76 / 98
5章 旅立ちと旅立ち
62話 呪われた讃美歌
しおりを挟む
聖ガイア歴303年 穀竜の月 2日
中央都市アウロラ 教皇直轄領
士官学校 修練場
女神ガイアが大地に授けた大いなる金色は、人々を魅了し、かつては財の象徴。
人に原罪ある限り、財産の一欠片を巡って血が流れる。
修練場に少し冷たくなった秋風が吹き込み、バーナードは少し身震いしており、ライオット含めた他班員は涼しい顔をしていた。
バーナードは怪訝そうに班員を見て述べた。
「君たちは寒く無いのかい?」
ライオットは不敵に笑う。
「ふっ。狩人たるもの、身体が資本だ。俺は鍛え抜いている」
「ライオットあんたソレ、ずっと言ってるわね……狩人はあれだけど、修道女も同意よ。修練の先に明日があるわ」
「……同意だ。頑強な肉体が無ければ、鋼を振るうことは出来ない。食べて鍛える。騎士の基本だ」
スピカ、ギルタブも頷く。
バーナードは顔をしかめた。
「バーナードあなた、燐灰騎士と言えども、身体は資本よ? 悪いこと言わないから、私の領に来なさい。ついでに実務も……」
「そっちが目的だろ。サボるな金髪女」
ライオットが冷たく言い放ち、スピカは口を一文字に結んだ。
「ふむ。そなたらの結束も高まって来たな」
黒い鎧の聖騎士ーーゾハルがバーナード班の後ろから顔を出す。
「「よろしくお願いします」」
「うむ、よろしく頼む。今回が最後の実践だったな。ではまた、昼をともにしよう。無論、私の奢りだ」
「「ありがとうございます!」」
バーナード班はゾハルを追いかけ、修練場を後にした。
ライオットはゾハルの背の大剣を見つめ、少し立ち止まったが、すぐにその黒い背中を追いかけた。
---
市場に位置する定食屋『女神ガイアの台所』にゾハル、バーナード班は来ていた。
両手で指を折り返すほどは来ており、ライオットは神棚にある女神ガイア像をなんとなく見上げる。
「ライオットは何にするの?」
スピカの声に我に帰ると、店員がペンで手にメモをしていた。
「あ、あぁすまない。俺はキコリウサギのシチューとコクリュウパンで」
キコリウサギは前に着いた刃で木を切り倒す獣。
コクリュウパンは穀竜の恵みをふんだんに使ったパン。
「かしこまりましたー」
スピカ、ギルタブは心なしかソワソワしており、バーナードは周りの席にいる騎士を見てぶつぶつと呟いていた。
ゾハルがライオットを真っ直ぐと見て述べた。
「ライオットよ。先月の大規模魔獣討滅においては大義であった。私の耳にも、そなたの活躍は届いておるぞ。我が愚息のトラブが世話をかけてしまったようだ。すまない」
「いえ、とんでもない。ただ、少しばかりは俺の指示を聞き、仲間への慈悲の心を持って欲しかった」
ゾハルは大袈裟に嘆息する。
班員達の視線が自然と、ゾハルに集まる。スピカはほんの少し、顔をしかめた。
「あれは妻に似た気質でな。嘘が無い素直さはあるのだが、それが裏目に出る事もある。トラブは将来、黒曜騎士だ。私はともかく、仲間と上手くやれるか……不安だ」
ゾハルはため息を吐き、水を半分ほど飲んだ。
「あ、ゾハルさん……」
スピカは何かを言いかけたが、口をつぐんだ。
ライオットの脳裏には、元スリの少年の笑顔が浮かぶ。かつて、トラブの凶刃から守った笑顔だ。
「すまない。変なことを話したな」
ゾハルがそう言った時、全員分の食事が配膳された。
「……ゾハル卿。食べましょう」
ギルタブが食事に祈りを捧げ、ゾハルに述べた。
「そうだな。騎士は身体が資本だ。食わねば任務は出来まい」
それからの食事は会話が弾み、バーナード以外はおかわりをしてから、終了となった。
ライオットは、かつて、不気味に思えていたゾハルが人間臭く思えてきた。
---
魔獣討滅は、馬車で二日ほど北へ向かった先にある領内の森林地帯で行う。
ケバルライ領内に位置していた。
