サリイシュのおまじない

Haika(ハイカ)

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2.母神様に、願いを込めて。

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―つづきから―

 「あれ? この道、奥から何かが光っている」
 そう。
 明らかに誰かの手で開かれたであろうその道の奥から、何かがピカンと光ったのだ。
 …誰かがいる、ということか。

 「ちょっと、行ってみよう」
 「え? う、うん。だいじょうぶ、かな…」

 イシュタは引きつった表情で、その暗い道の奥へと進んでいった。
 サリバも、恐る恐るだが後をついていく。
 茂みで暗くなっているとはいえ、肉眼で移動できないほどのものではなかった。



 その光がある場所へは、すぐに突き当たった。

 それは、ぼうぼうな草に少し覆われた、何かの青い石碑。
 まるで、現実世界でいうロゼッタストーンのような。

 「「…なに、これ?」」

 サリイシュは思わず首を傾げた。
 石碑に刻まれているのは、落書き… いや、象形文字… というのだろうか。
 あまりにも文字というか、刻まれているものの大きさがバラバラで、何が記されているのか全く見当がつかない。当然、自分達が習ってきた言葉など、1文字も見当たらなかった。


 『ぐすっ… ぐすっ…』


 その時だった。
 まさかの、石碑から、妖精さんの声が聞こえてきたのである。

 「え!? うそ。中に、妖精さんがいるの?」

 サリバが、そういって息を呑んだ。
 すると、その石碑の中から響く啜り泣きが、途端に収まった。

 『え… もしかして、私の声が、聞こえるの? 私がいるって、わかるの!?』

 と、妖精さんが泣き腫らした声で、返事をした。
 やはり、妖精さんは石碑の中にいるみたいだ。サリイシュはコクリと頷いた。

 「聞こえるよ。妖精さんだよね? ここで、何をしているの? どうして泣いているの?」

 サリバがそう訊くと、妖精さんは再び嗚咽を上げ始めた。

 『グスッ… ここから、出られないの。もう、石碑から出られる妖力も、全部なくなって… だから、ずっと誰にも、気づいてもらえなくて… グスッ』
 「かわいそう。でも、もう大丈夫だよ。私達が、なんとか妖精さんを外に出してみせるよ」
 『え…!? 本当に!!?』
 妖精さんが、そういって驚きの声をあげる。だが、その後の言葉は予想外であった。
 『で、でも大丈夫なのかな…
 ねぇ。外の世界は、みんなケンカしていない? いま、誰も怒っていない!?』

 サリイシュは、揃って疑問符を浮かべた。
 続いて、イシュタがこう答える。
 「怒ってないよ? 誰もケンカしていないし、みんな仲良しだよ? 僕もサリバも、お父さんもお母さんも、みんな良い人達だよ。でも、どうして??」
 『だってみんな、ずっとずっと怒っていて、怖かったから私、この石碑に隠れたの…!
 あれから、どれくらい経ったのか分からないけど、いつしか出るタイミングを逃してしまって、それで… グスッ』


 子供のサリイシュには、まだ複雑な内容で、分からないかもしれない。
 2人は「どういうこと?」とでも言わんばかりに、まずは、お互いの目を見合わせた。

 つまり、この妖精さんは遠い昔、この国の民が一斉に怒るほどの「何か」を目撃し、そこから逃れるために、自分から石碑へと潜ったのである。
 だが、今か今かと民のケンカや怒りが収まるタイミングを待ち続けた結果、妖力が底をついてしまい、今度は自力で石碑から出られなくなってしまった。
 悲しいことに、その臆病な性格が、更なる不幸を生んでしまったのである。

 「そうなんだ… で、でも、だいじょうぶ! 僕たちがここから出してあげる」
 イシュタは冷や汗気味に、ガッツポーズに近い反応を示し、妖精さんをそう励ました。
 妖精さんは小さな声で『…ありがとう』と答えた。だが、ここからが問題だ。

 「はて。そうしたら、どうやってこの石の中から助けよう?」
 である。イシュタが、考える仕草を見せながらそう呟いたのだ。
 そう。助けると決めたのはいいが、肝心のその「やり方」が分からない。勢いで言い出しっぺになってしまった、実に子供らしい展開といえよう。

 「そうだイシュタ! 母神様ははがみさまに、お祈りしようよ。
 石に触りながら、『どうか妖精さんを助けて下さい』って、頼むの!」



 そう言い出したのはサリバだ。
 まさかの“神頼み”であった。すると、その案をきいたイシュタがハッとなって頷いた。

 「それいいかも! やってみよう」
 「うん。イシュタ、一緒にやってみよう!? きっと、母神様も助けてくれるよ」
 「そうだね。やってみよう!」

 そういって、2人は妖精さんが閉じ込められている石碑へと、ゆっくり手を置いた。
 そして、2人とも静かに目を閉じ、母神様宛てに、心の中で助けを求める。

 すると――。

 ピカーン
 「「お!?」」

 石碑から、丸いホワホワとした光が、徐々に大きくなっていった。
 まさかのお祈りが、2人のおまじない通り、その効果を発揮したのである。

 きらきらきら。
 きらきらきら。

 サリバとイシュタは、キレイな音色につられるように、その光景を見入った。

 そこで光っていたのは、解放された、妖精さんの姿。
 石碑から無事、外の世界へ出る事が出来たのである。

 『わぁ… 私、本当に外の世界に、いる…!』

 妖精さんは、涙ぐんだ目で、外の世界を見渡した。
 妖力がないので、空を飛ぶ事はできず、石碑の上に座っているが、それでも嬉しそうだ。



 「「やったー!!!」」

 サリバとイシュタは、飛び跳ねるほどに大喜びした。

 心なしか、暗かった道も、今はほんの少しだけ明るく感じる。
 こうして、妖精さんを無事に解放する事ができ、2人は喜びを分かち合った。



 『ありがとう… 2人とも』

 そう、妖精さんが感謝の意を示した。

 ふと、サリバが空を見上げ、ハッとなる。
 「あれ? どうしよう、そろそろ日が暮れそうだよ!?」

 そう。
 妖精さんの解放に夢中だった故、空はマジックアワーがかかっている。
 このままだと夜だ。祭りに間に合わなくなる。
 イシュタが何を思ってか、妖精さんをそっと手の平に抱えた。

 「これから、楽しいお祭りがはじまるんだよ。妖精さんも、一緒に観にいこう?」
 「うん! そのお祭りを見れば、私たちが本当にみんな仲良しだって事が分かるよ!」
 サリイシュが、そういって励ます。妖精さんは、素直にイシュタの手の平に乗ったが…

 『え? お、お祭り… って、なに?』

 と、ただただ戸惑うばかり。
 サリバが、元の平地へと続く場所に出て、笑顔で答えた。
 「そっか! ずーっと石碑に閉じ込められていたから、知らないんだね。この国では一年に一度、女王様がキレイな星空を魅せる、とっても楽しいお祭りを開いてくれるんだ」
 『女王様? 国?? え、一体なにがどうなっているの!?』
 「とにかく、見ればわかるよ。イシュタ、この妖精さんをお父さん達に紹介しよう?」
 「うん!」



 そういって、子供2人はウキウキの笑顔で、王宮前へと走っていった。

―つづく―
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