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第三章 レンタル彼女の恋愛事情は、楽じゃない!?
03. イライラした時は、ハーブ入りジュースでリラックスしましょ?
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男性が去っていったのは、それから一時間後のこと。
煙草を切らしたのか、はたまた喫煙スペースが暑くて長居できなかったのか、営業時間中ずっと監視されるという問題に至らなかったのは不幸中の幸いであった。
「お先に失礼します」
「気を付けてねー」
先のレンタル業務を終え、暫くバックヤードで待機していた彼女の一人が、こうして漸く帰宅できた中、次に夕方のレンタル時間が迫っている。
クミンが先の彼女の帰りを見送っている間、ミントは暑い季節にピッタリなドリンク作りを行う事にした。
冷凍庫からは氷、そして冷蔵庫からは紙パックに入った林檎ジュースと、既に林檎ジュースが入っているガラスポットを取り出す。
「一晩漬けておいたジュースが出来た。先の男性の件で少しピリピリしているから、気持ちを落ち着かせたい」
「お? あのハーブ入りの飲み物ができたの!? そうね。私も頂こうかな~」
あとからクミンも台所に到着し、棚から自分たちのグラスを取り出した。ポットの中には、既に糸で縛られたハーブの束が漬け込まれていて、それを取り出してからグラスにジュースを注ぐという寸法だ。
その間に、ミントは次にコンロ下の引き出しから別の空ポットと、ジッパー付きの保存袋を二袋取り出した。袋の中には、それぞれ特徴のある枝付きの草がバラバラに入っている。それらを一本ずつ取り出し、食材の中に入れても大丈夫な糸で縛って束にした。
「ローズマリーと… ミント、だっけ? ドリンクに使うなんて、珍しいんじゃない?」
「去年、とある料理人の方の紹介を参考にしたんだ。ミントの追加は、俺のアレンジね」
そうこう会話をする二人の元に、それぞれのハーブの良い香りが漂ってくる。
こうして糸を縛ると、ミントはその束を空のポットに入れ、そこへ次にまだ何もアレンジしていない紙パックに入った林檎ジュースを注いだ。
一方で、クミンは製氷された氷を型から取り出し、グラスに入れ、既に完成しているポットのジュースを注ぎ終えた。ポットにはまだ一人分の量が残っているが、とりあえずミントと自分のグラスをテーブルの上に置く。
「これで、また明日も飲めるように」
ミントはそういって、新たに作っておいたハーブ入りジュースのポットを冷蔵庫に入れた。一晩漬け込むことで、ハーブの味と香りをゆっくり抽出するというものだ。
こうして準備ができたハーブ漬けの林檎ジュース。
二人は同時にグラスを口に運び、その冷たく甘いジュースを頂く。
「う~ん! さわやか~。いい香りがする~」
「リラックス効果があるから、メンタルの不調には持ってこいだね。他にも、炭酸水と混ぜてモヒート風にするのもいいし、ミントの清涼感で暑さをしのげるだろう?」
「うんうん」
カランカラーン。
「ヘイ。しゃちょーたち、アツイね~」
事務所に、新しく購入したのだろう骨電導イヤホンをしたバンブーが入ってきた。ミント達がバンブーの名を呼び、笑顔で出迎える。バンブーの手には包装された箱が。
「これ、オトサンからスーヴェニール(土産)ね」
「おーありがとうバンブー。よかったら、ちょうど作っておいた林檎ジュースを飲む?」
と、バンブーが手渡してきた土産を受け取り、ミントが先の余った林檎ジュースをバンブーにもおすそ分けした。バンブーは涼しめるならと大喜びだ。
こうして三人、同じテーブルを囲み、グラスに注がれたジュースを口にする。
バンブーからの反応は、とても美味しいことを表すサムズアップであった。目を大きくし、コクコクと頷いたのだ。ミントは安堵した。
「こういう飲み物って、帰化する前の故郷でも飲まれていたりするのか?」
「ゼンゼン。これ、すごくイイね! ローズマリー・アンド・ミント、ワタシ覚えた」
とバンブーが返答したので、ミントたちはくすっとなる。ふと、クミンが質問した。
「ところで、これだけ色んな料理に合うのだから、もっとミントが身近な所にあればいいのにって思うんだよね。スーパーで買うと高いし。なんで栽培している家少ないんだろう?」
「そうだなぁ。ミントはとても繁殖力の強い植物だから、少しでも土地の一部に種を撒こうものなら、すぐに土地全体へと伝播していく。そうなると、他の植物を植えても簡単に育たないし、除草するにも凄く手間がかかるんだよ」
「へぇ」
「ワーオ! しゃちょーとおんなじ、パワフルな草ですネ!?」
バンブーがそういった瞬間、ミント達からは笑い声があがった。同じ「ミント」をかけた、バンブーならではの気の利いたジョークに危うく吹き出しそうになるが、仕事での嫌な出来事を忘れさせてくれる。
そうこうしているうちに、今日の分のジュースが全てなくなった。
クミンがグラスの片づけに入る前に、バンブーは席を立ちあがった。
「私、このあとバイトあるネ。では」
「あぁ、今日はお土産ありがとう… そうだ! ちょっと、頼みたいことが」
ミントはある事を思い出した。
背を向け、出入口へ向かおうとするバンブーを「オウ?」と振り向かせ、そちらへ駆けつけては耳を貸してくれとばかり、手招きをする。相手もなんとなく重要な件だと察したか。