バーナードの産まれ育った地だ。
陣形は前衛ニ人の後ろにバーナード、さらに後ろにライオットが控える。
「僕の家系は代々、正教会の文官として働いて来ました。しかし、僕は騎士になりたかった」
バーナードは生家も近いことがあってか、足取りも軽く、饒舌。
「努力が実って良かったわね」
スピカが母親のような表情を見せる。
バーナードはギルタブをチラリと見る。
「ほんとは、黒曜騎士団が良かったんですけどね……まぁ、いずれ、燐灰騎士団を戦闘集団にして見せます!」
「……前方11時にいるぞ。蝿だ」
ギルタブが皆を静止し、木陰に隠れた。
バーナードはそれを認め、後方のライオットに警戒の合図を出した。
赤子ほどの大きさの蝿がいた。
額に角が生えており、その下には赤い宝石がある。身体には黒いモヤ。
翅は赤く、血管が蠢いており、顔には黄ばんだ牙が見え、木を齧っていた。
微かに讃美歌が聞こえる。
「讃美歌は余り気に留めないようにしよう」
「魔獣から下手な歌は聞いたこと無いわ。不思議ね」
バーナードとスピカは慣れた調子で軽口を叩く。ギルタブは口を一文字に結び、槍を固く握っていた。
距離はバーナード達からは50メートルほど、ライオットからは80メートルほど。
「相変わらず気持ち悪いわね……ライオットに先制攻撃してもらいましょ」
「了解です」
バーナードは、ライオットに『射撃せよ』の合図を出した。
合図を出した瞬間、ヒュンと風切音が響き、角蝿の左目を潰した。
角蝿はフラフラしながら、周辺をキョロキョロとしている。
「任せてくださいッ!」
バーナードが突剣を右手に構えーー額の宝石を貫いた。
「よし。牙と宝石を剥ぎましょう」
手慣れた動作で角蝿を解体していった。
「……慣れたものだな」
「何回もやっていますからね」
「私は慣れないわ。この冒涜的な見た目……ん、ライオットが戦っているわ」
スピカが後ろを振り向くと、ライオットが角蝿と戦闘していた。
かと思えば、ククリナイフで角蝿を両断し、勝利を納めた。
バーナード達は武器をしまい、足を止めた。
「勝ちましたね。良かった」
「前にも同じようなことがあったわ……この陣形、そもそも適切なのかしら? バーナード」
スピカの問いかけに、バーナードは考え込んだ。
「……俺はバーナードも弓を持って後衛二人の方が良いと思うぞ」
ギルタブはボソッと呟く。
「ま、今日までだから、気にしないでおきましょうか」
ライオットが魔獣の身体を剥ぎ取り終わるのを見届け、魔獣狩りを続けた。
---
ケバルライ家に着くと思いもよらない歓待を受けた。
「「ようこそ、騎士様方!」」
祭司のような服装をした臣下達が出迎えた。臣下達の異様に目が輝いている。
皆、身体の線は細く、戦い慣れていないことがわかる。
「すごいわね、ケバルライ家」
「……目が光っている」
「ふっ」
スピカとギルタブは引き攣った笑みでこれに応じた。
ライオットは満更でも無さそうに不敵な笑みを浮かべた後、応じた。
ゾハルは「宿場町の衛兵と打ち合わせがある」として、近隣の宿場町に戻った。
ライオットはその後ろ姿を目を細めて見送っていると、スピカは「また奥様ね」と口角を上げた。その瞳には好奇心が浮かんでいた。
「……ほら記録室に行きますよ」
バーナードは顔を真っ赤にして、ツカツカと奥の部屋へ消えていった。
「あ、いってしまった」
記録室で魔獣討滅の記録を終えると、晩の食事会に案内された。
食事会には、ケバルライ家当主のシンストラ、その妻プリオルも席を同じにしている。
ケバルライ家は失礼にならない程度に、バーナード班の面々やその装備をジロジロとみていた。
「……もう、恥ずかしいなぁ」
「騎士に憧れでもあるのか?」
「まぁ、そうですね」
「ははは……面目ない。我々はどうにも、文官気質の者が多く、騎士に過度な憧れをもっていまして」
