雨の向こう側

サツキユキオ

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3日目

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 三日目の朝は佑月にとって予想外の出来事から始まった。
 プログラムの参加者は必ず朝7時に食堂に集まり、講師である藤岡から一日の予定を聞かされることになる。食事の指示も彼女の役割であった。ところが今朝の食堂に藤岡の姿はなかった。
 遅れることもあるだろうとの考えは一時間も経てば間違いだと気づく。もう一人の講師、西住まゆはおろおろとするばかりだ。彼女がやったことといえば藤岡の行方を尋ねたあーちゃんらに愛想笑いを返し、それらしく食堂の入り口から廊下を覗き込むくらいであった。ヨガの授業中はあんなに張り切って仕切っていたのに、と佑月は呆れてしまう。
「藤岡先生の部屋はどこですか? 良ければ僕が様子を見てきますけど」
 進展しない事態に痺れを切らしたのだろう、スバルが立ち上がる。しかし西住の歯切れが悪い。全員が募る苛立ちを彼女に向ける。しかし見れば見るほど西住は口を固く閉ざした。
「僕が行くのは問題があるでしょうか。だったら誰か女性と、西住先生一緒に行ってくれませんか? あとはもう一人、カメちゃんにもついてきてもらって」
 スバルはいつにもまして早口だった。それほどまでに彼女の態度は人を苛つかせるものがあった。
 彼に指名された佑月もまた頷いて立ち上がった。スバルとしては気軽に頼めるのが佑月なのだろう。あーちゃんが鋭い視線を送ってくる。しかしそんな子供じみた嫉妬に付き合う余裕はないと佑月はそれを無視した。
「西住先生、行きましょう。もし藤岡先生が部屋で倒れてたら大変ですし」
 佑月は彼女の前にしゃがんでなるべく優しく言った。本当は他の面々と同様に苛立ちを感じていたものの、事を荒立てる訳にはいかない。今は目の前の女から話を引き出すことが最優先だった。西住はやたらと怯えたような表情を見せる。
「わたし、知らないの」
 彼女のか細い声に佑月の苛立ちは募る。
「知らないって、何をですか」
 西住の姿はつい昨日までのものとまるで違った。堂々と彼らにヨガを教えて溌溂としていた彼女は、今やただの木偶の坊である。
 「だから!」と西住は叫んだ。
「わたし、藤岡さんの部屋なんて知らないの!」
 西住の口から出てきた震え声に誰もが耳を疑った。彼女は立ち上がって髪を振り乱した。
「わたしに言われても何も分かんないわよ! わたしに聞かないで。こっちだって訳分かんないんだからあ」
 彼女は両手で顔を覆ってわんわんと泣き始めた。彼らは思わず顔を見合わせた。呆れ果てて何も言えなくなってしまった。西住はまるで世界中の不幸が我が身に降りかかったとでも言いたげに大袈裟に泣いている。
「とにかく、皆で手分けして施設の中を探そう。何の連絡もなしにここまで姿を見せないっていうのはおかしい」
 スバルの言葉に一同は躊躇いながらも頷き、それぞれ散り散りになって藤岡を探した。
 そして藤岡の発見は、絹を裂くような悲鳴によって全員に知らされたのであった。
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