イクリール・サーガ 第一部【短剣の謎と愛の残響】

アルフライラ

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2章 束の間のモラトリアム

10話 安全な殺し合い

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聖ガイア歴300年 穀竜の月 3日
中央都市アウロラ 教皇直轄領
士官学校 修練場

 女神ガイアは、自分の姿と似ている脆弱で愚かな種族を何よりも愛した。
 その種族が生きていけるように、穀物を背中に宿す竜を横たわらせ、ある季節が来ると収穫ができる様にしたと言う。
 

 士官学校の修練場は中庭に造られており、足場は芝生で出来ている。
 芝生はよく手入れされており、疲労を感じにくい。

 修練場では、学生同士の個人模擬戦や集団模擬戦、弓の修練、馬術の修練などが行われている。

 模擬戦では安全を考慮し、刃引きされた武器を使用することになっている。

 矢は先端が丸く、柔らかい布十重二十重に覆われている。
 また、実戦を想定するため、フルプレートでの戦闘となる。
 なお、盾の使用は任意。

「オラァッ!!」
 刃引きされた鋼が、ライオットの構える盾を叩きつける。
「うわっ!!」

 ラッツの剛剣が上段からライオットを打つ。
 ライオットは咄嗟に盾で受ける。
 威力が強く、盾越しにも衝撃が響く。
 反撃を試みようにも、リーチがまるで違う。
 
 盾を構え前進する。

「オリァッ!!」
 ガギンッという鈍重なる衝撃が走る。
「うッ!」

 盾を大きく薙ぎ払われ、ライオットはバランスを崩した。

「もらったッ!」
 決着の刺突。

 大剣での突きを正中線に喰らい、ライオットは吹き飛ばされた。

「ライオット、俺の勝ちだなッ!」

「……全く敵わないな」

 ラッツが左手でライオットを引っ張り起こす。
 ラッツは疲れ知らずなのか、息が上がっていない。
 大剣での戦いによほど慣れているのだろう。

 
 ふと、左から鉄が弾ける音が響く。

「……スピカ怖えな」
「最初の授業の時からかな……アイツが猪騎士だってことに気づいたのは」

 2人の視線の先には、スピカと男子学生がいた。

「シュッ! シュッ! シュッ! シィーーッ!!」
 剣と盾を相手に、不利を感じさせない剣戟を叩き込む。
「……ッ!」

 スピカは両手に短剣を逆手に持ち、徒手空拳の要領で相手に圧力を掛けている。
 男子学生は盾を構えているはずが、スピカの圧力に防戦一方だ。

 男子学生は盾を突き出し、押し返そうとするが、

「ハァッ!!」
 鎧の重さ、遠心力を利用した格闘術が男子学生を襲う。
「うわぁッ!!」

 スピカの体勢を低くした後ろ回し蹴りが盾の縁にあたり、盾が飛ばされる。

ーースピカは素早く踏み込み鳩尾に刃をこつんと当てた。
 男子学生は、勢いに負けて転んだ。

「私の勝ちねッ!」
「あんた、ほんとに女かよ……」

 スピカが力強く、対戦相手を起こす。
 対戦相手の男子は照れ臭そうに起き上がった。

「スピカ強いなぁ……」
 ライオットは感嘆して、少しばかり溜息を吐く。
 特に徒手空拳では、彼女に勝てた試しが無い。

「あいつの格闘術は一級品だもんな。ま、その代わりになのか、俺より頭悪んだけどな……あれだと清廉なる女騎士様の皮を被った脳筋の猿だな」

「……ふッ!」
 ラッツが吐いたあんまりな悪口に、ライオットは思わず吹き出す。

「なんか拳を放つ度、口から変な空気漏れてるしな……恐らく、口から空気が漏れる猿型の魔獣だな。きっと許しがたい原罪を抱えている、討滅しないといけない」

 ラッツは、ライオットの反応に気を良くし、大剣を地面に突き刺し、難しい顔をしながら推測を続ける。

「っふッ! ………ぬくくくく……」

 ライオットは吹き出した後、必死に笑いを堪える。

 2人がスピカに聞こえない様にあげつらっていると、
「全部聞こえているわよッ! 言い出したのはラッツね。武器なんか捨ててかかって来なさいッ! 騎士は無手でも戦えないとダメよッ!」

「……勘弁してくれ」


「はいそこまでッ! これより集団戦を始めますッ! 班分けはこちらで実施しますので、集まって!」
 本講義の担当教師であるステラが号令をかけた。
 スピカによる追及から逃れることができたようだ。

「……ふん、命拾いしたわね。ラッツ。その首は預けておくわ」
「へい」

 ライオットが密かにほくそ笑んでいると、
「笑っていたライオットもね。私、忘れないからね、こういうの」
「ごめんなさい……」

---

 集団戦は5対5で戦うものだ。
 本日の講義『模擬戦』では20名が参加しているため、丁度4チーム作成させることになる。一回戦の後、勝者と敗者で2回戦を行うこととなっている。