そろそろ、夕方のレンタル彼女サービスを利用する別の依頼者がやってくる時間。
ミントは手短に、バンブーに「あること」を伝え、今度こそ帰りを見送ったのであった。
(つづく)
煙草を切らしたのか、はたまた喫煙スペースが暑くて長居できなかったのか、営業時間中ずっと監視されるという問題に至らなかったのは不幸中の幸いであった。
「お先に失礼します」
「気を付けてねー」
先のレンタル業務を終え、暫くバックヤードで待機していた彼女の一人が、こうして漸く帰宅できた中、次に夕方のレンタル時間が迫っている。
クミンが先の彼女の帰りを見送っている間、ミントは暑い季節にピッタリなドリンク作りを行う事にした。
冷凍庫からは氷、そして冷蔵庫からは紙パックに入った林檎ジュースと、既に林檎ジュースが入っているガラスポットを取り出す。
「一晩漬けておいたジュースが出来た。先の男性の件で少しピリピリしているから、気持ちを落ち着かせたい」
「お? あのハーブ入りの飲み物ができたの!? そうね。私も頂こうかな~」
あとからクミンも台所に到着し、棚から自分たちのグラスを取り出した。ポットの中には、既に糸で縛られたハーブの束が漬け込まれていて、それを取り出してからグラスにジュースを注ぐという寸法だ。
その間に、ミントは次にコンロ下の引き出しから別の空ポットと、ジッパー付きの保存袋を二袋取り出した。袋の中には、それぞれ特徴のある枝付きの草がバラバラに入っている。それらを一本ずつ取り出し、食材の中に入れても大丈夫な糸で縛って束にした。
「ローズマリーと… ミント、だっけ? ドリンクに使うなんて、珍しいんじゃない?」
「去年、とある料理人の方の紹介を参考にしたんだ。ミントの追加は、俺のアレンジね」
そうこう会話をする二人の元に、それぞれのハーブの良い香りが漂ってくる。
こうして糸を縛ると、ミントはその束を空のポットに入れ、そこへ次にまだ何もアレンジしていない紙パックに入った林檎ジュースを注いだ。
一方で、クミンは製氷された氷を型から取り出し、グラスに入れ、既に完成しているポットのジュースを注ぎ終えた。ポットにはまだ一人分の量が残っているが、とりあえずミントと自分のグラスをテーブルの上に置く。
「これで、また明日も飲めるように」
ミントはそういって、新たに作っておいたハーブ入りジュースのポットを冷蔵庫に入れた。一晩漬け込むことで、ハーブの味と香りをゆっくり抽出するというものだ。
こうして準備ができたハーブ漬けの林檎ジュース。
二人は同時にグラスを口に運び、その冷たく甘いジュースを頂く。
「う~ん! さわやか~。いい香りがする~」
「リラックス効果があるから、メンタルの不調には持ってこいだね。他にも、炭酸水と混ぜてモヒート風にするのもいいし、ミントの清涼感で暑さをしのげるだろう?」
「うんうん」
カランカラーン。
「ヘイ。しゃちょーたち、アツイね~」
事務所に、新しく購入したのだろう骨電導イヤホンをしたバンブーが入ってきた。ミント達がバンブーの名を呼び、笑顔で出迎える。バンブーの手には包装された箱が。
「これ、オトサンからスーヴェニール(土産)ね」
「おーありがとうバンブー。よかったら、ちょうど作っておいた林檎ジュースを飲む?」
と、バンブーが手渡してきた土産を受け取り、ミントが先の余った林檎ジュースをバンブーにもおすそ分けした。バンブーは涼しめるならと大喜びだ。
こうして三人、同じテーブルを囲み、グラスに注がれたジュースを口にする。
バンブーからの反応は、とても美味しいことを表すサムズアップであった。目を大きくし、コクコクと頷いたのだ。ミントは安堵した。
「こういう飲み物って、帰化する前の故郷でも飲まれていたりするのか?」
「ゼンゼン。これ、すごくイイね! ローズマリー・アンド・ミント、ワタシ覚えた」
とバンブーが返答したので、ミントたちはくすっとなる。ふと、クミンが質問した。
「ところで、これだけ色んな料理に合うのだから、もっとミントが身近な所にあればいいのにって思うんだよね。スーパーで買うと高いし。なんで栽培している家少ないんだろう?」
「そうだなぁ。ミントはとても繁殖力の強い植物だから、少しでも土地の一部に種を撒こうものなら、すぐに土地全体へと伝播していく。そうなると、他の植物を植えても簡単に育たないし、除草するにも凄く手間がかかるんだよ」
「へぇ」
「ワーオ! しゃちょーとおんなじ、パワフルな草ですネ!?」
バンブーがそういった瞬間、ミント達からは笑い声があがった。同じ「ミント」をかけた、バンブーならではの気の利いたジョークに危うく吹き出しそうになるが、仕事での嫌な出来事を忘れさせてくれる。
そうこうしているうちに、今日の分のジュースが全てなくなった。
クミンがグラスの片づけに入る前に、バンブーは席を立ちあがった。
「私、このあとバイトあるネ。では」
「あぁ、今日はお土産ありがとう… そうだ! ちょっと、頼みたいことが」
ミントはある事を思い出した。
背を向け、出入口へ向かおうとするバンブーを「オウ?」と振り向かせ、そちらへ駆けつけては耳を貸してくれとばかり、手招きをする。相手もなんとなく重要な件だと察したか。
そろそろ、夕方のレンタル彼女サービスを利用する別の依頼者がやってくる時間。
ミントは手短に、バンブーに「あること」を伝え、今度こそ帰りを見送ったのであった。
(つづく)
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