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4.両親の想い。そして、明るい未来へ――。
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―つづきから―
「サリバ、イシュタ、いい? あなた達が、妖精さんを助けた件なんだけどね――」
祭りは、もうすぐメインのパフォーマンスが幕を開ける。
その前に、両親はサリイシュを真剣な眼差しで見つめながら、詳細を教えてくれた。
「それは、母神様の力ではないわ。母神様は人魚姫であり、妖精さん達と無関係なの」
「そうなの?」
「えぇ。あなたたちが祈ったそれは、あなたたちが持っている『おまじない』の力よ」
「おまじない?」
サリイシュにとって、これまた聞き慣れない単語だ。
そんなすぐに、実感は湧かないというか。続けて、父親がこう教えてくれた。
「今日のことが起こるまで、敢えて黙っていたのだがな。サリバ、イシュタ。お前たちには、どうやら『魂の息吹』という伝説の魔力が、備わっているそうなんだ」
「たましいの いぶき?」
「そう。その力は、唯一扱える種族といわれているニンゲンの中でも、ほんの一握りしか備わっていない『幻のおまじない』と言われている。お前たちのその『仲間を助けたい』という強い気持ちが、妖精さんの解放に繋がったのだろう」
「えー、なにそれ!? 私たちって、そんなすごい魔法の力を持っていたの!?」
と、サリバが興奮気味にはしゃいだ。
イシュタも嬉しそうにサリバを見る。母親がすぐさま人差し指を立て、叱咤した。
「だからといって、自分達の力を過信しちゃダメよ? 仲間を助けるため“だけ”に備わっていて、それ以外では使いようがないのだから、魔力の無駄遣いはしないこと。いい?」
「「え~!?」」
なんて、途端に不機嫌な表情を浮かべるサリイシュ。
子供さながら、もっとこう好きなだけお菓子を生み出したり、勇者が戦いで敵を倒すのに使ったりといった事が、出来るのだと思っていたようだ。
「見ろ。女王様の御成りだ」
父親のその声がけ通り、サリイシュは再び気をもち、王宮へと目を向ける。
すると、その上階のバルコニーから、大きな窓が開いた。
ドワーフ、エルフ、ハーフリングが、一斉に喜びの拍手を送った。
そして、開いた窓の奥から、大量の蝶々が群れを成し、一斉にひらひらと飛び立ったのだ。
「「おー!!」」
広場から、民による大きな歓声が上がった。さらに、
「「アガーレール! アガーレール!」」
と、国名をそのままエールに、民が一斉に万歳をしたのであった。
噴水の前では、一部の民がそれぞれの打楽器を持って、豪快に演奏を始めた。
民が、みな笑顔で踊り出す。
酒を片手に、星空をより美しく“魅せる”蝶の群れを前に、恍惚に浸っていた。
「「わぁ」」
サリバとイシュタも、目をキラキラと輝かせながら、空を舞う蝶の群れを見入った。
「――あの子たちとの出会いも、何かの縁だな」
子供たちが蝶の群れと、星空に夢中で、見上げているその間に。
両親はふと、昔の事を思い出した表情で、今日までのことを語り合った。
「そうね。あの子たちの実の両親達も、今頃はきっと… ね」
「あぁ。子供たちと同じニンゲンの女王様も、『ニホン』という遠い遠い地からここまで旅をし、今ではこれだけ素晴らしい国を作り上げてくれたんだ。感謝しないとだな」
「えぇ」
そんな、不思議な会話をしている両親の手前。
この国では貴重な、年に一度の祭典を、子供たちは目に焼き付けていた。
数少ない、大きな娯楽が今、幕を開けたのである――。
………。
<ある年の日>
「へぇ。サリバって、女王様と勇者様がバケモノたちを倒す夢を見たんだ?」
「うん。イシュタこそ、勇者様が遠い所へいってしまう夢を見たんでしょ?」
なんて、2人が話している先は、深い深い森。
王宮の真後ろにある、ドワーフ族やハーフリング達が洞穴を掘り、住んでいる場所だ。
あれから、サリイシュは少しだけ成長した。
今日も今日とて、仲良く外を歩いている。目的はただ1つ。
『はぁ…
結局、誰にも気づかれないまま、俺はここで木と一緒に切り落とされる日が来るのかな』
妖精さんが1人、そう呟くのは、数ある大きな樹木のうちの1本。
その樹木の中に、妖精さんは封印されていた。
理由は分からないけど、あの時と同じ、妖力を失って出られなくなったのだろう。
「ほら。あそこから、オーラを感じるよ?」
サリバが、問題の樹木付近まで歩いてきた。
