サリイシュのおまじない

Haika(ハイカ)

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1.鈴の音と、光の粉と、妖精さんと。

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【サリイシュのおまじない】
 作・ハイカ



 ここは、地球と同じような環境の星にある、アガーレール王国。

 母なる海に囲まれ、緑豊かな大自然を抱える大陸。
 暖かく、たくさんの動物や種族がともに暮らす、のどかな場所。
 西洋風の生き物達が、「和」を取り入れた建物や衣服を身にまとい、仕事に精を出す。
 民はみな、そんな集落に近い王国の中で、平穏に暮らしていた。

 そこで暮らす、ニンゲンの子供が2人。
 現実で例えるならば、ともに小学校低学年くらいか。

 女の子のサリバと、男の子のイシュタ。2人あわせて、サリイシュ。

 2人はとても活発で、好奇心旺盛な子供たちだ。
 今日もニンゲンに代わり、ハーフリングの両親から許しを得て、外出の準備をしていた。

 「サリバ。イシュタ。学校の宿題はちゃんと済ませたわね?」
 「うん! バッチリ!」
 「答え合わせも、できています」
 と、2人は笑顔や敬礼を見せた。両親は優しい笑顔で、それぞれ鈴を用意した。
 すももサイズの、少し大きな丸い鈴だ。それを、サリイシュの衣服の腰へと紐を通した。
 「クマ除けだ。忘れずに着けていきなさい。今夜は王宮の前でお祭りが開かれるから、それまでに帰ってくるか、王宮の前で良い子にしているんだぞ」
 「「はーい!」」

 そういって、サリイシュは元気に外へと飛び出していった。



 2人が物心ついた頃には、アガーレールは既に「国」として成り立ち、森へと続く丘の上に王宮が建てられていた。
 日本の五重塔をモチーフとした、ちょっぴりモダンな豪邸が、目に入る立地。

 まだ国としての歴史は浅く、現代社会でいう、車も、テレビも、コンビニもない。
 それでも、民はみな幸せそうであった。



 「みんなー! おはよー!」

 サリバが先頭に立ち、辿り着いた先は、新たに家が数軒、出来上がりかけている平地。
 イシュタもすぐそれに続き、民がいない原っぱを、ともに駆け回った。

 2人が手を振った先は、ソースラビット。
 
 ウサギの様な顔立ちと、蛍光灯の様に光る青い耳。
 そして鹿のような体をした、ちょっと不思議な見た目だけど、温厚で可愛らしい草食動物。
 彼らは子供が好きなのか、サリイシュの元へ徐々に近づいてくる。さらに、

 『わぁー。今日も来てくれたのね! 2人とも』
 『やぁ! 今日もいっぱいお話ししようよ』

 手のひらサイズの、小さなエルフの妖精さん達だ。

 彼らもまた、サリイシュが顔を出してきたタイミングで、ふわりと姿を映し出した。

 彼らは、一般の種族には見えない“概念”である。
 だけど、なぜかサリイシュをはじめとするニンゲンにだけは、視認できるのであった――。



 あれからすぐ、サリイシュは妖精さん達とソースラビットに囲まれる形で、原っぱの上で座りながら談笑した。

 鈴の音が鳴ると、ソースラビット達は耳を光らせる。
 その音が、好きなのだろう。彼らは、まったく逃げるような素振りを見せなかった。

 「それでねー。学校ではね、女王様が発明したこの鈴の事をいーっぱい習ったの!」
 「うんうん! しかも、猛獣を『音』で逃がすだけじゃなくて、ソースラビット達には大丈夫な音であるかどうか、色んなものから音を鳴らして実験してきたんだってさ」
 と、2人は学校で習ったことをたくさん話した。

 森の奥にある小さな学校は、ドワーフやハーフリングの子供たちがいるから、楽しい。
 それが、娯楽の少ないこの国では、サリイシュにとってとても刺激的な場所であった。

 今夜は祭りがあるから、学校はお休みだが。

 『私達も夜になったら、祭りを見に行こうかしら』
 『いいね。夜はこの原っぱで、ふだんは家を建てる仕事をしているドワーフ達も、今日は早めに切り上げて王宮に集まるのかな』
 なんて、祭りへの期待を胸に語り合う妖精さんたち。

 すると、ここでイシュタが再び立ち上がった。
 チリンチリンと鈴を鳴らし、軽快に歩き回る。
 するとその音に反応したソースラビット達が、耳を更に光らせ、トコトコついていった。

 「みて! ソースラビットたちの耳から、光の粉が出てきているよ」

 イシュタの言う通り、追いかけるソースラビット達の耳から、蝶の鱗粉りんぷんのような光の粉がフワフワと舞い上がった。
 その光の粉は、放出されてから僅か5秒ほどで、自然と消えていった。

 「その夜のお祭りって、女王様が『奇跡』を使ってスゴイ星空を“魅せて”くれる、音も光もキレイなお祭りなんだよね?
 なら、このソースラビット達も、やろうと思えば同じように出来るんじゃないかな!?
 僕とサリバがもっている、この丸い鈴を使ってさ!」

 イシュタのその提案に、サリバが良いアイデアだとばかり、コクコクと頷いた。

 『確かに。なにも女王様1人で全てこなさなくても、ソースラビット達の力があれば!』
 『お祭りは、今よりもっともっと楽しくなるかもね! 名案よ、イシュタ』
 と、妖精さんたちもこぞって駆け回るイシュタを絶賛した。
 なら祭が始まる前に、その提案を、両親と女王様に伝えよう… と思ったその時である。



 「はっ… イシュタ、後ろ!」



 サリバが何かに気づき、イシュタに向かってそう叫んだ。

 「え?」

 イシュタは歩きながら振り向く… が、時は既に遅し。

 ザザッ
 「うわっ!」

 イシュタが、足を踏み外した。ちゃんと足元を確認していなかった。

 彼が仰向けに転がった先は、茂みに隠れた平地のくぼみ。
 サリバが驚いた顔で立ち上がる。イシュタは鈴を持ったまま、暗いくぼみの奥へと倒れた。
 「イシュタ!!」



 ゴロゴロゴロ…! ザシュ。ドン!

 「い、いててて」

 転がり落ちた先は、長い雑草がぼうぼうに生えた場所。
 幸いにも、それがクッションとなり、イシュタは軽い尻餅で済んだのであった。

 「…なに、ここ」

 イシュタは体制を持ち直し、ゆっくり立ち上がった。
 茂みの奥なんて、怖くて行った事がなかったけど、何やら奥に道が続いている。



 「よいしょ、っと…! イシュタ、だいじょうぶ?」

 サリバが、くぼみへと続くツタや雑草に掴まりながら、ゆっくりと下ってきた。
 イシュタが心配で、駆けつけてきたのだ。もちろん、イシュタにケガはない。

 「サリバ。うん、だいじょうぶ」
 「良かったぁ… ねぇ。ここ、なに? なんだか、不気味で怖いよ」
 そういって、イシュタの腕に掴まるサリバ。

 イシュタが、何かを発見した。

―つづく―
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