているのですか?」
「ここには船の燃料代の値上げに伴ってと書いてあるが、こんなのは唯の口実だ」
フリードリヒは過去の燃料代を調べていた。
それによると、確かにここ半年は値上げ傾向になっていた。だが一年前の値段に比べればまだ安いし、こういった値上げ値下げの流れはここ十年の傾向によると当たり前だそうだ。
「口実と仰るのです、もしや心当たりがおありですか?」
「……まあな」
フリードリヒは言い辛そうに顔を顰めた。
「教えて頂けますか?」
「先に言っておくが、これは俺の責任でリューディアには関係が無いぞ。
先月の夜会で俺とザロモンと揉めただろう。多分それが発端だ」
ザロモンの商店とフリードリヒの商店は大体同じくらいの規模だ。しかし貿易だけではなく貴族相手に宝石や金貸しを行って、リスク分散を図っているフリードリヒに比べて、ザロモンは貿易一筋。当然ながら船の使用量はフリードリヒを圧倒している。
港にとっての良客ゆえに彼は港の組合に少々顔が利くらしい。
今回はその伝手を使って、こちらに嫌がらせをして来たのだろうとフリードリヒは教えてくれた。
「それは半分以上わたしの責任ですね、申し訳ございません」
「だから違うと言っている!
奴を殴ったのは俺だ、だから俺が悪い」
「フリードリヒ様はわたしの事を強情だと仰いますけど……
いいえ止めましょう。ここでわたしたちが言い合っても時間の無駄でした。
どうでしょう、すべてザロモンが悪いということで手を打ちませんか?」
「フッ全くその通りだな。声を荒げて済まなかった」
「いえそれには及びませんが、……どうなさるおつもりですか?」
フリードリヒは確かに手広くやっているが、儲けの多くはやっぱり貿易で、このまま船の賃上げが行われればかなりの痛手を被るだろう。
「奴は値上げが本意ではない。
なぜならここに別の手紙があるのだからな」
そう言って見せてくれたのはザロモンの名の書かれた手紙だ。
「拝見しても?」
「構わんが確実に気分を害するぞ」
それでも読まない訳にはいくまいと、手紙を開いて読んだ。
熟読する必要は無かろうと流して読んだのだけど……
う~ん……読まなければ良かったと心から後悔したわね。
わたしに対する罵詈雑言はこの際無視するが、フリードリヒに対しての暴言にはかなりの自制心を要求された。
特に最後の、『許して欲しければ皆の前で謝罪し、詫び料を払え』と言う文は、はらわたが煮えくり返る気分よ。
自分の行いを棚に上げてこんな態度をとるなんて、浅ましいにもほどがあるわ。
「お、おい破るなよ?」
「あらっわたしったらそんな顔をしていましたか?」
「無自覚か……」
「フリードリヒ様? まさかこれを承諾するなんて言いませんよね」
「ふんっそれこそまさかだ。
俺が破るなと言ったのは、俺が破り捨てたいからだ」
「じゃあはんぶんこしましょう」
その提案がおかしかったのかフリードリヒは声を上げて笑った。
それから二人で手紙の両端を持って、せーのと掛け声を上げながら破ってやった。
あ~スッとした!
これは間違いなく怒ってるわね……
どこかで勇気を出して伺う必要があるけど、まだちょっと無理だわ。
気分が重くすぐれないまま夜を迎えて、いつもの通り執務室に入り仕事を始めた。
計算のチェックに書類の不備確認を行い溜まった書類を片付けていく。今日のペースは悪くなく、自分の山を片付け終わった所で次の仕事を貰おうとフリードリヒの方を見れば、彼の手はすっかり止まっていて、テーブルに置かれた一枚の書類を憎々しげに睨みつけていた。
「どうかなさいましたか?」
「次回の契約更新から船の賃料が上がると通達があってな。少し頭を悩ませていた。
すまん、君の手を休ませてしまったか」
フリードリヒに限らず、貿易商人の多くは独自の船を所有していない。複数の商人が集まり出資し合うことで港から船の権利を借りている形式を取っている。今回の通達でそれが上がるらしい。
「いえそれは構いませんが、いかほどとお聞きしても?」
「二割だ、どうだ笑えるだろう」
次の契約更新は三ヶ月後。
こんな時期に交渉も無く一方的に値上げの契約書が届いただけでもあり得ないのに、その値上げの幅が二割とはまったく穏やかではない。
「賃上げの理由はなんと書かれているのですか?」
「ここには船の燃料代の値上げに伴ってと書いてあるが、こんなのは唯の口実だ」
フリードリヒは過去の燃料代を調べていた。
それによると、確かにここ半年は値上げ傾向になっていた。だが一年前の値段に比べればまだ安いし、こういった値上げ値下げの流れはここ十年の傾向によると当たり前だそうだ。
「口実と仰るのです、もしや心当たりがおありですか?」
「……まあな」
フリードリヒは言い辛そうに顔を顰めた。
「教えて頂けますか?」
「先に言っておくが、これは俺の責任でリューディアには関係が無いぞ。
先月の夜会で俺とザロモンと揉めただろう。多分それが発端だ」
ザロモンの商店とフリードリヒの商店は大体同じくらいの規模だ。しかし貿易だけではなく貴族相手に宝石や金貸しを行って、リスク分散を図っているフリードリヒに比べて、ザロモンは貿易一筋。当然ながら船の使用量はフリードリヒを圧倒している。
港にとっての良客ゆえに彼は港の組合に少々顔が利くらしい。
今回はその伝手を使って、こちらに嫌がらせをして来たのだろうとフリードリヒは教えてくれた。
「それは半分以上わたしの責任ですね、申し訳ございません」
「だから違うと言っている!
奴を殴ったのは俺だ、だから俺が悪い」
「フリードリヒ様はわたしの事を強情だと仰いますけど……
いいえ止めましょう。ここでわたしたちが言い合っても時間の無駄でした。
どうでしょう、すべてザロモンが悪いということで手を打ちませんか?」
「フッ全くその通りだな。声を荒げて済まなかった」
「いえそれには及びませんが、……どうなさるおつもりですか?」
フリードリヒは確かに手広くやっているが、儲けの多くはやっぱり貿易で、このまま船の賃上げが行われればかなりの痛手を被るだろう。
「奴は値上げが本意ではない。
なぜならここに別の手紙があるのだからな」
そう言って見せてくれたのはザロモンの名の書かれた手紙だ。
「拝見しても?」
「構わんが確実に気分を害するぞ」
それでも読まない訳にはいくまいと、手紙を開いて読んだ。
熟読する必要は無かろうと流して読んだのだけど……
う~ん……読まなければ良かったと心から後悔したわね。
わたしに対する罵詈雑言はこの際無視するが、フリードリヒに対しての暴言にはかなりの自制心を要求された。
特に最後の、『許して欲しければ皆の前で謝罪し、詫び料を払え』と言う文は、はらわたが煮えくり返る気分よ。
自分の行いを棚に上げてこんな態度をとるなんて、浅ましいにもほどがあるわ。
「お、おい破るなよ?」
「あらっわたしったらそんな顔をしていましたか?」
「無自覚か……」
「フリードリヒ様? まさかこれを承諾するなんて言いませんよね」
「ふんっそれこそまさかだ。
俺が破るなと言ったのは、俺が破り捨てたいからだ」
「じゃあはんぶんこしましょう」
その提案がおかしかったのかフリードリヒは声を上げて笑った。
それから二人で手紙の両端を持って、せーのと掛け声を上げながら破ってやった。
あ~スッとした!
12
あなたにおすすめの小説
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる