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第四章:騎士学校・陰謀編
第24話 情報交換
しおりを挟む帝都中央図書館の奥まった閲覧室は、昼下がりの柔らかな陽光が大きな窓から差し込む場所だった。
天井近くまで伸びる本棚が作り出す迷路のような空間は、人目を忍ぶにはちょうどよかったのかもしれない。
約束の時間にあわせて閲覧室に入ると、ルナリアが一冊の古文書を開いて待っているのが見えた。
銀糸の刺繍があしらわれた上品な衣服の胸元には、あの日と同じ家紋のブローチがきらりと光っていた。
彼女の視線は本の上に注がれていたが、僕が足音を忍ばせて近づくと、ふっと顔を上げた。その瞳にはあの夜の緊張とは別の、どこか安堵した色が滲んでいた。
「久しぶりね」
ルナリアは穏やかに微笑むが、その声には微かに張り詰めた気配があった。
それから僕らは、あの日の事件のその後について情報を共有し合うことにした。もっとも、僕が知ることは少ない。
「帝国は、あなたたち護衛班の働きと警備隊の調査で、教団の拠点のひとつを突き止めたの。あの日、私を狙った信徒の手がかりが決め手になったそうよ」
彼女の指先が開いていた本の端をそっとなぞった。
「それで、警備隊が奇襲をかけて……教団本部の一角を完全に制圧したの。そこに潜んでいた幹部もろともね」
静かに語りながらも、その瞳の奥には恐怖の残滓がちらついていた。
「だから、もう……あの日みたいな襲撃は当分起こらないはずよ」
言葉とは裏腹に、どこか張り詰めた空気がまだ残っていた。
「でも……まだすべてが片付いたわけではありません」
僕の言葉に、ルナリアは少し視線を伏せてからうなずいた。
「ええ。別の拠点や、帝都内に潜んでいる信者もいるでしょうし、油断はできないわ。……けれど、帝国は今まで以上に厳しく動いている。私たちも、あなたたちも気を緩めないで」
そう言うと、彼女は小さな笑みを浮かべて、僕をまっすぐに見つめた。
その笑顔は、あの日、馬車の中で必死に気丈に振る舞っていた時の姿と重なった。僕は背筋を伸ばし、静かにうなずいた。
「わかりました。僕も引き続き警戒を怠らないようにします」
彼女の瞳に、ほんの少しだけ安心の色が戻ったように見えた。
柔らかな陽光が、閲覧室の机を照らす。事件の嵐を越えたあとにも、まだ帝都には影が潜んでいる。けれど、こうして少しずつでも前に進んでいくしかなかった。
帝国は、あの日の襲撃事件を機に、すぐさま大規模な掃討作戦を展開した。帝都近郊に点在する教団の拠点を割り出し、夜陰に紛れて一斉に包囲したのである。
帝都警備隊と帝国軍の合同部隊は、魔術障壁と罠を解除しながら拠点へと踏み込み、容赦なく教団員を拘束、あるいは制圧していった。
拠点内部は、血と薬品の臭気が入り混じり、まるで地獄絵図のようだったという。
その中には、必死に抵抗する者もいたが、魔術師部隊や帝国直属の暗殺部隊が即座に殲滅し、その場で仕留めた。
作戦はほぼ完璧だった。教団員のほとんどは捕縛されるか、あるいは混乱の中で息絶えたという。しかし——
「どうやら、数名の幹部が逃げ延びていたらしいの」
ルナリアの声が、閲覧室の静寂の中で低く響いた。
僕はその言葉に眉をひそめた。
「幹部が逃げた? それは、かなりマズい状況だと思います……」
「ええ。警備隊はすでに追跡を開始しているけれど、彼らは帝都に潜む信者を利用して逃走経路を確保したみたい。私の護衛にあたっていた近衛たちが言うには、かなりの周到さで計画していた節があった」
帝都に漂う不穏な気配が再び胸をざわつかせた。
「つまり……教団は、まだ何かを企んでいるってことですね」
吐き出した言葉は、冷たく空気を震わせた。
「そうね。帝都を拠点に、大規模な陰謀でも用意しているのかもしれない」
ルナリアの瞳に宿る光が、一瞬だけ緊張に揺れた。
帝国の掃討作戦は確かに大きな戦果を上げた。しかし、幹部の逃亡というほころびが、再び暗い渦を呼び寄せようとしている。
この街は、まだ完全には安堵を許さない。
「……油断できないな」
僕は小さくつぶやいてから、机の上の地図に目を落とした。
帝国が誇る警備隊も、幹部追跡の手を緩めてはいないだろう。だけど、相手はしぶとい。連中は必ず、また爪痕を残そうと牙を研いでいるに違いなかった。
帝国の剣と盾がすべての脅威を退けられるわけではない。僕も、再び来る嵐に備えるべきなのかもしれない。
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