イシュタもそれに続き、問題の樹木を食い入るように見つめる。
「妖精さーん。聞こえますかー?」
サリバの突然の声かけに、樹木の中で封印されている妖精さんが、肩をピクリとさせた。
そんなバカな。だって、自分の姿は誰にも見えないんじゃ… そう思ったか。
『お… 俺のことが、分かるのか?』
「お? 返事が来た! そうだよ。妖精さん、今から出してあげるからね」
サリバが、笑顔で樹木に話しかける。
イシュタも、ここはゆっくり祈りの体制に入る。妖精さんはつっけんどんに言い返した。
『くっ… 別に、そんなのがなくたって自力で出られるし! ほっといてくれよ』
「えー? だって今、あなたのご家族がとても心配してるんだよ? 確か、エクレシアさん、だっけ? だからここまで歩いてきたんだ」
サリバが依頼者の名を思い出す様にいうと、妖精さんが一瞬、息を呑んだような。
そんな、僅かな心情の変化が感じられたのだ。妖精さんはこうきいた。
『エ… エクレシア、が?』
その反応からして、きっと妖精さんの気持ちが、大きく変わったのだろう。
そう察したイシュタがサリバと目を合わせ、同時に頷き、すぐに樹木へと視線を戻した。
「――そこでじっとしてて。僕たちの力で、すぐにここから出してあげるからね」
そういうと、ここはサリバも樹木へと手をかざし、ともにゆっくり目を閉じた。
イシュタも目を閉じ、樹木に向かって、心の中で「おまじない」を唱える。
すると、樹木の奥から、徐々にふんわりとした光が灯りだした。
ピカーン。
光は、やがて外へと溢れ出し、キラキラと美しい音色を奏でる。
サリイシュが安堵し、目を開けると、そこには樹木を前に解放された妖精さんがいた――。
地球と同じような環境の星にある、アガーレール王国。
母なる海に囲まれ、緑豊かな大自然を抱える大陸。
暖かく、たくさんの動物や種族がともに暮らす、のどかな場所。
そんな場所で、数少ない魔力を持つ「ニンゲン」として生きる子供2人は、今日も妖精さんをオブジェクトから解放する仕事に、出向いたのであった――。
サリイシュのおまじない。
これは、そんな2人が、のちにニンゲンのいない「この世界」の謎を解き明かすまでの、
女王陛下として生きる“私”が知る、子供の頃のおはなし。
【サリイシュのおまじない】
―完―
――――――――――
本作品は、これにて終了です。
最後までご拝読頂き、ありがとうございました。
この作品が良いなと思ったら、是非とも応援のほど、よろしくお願いいたします。
「サリバ、イシュタ、いい? あなた達が、妖精さんを助けた件なんだけどね――」
祭りは、もうすぐメインのパフォーマンスが幕を開ける。
その前に、両親はサリイシュを真剣な眼差しで見つめながら、詳細を教えてくれた。
「それは、母神様の力ではないわ。母神様は人魚姫であり、妖精さん達と無関係なの」
「そうなの?」
「えぇ。あなたたちが祈ったそれは、あなたたちが持っている『おまじない』の力よ」
「おまじない?」
サリイシュにとって、これまた聞き慣れない単語だ。
そんなすぐに、実感は湧かないというか。続けて、父親がこう教えてくれた。
「今日のことが起こるまで、敢えて黙っていたのだがな。サリバ、イシュタ。お前たちには、どうやら『魂の息吹』という伝説の魔力が、備わっているそうなんだ」
「たましいの いぶき?」
「そう。その力は、唯一扱える種族といわれているニンゲンの中でも、ほんの一握りしか備わっていない『幻のおまじない』と言われている。お前たちのその『仲間を助けたい』という強い気持ちが、妖精さんの解放に繋がったのだろう」
「えー、なにそれ!? 私たちって、そんなすごい魔法の力を持っていたの!?」
と、サリバが興奮気味にはしゃいだ。
イシュタも嬉しそうにサリバを見る。母親がすぐさま人差し指を立て、叱咤した。
「だからといって、自分達の力を過信しちゃダメよ? 仲間を助けるため“だけ”に備わっていて、それ以外では使いようがないのだから、魔力の無駄遣いはしないこと。いい?」
「「え~!?」」
なんて、途端に不機嫌な表情を浮かべるサリイシュ。
子供さながら、もっとこう好きなだけお菓子を生み出したり、勇者が戦いで敵を倒すのに使ったりといった事が、出来るのだと思っていたようだ。
「見ろ。女王様の御成りだ」
父親のその声がけ通り、サリイシュは再び気をもち、王宮へと目を向ける。
すると、その上階のバルコニーから、大きな窓が開いた。
ドワーフ、エルフ、ハーフリングが、一斉に喜びの拍手を送った。
そして、開いた窓の奥から、大量の蝶々が群れを成し、一斉にひらひらと飛び立ったのだ。
