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まずタロットカードをよく混ぜる。トランプよりもひと回り大きいそれは、小さな手では切るのがちょっと大変だ。十分に切ったら机の上に円を描くように広げてかき混ぜる。これはカードの上下も含めて混ぜるためだ。そして最後にきちんとまとめて──
「──こうやって散らします!」
自信満々にカーペットの上へタロットカードをばらまくユーコに、リョウからは思わず「ええ……?」と困惑した声が出た。向きも順番もバラバラになったカードのうち、何枚かが表になっている。ユーコはそれをしげしげと眺めた。
「タロット占いって正位置と逆位置があるよね?」
「はい、ユーコもきちんと向きを考慮して占ってますよ!」
「……じゃあ、あの横になってるのはどうするの?」
「ニュアンスを読み取ります」
「それでいいの?」
タロットカードにはそれぞれ絵柄が描かれており、上下で占う際の意味が変わってくるのだ。占い師から見て正しい向きを「正位置」、逆向きのものを「逆位置」と呼ぶ。ところがユーコのやり方ではどれもこれもてんでバラバラで、正も逆もあったものではないのだ。
表になったのは5枚のカードだ。正位置、逆位置、そして斜めと向きはバラバラだ。リョウはタロットカードを見たことはあっても、その意味まできちんと覚えているわけではない。ユーコはカードを見つめてしばらく黙り込んだ。やがて小さく頷くとパッと顔を上げた。眼鏡の奥の瞳は自信に満ちて輝いている。「ペンのある場所が分かったの?」とリョウが聞けば、彼女は思わせぶりににやりと笑った。
「まだまだ、これからです。でも希望は見えましたよ! リョウちゃんのシャープペンシルは必ず見つかります!」
「あんな変なタロット占いで本当に分かるの?」
「『タロット占い』じゃなくて『ユーコちゃんの占い』です!」
彼女は表になったカードを取り上げると机の上に並べた。
「星の逆位置、剣エースの逆位置、棒5の逆位置、そして月と悪魔のカードですね」
「星と月と悪魔は大アルカナだよね」
「そうですよ。これらのカードを読み取るに──」
「正位置でも逆位置でもないのがあるのに?」
「ちょっと、茶々入れないでくださいよ!」
ユーコは頬をぷくっと膨らませた。しかしすぐに真剣な顔になると「誰か他の人の存在を感じます」と言った。
「リョウちゃん以外の誰かが関わっているような気がします」
「そうなの? 他の人って言っても全然思いつかないけど」
「無くしたシャープペンシルを最後に見たのはいつですか?」
「今日の4時間目。理科室で合同授業があって、そのときまでは確かに持ってたの。でも昼休みが明けて5時間目の授業で筆箱を見たら入ってなかった」
「そのことは、ここに来るまでに誰かに相談しましたか?」
リョウは首を横に振った。最初は勘違いかもしれない、と思って一人で探していたのだ。筆箱から鞄の中、教科書の間にロッカーの中。思い当たる場所は全て探してもとうとう見つからなかった。そのとき、探偵の噂を思い出してこの第2資料室にやって来たのだ。
「見つかりそう?」
不安そうな声でリョウが言う。「なんか、悪魔のカードとか出てるし」と言うとユーコは「大丈夫ですよ!」笑った。
「それぞれにいい意味も悪い意味もあります。でも悪い意味が出たからってその後ずっと不運が続くとかではなかいので。今に対する警告的な? だからそんなに不安にならなくていいんですよ」
彼女の妙に大人びた、たしなめるようなセリフにリョウはちょっぴり面白くない心地がした。生意気な、とは口に出さない代わりに頬をちょっともんでみる。「なんれすかあ」とユーコは情けない声を出した。
「じゃあ、ペンは見つかるってこと?」
「それは内緒です!」
リョウは思わず「えっ!」と大きな声を出した。
「内緒ってどういうこと?」
「だってユーコは探偵ですから! 種明かしは最後にしないと」
