イクリール・サーガ 第一部【短剣の謎と愛の残響】

アルフライラ

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2章 束の間のモラトリアム

11話 命ある集団戦

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聖ガイア歴300年 穀竜の月 3日
中央都市アウロラ 教皇直轄領
士官学校 修練場

 全員共通の仕事は、まず死なないこと。
 弓兵ライオットの仕事は相手後衛を射抜くこと、そして相手前衛に圧力をかけること。

 相手の前衛への圧力が足りなければ、こちらの前線が下がり、戦況は不利に。

 しかし、味方の間隙を縫って敵兵を射抜くのはかなり難しい仕事。
 万が一、味方の後頭部に当たれば、その味方は退場だ。

 戦場は長方形の造りになっており、お互いのレリーフまでの距離は100mほど。

 矢避けの防護壁が中央部以外に配置されており、会敵は中央部になる。
 ライオットは「矢避けの防護壁さえなければ」と思った。


「始めっッ!!」
 女騎士ステラの号令がかかった。
 女とは思えない、轟く様な覇気がある。


「行くぞォオオオオオッ!!」
「1人だけ前出るなッ! バカッ!! 向こうにはライオットがいるでしょッ!!」

「俺ならあいつの矢でも防げるッ!」
 ラッツが重装備を着込んでいるとは思えない速度で、矢避けの防護壁を飛び越えながら猛進してくる。スピカがその後を追う。アレでは弓の格好の的だ。

ーー心を研ぎ澄まし、弓を引き絞る
ーー矢を握る右手の指先から、僅かに力を抜き、一射目を放った

「なんのッ!」
 ゴッと言う鈍い音が遠方でした。
 ライオットは手応えを感じなかった。

 ラッツの頭部を狙ったが、大剣の刃で防がれた。
 囮の一射目を放った後、すかさず二射目を放つ。
「あだッ! くそ!!」
「ばかぁー! もうッ!!」

「……まずは1」
 以前は不慣れだった二射目で、ラッツを討ち取った。

 獲物をしとめた後は、指先の痺れが心地よい。
 個人戦での雪辱を注げたため、ライオットは士気が高揚した。

 これで、1分間程度はあの大剣による斬撃を気にしなくても良い。
 一方で、スピカは憤慨しており、ラッツの背中を蹴り飛ばしていた。


「おみごと。今のうちに前線を上げましょう!」
「わかった!」
 デネボラはそう言って、進軍速度を上げた。

 スピカも射抜けないかと狙うも、彼女は矢避けの防護壁を使って進軍していた。
 脅威への対処は適切。
 他の獲物を探す。
 しかし、敵は皆、先ほどの射撃を警戒してか体勢は低い。
 射抜けそうな敵はいない。


 ややして、前線が会敵した。

 敵は全員前衛らしく、残る4人とも前線にいる。

 ラッツが戦線に復帰する前に人数有利を活かして勝ちきりたい。
 それは敵も承知のことだろう。剣よりも盾で粘っている。
 こちらの前線は全員マークされ、皆、進撃が防がれていた。

 デネボラは、槍と盾を装備した女学生と戦っていた。
 盾が無い分、デネボラが不利だ。
「……えいっ!」
ーーデネボラは上段突きを繰り出す
ーー兜を狙った一撃はガッと音を立て
ーー盾で上滑りする

「……っ!」
ーーデネボラは斧槍の穂先を盾に引っ掛け
ーー盾を手前側に引き込んだ
「うわッ! 盾がッ!」
「ふふふ……第二ラウンドね」
 デネボラは得意気に告げる。
 印象と異なり、器用なことをするとライオットは思った。