 ライオットのチームには「よろしくねライオット」とデネボラがおり、話しかけてきた。

「あぁよろしく、デネボラ」

 他には、フラウロス、ガーネット、ナオムネだ。
 フラウロスは、三白眼、先ほどスピカに討たれていた。
 ガーネットは、赤毛で髪を巻いているの美少女。
 ナオムネは、黒髪を頭で結っている極東の移民。

「あー……ルールなんだっけ? ダリぃから聞いてなかった」
「ちゃんと聞いていなさいよッ!」

「あぁ、ガーネット悪んだけど、教えて。じゃないと真っ先に降参するぞ」
 三白眼のフラウロスは言葉とは裏腹に悪びれていないようだ。
 
「ハァ……よく聞くのよ?」
 赤髪のガーネットは嘆息し、続けた。

「まず、御神体を模した『レリーフ』を破壊すれば勝ちね。脆い石で作られているから、簡単に壊せるはずよ」
 そう言って、赤髪のガーネットは『レリーフ』を示した。

「……少し指で弾けば割れますね。あと、囲っている檻は簡単に持てそうです」
 ナオムネが補足する。
 『レリーフ』は簡易的な檻に格納されている。

「檻は目が粗いわね。ライオット……矢は通せる?」

「いや、支給される矢では無理だ。自作矢ならいけるが……ルール上だめだろ?」
「そうね。残念……ちなみに、自作矢のくだりは必要だった?」

 抜け道を防がれたことにデネボラは落胆した。
 併せて、ライオットに言葉の矢が飛んできた。

「……不要だな」
「謝って?」
「……ごめんなさい」
「よし」


「地形は、防護壁が邪魔だな。かと言って、中央広場での混戦となると俺が役に立たなくなる。どうするかな……」
 ライオットは腕を組んで、目を細めた。

「その時は、前線で私の盾になりなさいライオット」
「うるせえお前が盾になれ性悪修道女」
「ひどいわ」

 戦場は自陣から見ると、防護壁が設置されたエリアと、中央広場エリアで構成されている。
 防護壁は高さ1メートル程であり、矢除けに活用できる。

「この水に落ちたらアウトだろ?」

「言うまでも無くね。堀の淵はあたしが通れないから……ま、誰も通れないわね」
 フラウロスの指摘に、ガーネットが回答する。

「ほんとにか? お前、ちょっとデカいし……」
「はあぁッ!? この花顔柳腰たる乙女に向かって? その口は何?」
「え? ウソウソ……信じんなよ、な?」
「ふんッ!!」

 場外と判定されるエリアは、堀の様になっている。
 当然ながら落ちたら死亡判定だ。
 矢避けと堀の間には僅かな足場がある。
 しかし足場は狭く、裏取りには使えない。
 
「……実戦想定なら、一騎打ちはどうなるのだ?」
 黒髪のナオムネが聞く。

「良いワケが無いわ……なんのための設備よ」

「あら。でも制限時間過ぎたら、代表者同士で決着をつけるみたいね……その時は、ライオットよろしくね?」
「やだよ」

「……その時は、僕が引き受けよう」
 ガーネットの回答にデネボラが補足する。
 ライオットへの絡みも忘れないが、ナオムネが引き取った。

「ルール確認はこんなところね。もうそろそろ時間だと思う」
 ガーネットが告げる。
 現在は作戦会議時間であり、その時間は10分間である。

「あの赤髪大剣と金髪お下げは要注意だ。特に赤髪大剣には、1対1で戦わない方が良いと思う。みんなで袋叩きにすべきだ」
 ライオットは、遠くに見える友人二人を指差した。

「……それは戦ってみたいものだ。ふふふふ」
 ナオムネは強者と戦うことが好きなのだろうと、ライオットは感じた。


「……私もその二人位しか知らないわ。金髪お下げちゃんは懐に入れない方がいいわ」

「さっきの借りは返したいところだ」
 デネボラの補足に、フラウロスが意気込む。
 

 ライオットが続ける。
「最後に……陣形名は『堅牢なる護り手により行われる聖戦、その空白を縫う異邦の剣と剛槍、仇敵を射抜くは清廉なる魔弾の射手』とでも名付けるべきだ」
 ライオットが腕組しながら、したり顔で語る。

「長い長い長い長い。あと、別にライオットは清廉ではない……もっと短く、2-2-1陣形とかにしましょうよ」


「……デネボラがそう言うなら、仕方ない。そうしよう」
「なんか、『デネボラがワガママ言うから、仕方なく、陣形名を付けるのを譲ってやった!』みたいな感じ出すのやめてくれるかな?」

 肩をすくめるライオットに、デネボラが突っかかる。フラウロスとガーネットは、最初からそうしておけよとでも、言いたげだ。ナオムネは苦笑いをしていた。


「そこまでッ!」
 ステラが再び号令をかけた。
 慣れ親しんだ仲間達との戦いの合図だった。彼らとの集団戦は初めてのことだ。

 ライオットを興奮の様な感情が襲い、手先が震えているのを感じた。
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