2 / 29
第一章 その彼女、手料理あげればレンタルできます!
01. おいしい手料理を振る舞える男性って、いいですよね。
しおりを挟む
“俺”の“彼”女、略して「オレガノ」。
レンタル彼女を利用するのに必要なのは、依頼者の手作り料理、一食分。
そう。現金ではなく、手作り一食分。プランはたったそれだけだ。
つまり、手料理さえ持ってきてくれれば、その彼女とは二時間までデートできる。
果たして、そんなうまい話があると思うだろうか? 驚くなかれ。答えは「YES」だ。
昼下がり。西新宿の一角にある、小さな複合ビル。
その中の三階をテナントに借りている、小さなお小遣いサイトの運営会社。グリーンハーブのイミテーションを壁にたくさん装飾した、合同会社オレガノの事務所だ。
「先月のインセンティブ、三十五件かぁ。少ないなぁ」
オレガノの若き代表取締役社長、鯨井みんとはそんな独り言をつぶやき、はぁと深い溜息をついた。
まだ起業して経験も浅いゆえ、不安も大きいのだろう。黄土色のテーラードジャケットに白いシャツ、黒いデニム、そして黄緑色を基調とした革ベルトのシンプルな腕時計に合わせる様に前髪をセンター分けしたミントの色白い額が、僅かに眉間に皺を寄せていた。
カランカラーン。
出入口のドアにかけられた、レトロな木製の鈴が鳴る。
一人の小柄で細身の男性が、二段重ねの半透明のタッパーを入れたレジ袋を持ち、この相談窓口へと訪れた。
度が強い黒縁眼鏡に、長い前髪のショート、カーキのブルゾンに濃灰色のスキニージーンズ。背中には黒くて大きなリュックサックを背負っており、成人にしては少し幼く感じるその顔つきから、まるでプライベートでは電車の撮影を好んでいそうな印象がある。
世間では、そんな見た目の弱者男性を「チー牛」なんていうらしいが、それはさておき持ってきた手料理は漂ってくる香りからして、とても美味しそうであった。
ミントは機転を利かせ、すっと立ち上がった。
「三時に予約した細田さんですね。お待ちしておりました」
細田と呼ばれた男性が「あ、ど、どうも」と小さな声でたどたどしい返事をし、身を細める様にして来客用の椅子に腰かけ、タッパーの入った袋を窓口のテーブルに静かに置く。ミントはそれを穏やかな笑顔で受け取った。
「そちらが、今回のプランでお持ちいただいた手料理で間違いないですか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます。では先日ご説明しました通り、こちら一旦弊社でお預かりしますので、今から数分以内に本日の彼女をお連れ致します。それまでの間、あちらに充電コードとフリーwi-fiを設けていますので、どうぞご自由にご利用下さい」
「あ、あぁ、はい。ありがとう、ございます」
細田が、まるで鶏の様な首の動きで返答した。
ミントはそんな細田の「慣れていない感満載」の振る舞いを背に、急いでその「手料理」を別室へ持っていった。
(つづく)
レンタル彼女を利用するのに必要なのは、依頼者の手作り料理、一食分。
そう。現金ではなく、手作り一食分。プランはたったそれだけだ。
つまり、手料理さえ持ってきてくれれば、その彼女とは二時間までデートできる。
果たして、そんなうまい話があると思うだろうか? 驚くなかれ。答えは「YES」だ。
昼下がり。西新宿の一角にある、小さな複合ビル。
その中の三階をテナントに借りている、小さなお小遣いサイトの運営会社。グリーンハーブのイミテーションを壁にたくさん装飾した、合同会社オレガノの事務所だ。
「先月のインセンティブ、三十五件かぁ。少ないなぁ」
オレガノの若き代表取締役社長、鯨井みんとはそんな独り言をつぶやき、はぁと深い溜息をついた。
まだ起業して経験も浅いゆえ、不安も大きいのだろう。黄土色のテーラードジャケットに白いシャツ、黒いデニム、そして黄緑色を基調とした革ベルトのシンプルな腕時計に合わせる様に前髪をセンター分けしたミントの色白い額が、僅かに眉間に皺を寄せていた。
カランカラーン。
出入口のドアにかけられた、レトロな木製の鈴が鳴る。
一人の小柄で細身の男性が、二段重ねの半透明のタッパーを入れたレジ袋を持ち、この相談窓口へと訪れた。
度が強い黒縁眼鏡に、長い前髪のショート、カーキのブルゾンに濃灰色のスキニージーンズ。背中には黒くて大きなリュックサックを背負っており、成人にしては少し幼く感じるその顔つきから、まるでプライベートでは電車の撮影を好んでいそうな印象がある。
世間では、そんな見た目の弱者男性を「チー牛」なんていうらしいが、それはさておき持ってきた手料理は漂ってくる香りからして、とても美味しそうであった。
ミントは機転を利かせ、すっと立ち上がった。
「三時に予約した細田さんですね。お待ちしておりました」
細田と呼ばれた男性が「あ、ど、どうも」と小さな声でたどたどしい返事をし、身を細める様にして来客用の椅子に腰かけ、タッパーの入った袋を窓口のテーブルに静かに置く。ミントはそれを穏やかな笑顔で受け取った。
「そちらが、今回のプランでお持ちいただいた手料理で間違いないですか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます。では先日ご説明しました通り、こちら一旦弊社でお預かりしますので、今から数分以内に本日の彼女をお連れ致します。それまでの間、あちらに充電コードとフリーwi-fiを設けていますので、どうぞご自由にご利用下さい」
「あ、あぁ、はい。ありがとう、ございます」
細田が、まるで鶏の様な首の動きで返答した。
ミントはそんな細田の「慣れていない感満載」の振る舞いを背に、急いでその「手料理」を別室へ持っていった。
(つづく)
31
あなたにおすすめの小説
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる