サリイシュのおまじない

Haika(ハイカ)

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3.女王様の平和なお祭り、開幕。

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―つづきから―

 陽が沈み、夜になった。

 空は、キレイな星空を映し出している。
 きっと今日は一日、夜明けまで雨が降る事はないだろう。絶好の祭り日和であった。


 「みんな。カンパーイ!」
 「「カンパーイ!!」」

 チリーン!

 王宮前の広場。
 外周の四阿あずまやにて各自が席につき、酒の入ったグラスを鳴らし合う。

 サリイシュより小柄でも、理論上は大人であるほかヒト型の種族はみな、この日のために大量の酒やつまみを用意してきた。
 広場の中央にある噴水を囲むように、立ち歩きながら飲んで談笑を交わすドワーフやハーフリングも多数、祭りに参加している。
 みな、この日を待ちわびていたとばかり笑顔で、王宮と星空を見上げていた。


 「お父さん! お母さん! みてー!」

 その広場へと、サリバが後になってようやく到着した。
 イシュタもそれに続き、手の平に妖精さんを乗せたまま、両親の元へと走ってきた。

 ハーフリングの両親は、目を大きくし、同時に四阿から席を立ちあがった。

 「サリバ! イシュタ! 遅かったじゃないか!」
 「もう! どうしたのかと心配したのよ!?」
 両親は仁王立ちで叱責した。
 もう夜になってしまった。本来なら帰宅している時間だ。サリイシュは揃って頭を下げた。

 「ごめんなさい! 遅くなってしまって。
 あのね。今日は原っぱで遊んでいたら暗い道を見つけて、その先に石碑があったの!」
 「石碑?」
 「うん。この妖精さんが、石碑にずっと閉じ込められていたから、僕たちが助けたんだよ! 母神様にお願いしてね」
 「母神様… って、あの文献に載っている、母なる海を創造なさった人魚姫様に!?」



 ここアガーレール王国では、建国以前から、民が守り続けている「掟」がある。
 それは、海に手を出し、汚してはいけないということ。
 海は全ての生命の始まり。という文献が、昔から存在するのだ。
 …なんでも神格化されたそれは、どうやら金髪碧眼の、美しい人魚の姿らしいのだが。


 なんて建国前のことを思い出し、両親はハッとなる。
 今は、子供たちが妖精さんを助けたという、その事実の方が驚きであった。

 両親は一旦、お互いを見合わせた。
 サリイシュは「?」と首をかしげる。すると、両親はすぐに視線を戻した。

 「そうか。よくやったな、2人とも。母神様の件については後で説明するが… そちらの妖精さんは、もしかして妖力を失っているのかい?」
 と、父親が妖精さんへと目線を下げた。

 ハーフリングの両親に、妖精さんの姿は、視認できない。
 だから、あくまで見えているフリをしているだけ。

 妖精さんは、昔に見てきた種族のケンカを思い出したのか、カタカタと身を震わせている。
 …という事が、両親には、サリイシュの目線や仕草からなんとなく分かった。

 母親がふと、別の方向へと振り向き、その奥にいる生き物を見つけた。
 「ちょうど、あそこにソースラビットがいるわね。あの子は… あら、タルタルじゃない!
 タルタル~? ちょうど良いわ、こっちへおいで」


 チリンチリンチリーン。

 と、母親がここですももサイズの丸い鈴を取り出し、それを手で小刻みに鳴らした。
 サリイシュの腰元にも紐を通し、渡している、クマ除けの鈴。

 すると、「タルタル」と呼ばれたそのソースラビットが、こちらへ歩いてきた。
 綺麗な鈴の音に誘われるタルタルを、母親がなお誘導する。
 タルタルの耳からは、嬉しいという感情からか、青い光の粉がフワフワと舞い上がった。


 光の粉は、やがてイシュタの手の平に乗っている、妖精さんの元へと降りかかった。
 そして――。

 パアー!

 妖精さんの全身が、コーラスハーモニーを奏でる様に、より強く発光した。


 妖精さんは息を呑んだ。
 すぐに、すくっと立ち上がり、背中のトンボ状の羽根をパタパタさせる。

 『すごい… 妖力が、元に戻った!』


 それが、元気を取り戻し、再び浮遊できるようになった妖精さんの答えであった。
 そう。
 ソースラビットから放出される「光の粉」こそ、妖精さんたちの、力の源なのである。


 「これで、再び空を飛べるようになるんじゃないかしら?
 もっとも、その『石碑』というのがいつの時代のものかは分からないけど、独りぼっちで寂しい思いをしていたんじゃない? ねぇサリバ、イシュタ」
 「え? うん。僕たちはよく知らないけど、国のみんながケンカをしていた姿が、すごく怖くて、ずっと石の中に閉じこもっていたらしいよ?」
 と、イシュタはいう。

 両親は、どうやらその件について知っている様で、顎をしゃくりながらこういった。
 「ケンカ… か。もしかして、アガーレール建国前の事を言っているのだろうか?
 まぁ、あまり詳しく話しても妖精さんに良くないから、敢えて言わないでおくが、今はみんな仲良く暮らしているよ。この王宮からそろそろ顔を出してくる、女王様のお陰でね」
 「そうよ。だから、怖がらなくて大丈夫。サリバもイシュタも、私達も、みんなソースラビットや妖精さん達の味方だから」
 つづけて、母親もそういって微笑んだ。

 妖精さんは、声にならない声で、ポロポロと嬉し涙を零した。
 きっと、とても安心したのだろう。
 今のアガーレールは、とても平和な世界なのだと。

 気が付けば、自由になったイシュタの両手は、既にぶらぶらと降ろされていた。

 「あ! みて! 原っぱから、ほかの妖精さん達も集まってきたよ!」

 サリバがそういって、笑顔で遠方を指さした。

 その遠方から、多くの妖精さんたちが渡り鳥のごとく、一斉にこちらへと飛んできたのだ。

 先に広場へと到着した妖精さんが数人、サリイシュが解放した妖精さんの存在に気づき、大きく手を振っている。
 妖精さんは、久しく再会した仲間達の姿を見て、嬉し涙にそちらへ飛び立っていった――。

―つづく―
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