ユーコはカードをさっさとまとめると丁寧に箱にしまった。
「さて、これから事情聴取ですよ。探偵としての本領発揮です!」
「──こうやって散らします!」
自信満々にカーペットの上へタロットカードをばらまくユーコに、リョウからは思わず「ええ……?」と困惑した声が出た。向きも順番もバラバラになったカードのうち、何枚かが表になっている。ユーコはそれをしげしげと眺めた。
「タロット占いって正位置と逆位置があるよね?」
「はい、ユーコもきちんと向きを考慮して占ってますよ!」
「……じゃあ、あの横になってるのはどうするの?」
「ニュアンスを読み取ります」
「それでいいの?」
タロットカードにはそれぞれ絵柄が描かれており、上下で占う際の意味が変わってくるのだ。占い師から見て正しい向きを「正位置」、逆向きのものを「逆位置」と呼ぶ。ところがユーコのやり方ではどれもこれもてんでバラバラで、正も逆もあったものではないのだ。
表になったのは5枚のカードだ。正位置、逆位置、そして斜めと向きはバラバラだ。リョウはタロットカードを見たことはあっても、その意味まできちんと覚えているわけではない。ユーコはカードを見つめてしばらく黙り込んだ。やがて小さく頷くとパッと顔を上げた。眼鏡の奥の瞳は自信に満ちて輝いている。「ペンのある場所が分かったの?」とリョウが聞けば、彼女は思わせぶりににやりと笑った。
「まだまだ、これからです。でも希望は見えましたよ! リョウちゃんのシャープペンシルは必ず見つかります!」
「あんな変なタロット占いで本当に分かるの?」
「『タロット占い』じゃなくて『ユーコちゃんの占い』です!」
彼女は表になったカードを取り上げると机の上に並べた。
「星の逆位置、剣エースの逆位置、棒5の逆位置、そして月と悪魔のカードですね」
「星と月と悪魔は大アルカナだよね」
「そうですよ。これらのカードを読み取るに──」
「正位置でも逆位置でもないのがあるのに?」
「ちょっと、茶々入れないでくださいよ!」
ユーコは頬をぷくっと膨らませた。しかしすぐに真剣な顔になると「誰か他の人の存在を感じます」と言った。
「リョウちゃん以外の誰かが関わっているような気がします」
「そうなの? 他の人って言っても全然思いつかないけど」
「無くしたシャープペンシルを最後に見たのはいつですか?」
「今日の4時間目。理科室で合同授業があって、そのときまでは確かに持ってたの。でも昼休みが明けて5時間目の授業で筆箱を見たら入ってなかった」
「そのことは、ここに来るまでに誰かに相談しましたか?」
リョウは首を横に振った。最初は勘違いかもしれない、と思って一人で探していたのだ。筆箱から鞄の中、教科書の間にロッカーの中。思い当たる場所は全て探してもとうとう見つからなかった。そのとき、探偵の噂を思い出してこの第2資料室にやって来たのだ。
「見つかりそう?」
不安そうな声でリョウが言う。「なんか、悪魔のカードとか出てるし」と言うとユーコは「大丈夫ですよ!」笑った。
「それぞれにいい意味も悪い意味もあります。でも悪い意味が出たからってその後ずっと不運が続くとかではなかいので。今に対する警告的な? だからそんなに不安にならなくていいんですよ」
彼女の妙に大人びた、たしなめるようなセリフにリョウはちょっぴり面白くない心地がした。生意気な、とは口に出さない代わりに頬をちょっともんでみる。「なんれすかあ」とユーコは情けない声を出した。
「じゃあ、ペンは見つかるってこと?」
「それは内緒です!」
リョウは思わず「えっ!」と大きな声を出した。
「内緒ってどういうこと?」
「だってユーコは探偵ですから! 種明かしは最後にしないと」
ユーコはカードをさっさとまとめると丁寧に箱にしまった。
「さて、これから事情聴取ですよ。探偵としての本領発揮です!」
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