 しかし、妙技に見惚れている場合ではなかった。
 なぜなら、このままではラッツが戻ってきてしまうからだ。


「あ、そっか」
 ライオットは思わず呟き、背負っていた装備を捨て、短剣だけを片手に持って駆け出した。

「あッー!」
 スピカがライオットの姿を認めて、追いかけようとするも、

ーー鈍い鋼の刺突が彼女の行く手を阻む
ーーガギンッと鈍い衝撃が短剣ごしに伝わる

 先ほどの個人戦とは打って変わり、フラウロスはスピカの勢いを止めてくれていた。
 また、その様子もイキイキとしているように見えた。

「シュッ! シィ!」
ーースピカが左手の短剣、右回し蹴りを繰り出す。

 ガキンッと硬質な感触のみで手ごたえは無かった。
 フラウロスが下がりながら、盾で受け流す。

「こっちから攻めさえしなければ、何も出来ないだろ!」
「クソッ! このッ!」

 スピカの連撃を盾で受け止め続けている。
「ふふふふ……纏わりついてやるからな!」

 それを尻目にライオットは走る。
 他前衛も皆、目の前の相手に手一杯だ。

 その中、敵兵ーー確かルークと言う美丈夫が、ライオットの右後ろから迫り、
「このッ!」
 槍をライオットに突き出してくるも、

「させないぞ? せやッ!!」
 ガンッと衝撃が二回、起こった。

「やられたか……くそ」
 ナオムネが討ち取ってくれた。
 ライオットはニヤリと笑う。

「ふふふ……行くぞーッ!」
 ナオムネはそのまま、他の味方の援護に……いや、撃破数稼ぎに向かった。


 すでにライオットの進軍を阻む者はいない。
 しかし、レリーフの檻を退かした瞬間、ラッツが戦線に復帰した。

 彼と目が合い、ラッツは目を見開いた。
 信じられない速度でこちらに向かってくる。
 
 ライオットは彼との一騎打ちを避けるため、レリーフの檻を素早く捨て、剣を構えた。

 大剣を力一杯放り投げてきた。
「オラァ!! 間に合ええええッ!」
ーー風切り音を伴いながら、大剣が回転し、迫りくる

「うわッ! 危なッ!」
 咄嗟にしゃがんでかわした
「「あ」」


「そこまでッ!!」

 ライオットは咄嗟にしゃがみ、大剣を避けた。
 大剣はスピカチームのレリーフを破壊した。

 勝敗は決した。
 ライオットのチームの勝利に終わった。

---

「ごめんって! ごめんって!」
「クソアホバカ無能ッ! あーもうッ! こいつを傷付けるための言葉が足りない思いつかないッ!」

 ラッツが、スピカを始めとしたチームメンバーに袋叩きにされていた。
 ライオットは茫然とそれを見つめる。


「ライオットのおかげね。ありがとう」
「ありがとうな」
 チームメンバーがライオットを労う。
 勝利の余韻は何よりも心地よい。

「いや、みんながしっかり足止めをしてくれてたから、相手陣地までいけた。あと、あのデカい人が迂闊だったおかげさ」
「それはそうね……」
 デネボラが呆れ顔で肩をすくめる。他のメンバーもどこか冷めた目でラッツを見ていた。
 ライオットと同様の感情を抱いている様だった。


「次が決勝ね」
「そうだな。次も勝って終わろう!」
「「おー!」」
 勝利のあとは士気が高い。皆の気持ちが一つとなっている実感がある。


「で、次の相手で知っていることある?」
 ガーネットが次の対戦相手を親指で気怠そうに指す。顔には疲労が見える。

「こうして見ると、相手チームにはデカいやつがいるな……ホントに同い年か?」
「2人ほど、ラッツとほぼ変わらない身体付きのがいるわ……装備は槍と盾ね」
 ライオットのぼやきをデネボラが首肯する。デネボラよりも頭一つ分は大きい。

「1人だけ、ちっこいのがいるな。メガネをかけているやつだ」
 フラウロスが話す。
 恐らく、バーナードの事だ。

「向こうにいるちっこいメガネ君。彼、白兵戦は弱いけど、多分陰湿なことをしてくる。視界から消えたら気をつけよ……ほんと、嫌な奴よ!」

 ガーネットが恨むように言葉を続けた。
「何かされたのかしら?」とデネボラが聞くと、

「個人戦でアイツ……砂で目つぶしして来たの! サイテー!」と答えた。
 ライオットは「実戦では有効だけど、場を弁えた方が」と言いかけたが、話が逸れそうなので、言葉を飲み込んだ。

「じゃあ陣形はさっきと同じで、最初は2-2-1でいいか」
「わかった」

「そこまでッ! 各々配置につけッ!」
 ステラの号令がかかった。
 次の戦闘の始まりの合図だ。
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