「「おー!!」」
広場から、民による大きな歓声が上がった。さらに、
「「アガーレール! アガーレール!」」
と、国名をそのままエールに、民が一斉に万歳をしたのであった。
噴水の前では、一部の民がそれぞれの打楽器を持って、豪快に演奏を始めた。
民が、みな笑顔で踊り出す。
酒を片手に、星空をより美しく“魅せる”蝶の群れを前に、恍惚に浸っていた。
「「わぁ」」
サリバとイシュタも、目をキラキラと輝かせながら、空を舞う蝶の群れを見入った。
「――あの子たちとの出会いも、何かの縁だな」
子供たちが蝶の群れと、星空に夢中で、見上げているその間に。
両親はふと、昔の事を思い出した表情で、今日までのことを語り合った。
「そうね。あの子たちの実の両親達も、今頃はきっと… ね」
「あぁ。子供たちと同じニンゲンの女王様も、『ニホン』という遠い遠い地からここまで旅をし、今ではこれだけ素晴らしい国を作り上げてくれたんだ。感謝しないとだな」
「えぇ」
そんな、不思議な会話をしている両親の手前。
この国では貴重な、年に一度の祭典を、子供たちは目に焼き付けていた。
数少ない、大きな娯楽が今、幕を開けたのである――。
………。
<ある年の日>
「へぇ。サリバって、女王様と勇者様がバケモノたちを倒す夢を見たんだ?」
「うん。イシュタこそ、勇者様が遠い所へいってしまう夢を見たんでしょ?」
なんて、2人が話している先は、深い深い森。
王宮の真後ろにある、ドワーフ族やハーフリング達が洞穴を掘り、住んでいる場所だ。
あれから、サリイシュは少しだけ成長した。
今日も今日とて、仲良く外を歩いている。目的はただ1つ。
『はぁ…
結局、誰にも気づかれないまま、俺はここで木と一緒に切り落とされる日が来るのかな』
妖精さんが1人、そう呟くのは、数ある大きな樹木のうちの1本。
その樹木の中に、妖精さんは封印されていた。
理由は分からないけど、あの時と同じ、妖力を失って出られなくなったのだろう。
「ほら。あそこから、オーラを感じるよ?」
サリバが、問題の樹木付近まで歩いてきた。
イシュタもそれに続き、問題の樹木を食い入るように見つめる。
「妖精さーん。聞こえますかー?」
サリバの突然の声かけに、樹木の中で封印されている妖精さんが、肩をピクリとさせた。
そんなバカな。だって、自分の姿は誰にも見えないんじゃ… そう思ったか。
『お… 俺のことが、分かるのか?』
「お? 返事が来た! そうだよ。妖精さん、今から出してあげるからね」
サリバが、笑顔で樹木に話しかける。
イシュタも、ここはゆっくり祈りの体制に入る。妖精さんはつっけんどんに言い返した。
『くっ… 別に、そんなのがなくたって自力で出られるし! ほっといてくれよ』
「えー? だって今、あなたのご家族がとても心配してるんだよ? 確か、エクレシアさん、だっけ? だからここまで歩いてきたんだ」
サリバが依頼者の名を思い出す様にいうと、妖精さんが一瞬、息を呑んだような。
そんな、僅かな心情の変化が感じられたのだ。妖精さんはこうきいた。
『エ… エクレシア、が?』
その反応からして、きっと妖精さんの気持ちが、大きく変わったのだろう。
そう察したイシュタがサリバと目を合わせ、同時に頷き、すぐに樹木へと視線を戻した。
「――そこでじっとしてて。僕たちの力で、すぐにここから出してあげるからね」
そういうと、ここはサリバも樹木へと手をかざし、ともにゆっくり目を閉じた。
イシュタも目を閉じ、樹木に向かって、心の中で「おまじない」を唱える。
すると、樹木の奥から、徐々にふんわりとした光が灯りだした。
ピカーン。
光は、やがて外へと溢れ出し、キラキラと美しい音色を奏でる。
サリイシュが安堵し、目を開けると、そこには樹木を前に解放された妖精さんがいた――。
地球と同じような環境の星にある、アガーレール王国。
母なる海に囲まれ、緑豊かな大自然を抱える大陸。
暖かく、たくさんの動物や種族がともに暮らす、のどかな場所。
そんな場所で、数少ない魔力を持つ「ニンゲン」として生きる子供2人は、今日も妖精さんをオブジェクトから解放する仕事に、出向いたのであった――。
サリイシュのおまじない。
これは、そんな2人が、のちにニンゲンのいない「この世界」の謎を解き明かすまでの、
女王陛下として生きる“私”が知る、子供の頃のおはなし。
【サリイシュのおまじない】
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