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29:ヴェパー伯爵領①
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さて伯母とのことはこれよりもほんの少しだけ前の話になる。
タイミングが悪いことに伯母の手紙は船の契約更新の書面と一緒に届いたから、船の事が解決するまではそれどころではないと、伯母に手紙を送り待って貰っていた。
オストワルト子爵の口添えで問題が解決したのはその手紙を送ってからひと月半の頃。やっと余裕が生まれたわたしたちは、遅ればせながら伯母の家を訪ねることに決めた。
王都から伯母のヴェパー伯爵領に行くには、三時間ほど船に乗り二つ目の港で降りさらに馬車を二時間ほど走らせる必要がある。
船便の時刻もあるから大体半日とみておくのが安全だ。と言う訳で、フリードリヒは上手く都合をつけて二日間休みを取ってくれた。
加えて夜会の時に利用しているドレスショップに事情を話して、昼用のドレスを二着と夜用のドレスを一着、さらに侍女を二日借りた。
相手は伯母だが伯爵夫人である、普段着にしているワンピースで行こうものなら、躾け用の鞭で手を叩かれる未来しか見えないのだ。
出立の朝方、借りた侍女に頼み身だしなみを整えていたら、フリードリヒが似たような色のネクタイを両手に持ちながら部屋を訪ねてきた。
「どうだろうリューディア、この服ならば問題ないかな?」
てっきりネクタイの柄を聞いてくるのかと思ったのに、まさかその前の段階とは。
わたしはささっと視線を走らせて、要所をチェック。
眩しいほどの白いシャツは丁寧にアイロンが当てられていて襟や袖に折れは無い。ズボンの丈も丁度良く、御髪も綺麗に整えられていて髭の反りの腰も無し。
フリードリヒの男前っぷりが数段アップしていて満足だ。
「ええ大丈夫ですよ」
「そうか良かった」
「ふふっフリードリヒ様でも緊張なさるのですね」
「当たり前だろう。伯母上はリューディアの母代りのお方なのだろう?
ならば緊張しない訳がない」
男爵に縁のない伯爵の屋敷に伺うからではなく、わたしの母代りだからと言われて思わず赤面した。
「どうした顔が赤いぞ。もしや気分でも悪いのか」
「いえ大丈夫です。それよりもネクタイですが伯母は青系統を好みます。明るい青の物はありませんか?」
フリードリヒが持っていたのはどちらも緑系統。
どうせご機嫌取りに向かうのならば、せめて伯母の好みに合わせたいわよね。
しかしフリードリヒは、「いやこれでいい」とわたしの提案を拒絶した。
「左様ですか」
「もしや気分を害したか?
俺なりに仲が良い所を見せようと思って考えたのだが駄目だっただろうか」
「仲が良い所ですか?」
「ああこの色のネクタイならきっとリューディアの瞳がよく栄えるだろう?」
赤面再び……
そんなことを言われてダメだなんて言える訳がないじゃない。
フリードリヒが去ると借りてきた侍女がくすくすと笑った。
「とても仲がよろしいのですね」だってさ!
まさか三度も赤面させられるとは、くぅ……
タイミングが悪いことに伯母の手紙は船の契約更新の書面と一緒に届いたから、船の事が解決するまではそれどころではないと、伯母に手紙を送り待って貰っていた。
オストワルト子爵の口添えで問題が解決したのはその手紙を送ってからひと月半の頃。やっと余裕が生まれたわたしたちは、遅ればせながら伯母の家を訪ねることに決めた。
王都から伯母のヴェパー伯爵領に行くには、三時間ほど船に乗り二つ目の港で降りさらに馬車を二時間ほど走らせる必要がある。
船便の時刻もあるから大体半日とみておくのが安全だ。と言う訳で、フリードリヒは上手く都合をつけて二日間休みを取ってくれた。
加えて夜会の時に利用しているドレスショップに事情を話して、昼用のドレスを二着と夜用のドレスを一着、さらに侍女を二日借りた。
相手は伯母だが伯爵夫人である、普段着にしているワンピースで行こうものなら、躾け用の鞭で手を叩かれる未来しか見えないのだ。
出立の朝方、借りた侍女に頼み身だしなみを整えていたら、フリードリヒが似たような色のネクタイを両手に持ちながら部屋を訪ねてきた。
「どうだろうリューディア、この服ならば問題ないかな?」
てっきりネクタイの柄を聞いてくるのかと思ったのに、まさかその前の段階とは。
わたしはささっと視線を走らせて、要所をチェック。
眩しいほどの白いシャツは丁寧にアイロンが当てられていて襟や袖に折れは無い。ズボンの丈も丁度良く、御髪も綺麗に整えられていて髭の反りの腰も無し。
フリードリヒの男前っぷりが数段アップしていて満足だ。
「ええ大丈夫ですよ」
「そうか良かった」
「ふふっフリードリヒ様でも緊張なさるのですね」
「当たり前だろう。伯母上はリューディアの母代りのお方なのだろう?
ならば緊張しない訳がない」
男爵に縁のない伯爵の屋敷に伺うからではなく、わたしの母代りだからと言われて思わず赤面した。
「どうした顔が赤いぞ。もしや気分でも悪いのか」
「いえ大丈夫です。それよりもネクタイですが伯母は青系統を好みます。明るい青の物はありませんか?」
フリードリヒが持っていたのはどちらも緑系統。
どうせご機嫌取りに向かうのならば、せめて伯母の好みに合わせたいわよね。
しかしフリードリヒは、「いやこれでいい」とわたしの提案を拒絶した。
「左様ですか」
「もしや気分を害したか?
俺なりに仲が良い所を見せようと思って考えたのだが駄目だっただろうか」
「仲が良い所ですか?」
「ああこの色のネクタイならきっとリューディアの瞳がよく栄えるだろう?」
赤面再び……
そんなことを言われてダメだなんて言える訳がないじゃない。
フリードリヒが去ると借りてきた侍女がくすくすと笑った。
「とても仲がよろしいのですね」だってさ!
まさか三度も赤面させられるとは、くぅ……
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