「バーナードは晴れて騎士に。ケバルライの誇りです」
シンストラとプリオルの言葉には、熱がこもっていた。
「ところで、どうして文官の方ばかりなのでしょうか? 武官に憧憬があるならば、なられる方がいても不思議ではないかと」
スピカが眉を八の字にして疑問を投げかけた。
すると、ケバルライ家はやや目を細め、お互いに顔を見合わせ、シンストラが少し言葉を口に溜め、解き放つ。
「実は……我が家に騎士を迎えると、領内に魔獣が増えるんです。なので、どうしても騎士になりたい者は、我が領を出るのです」
バーナードはメガネを外し、疲れたかのように目を覆った。
ライオットはその様を見て、眉をひそめた。
「それは何故?」
「理由は分かりかねます。ただ、騎士がいると魔獣は増え、騎士がいないと領内は比較的少数の蝿の魔獣だけが出現します」
シンストラが続けた。
「かつて、我が領内で騎士に憧れを持つ子どもが失踪した事件が相次いだ。これが関係あるのかもしれぬな……ケバルライの者からも失踪者が出ておる」
シンストラはある額縁に飾られた肖像画を指差した。
それには『サビク=ケバルライ』と書かれていた。
ライオットはその絵とバーナードを交互に見ると「似ているでしょ?」と本人に言われる。
「叔父なんだ。サビクさん」
バーナードがポツリとこぼし、パンをちぎって口に頬張る。
プリオルが不安そうにギルタブを見つめる。
「なので、騎士様方……特にギルタブ様は騎士そのものです。夜、お気をつけください。領内で讃美歌が聞こえたら、特に」
「……承知した」
ギルタブの手はかすかに震えていた。
「ところで、これ美味いな」
ライオットは、キノコが和えられた肉料理に舌鼓を打つ。
「この地方での自慢の料理です。これは……」
ライオットが空気を変え、バーナードは料理の説明を始めた。
その後、食事は和やかな雰囲気のまま進み、解散となった。
ライオット達は割り当てられた部屋で休むことになった。
---
ライオットは、食事会の際の話が気になって眠れず、客室そばのバルコニーで星空を見上げていた。
「ライオットも来ていたのね」
「……スピカか」
スピカが隣に並んだ。
すると、彼女の肩越しに大男も見えた。
「……お前たちもか」
「ギルタブは、部屋で休んでいた方が良いんじゃないか?」
「……休んでいたが、讃美歌が聞こえたような気がしてな。歩いて気を紛らわせていたのだ」
スピカは眉をひそめ、目を細めた。
「ギルタブ、今も聞こえるの?」
「……あっちの方から微かに、な」
ギルタブが指差した先には、井戸があった。ライオットは聴覚を研ぎ澄ますが、聞こえない。
「なぁ、バーナードも起こして行ってみないか?」
「反対」
「……反対だ」
二人は顔をしかめ、苦虫を飲み干したような表情。
ライオットは肩を落とした。
「……わかったよ。明日、バーナードに相談しよう。アイツが班長だしな」
「僕がなんだって?」
「わっ!」
後ろから聞こえた声に、スピカは心臓が飛び出そうになる。
「驚きすぎですよ……あ、あの井戸が気になるのですか?」
「明日、班長たるお前に相談してから行こうと思ってな」
スピカとギルタブは、ライオットの顔を見て顔をしかめた。
よほど行きたくないのだろう。
「それなら、今見てきちゃいましょうよ。近くですし」
ライオットは少しだけ笑みを浮かべ、スピカとギルタブは部屋に戻ろうとする。
「金髪女と大男。班長命令だ。行くぞ」
「「……了解」」
四人は武器を持ち、井戸に向かった。
井戸は口を開け、微かに聞こえる讃美歌は喜びの声が混じる。
中央都市アウロラ 教皇直轄領
士官学校 修練場
女神ガイアが大地に授けた大いなる金色は、人々を魅了し、かつては財の象徴。
人に原罪ある限り、財産の一欠片を巡って血が流れる。
修練場に少し冷たくなった秋風が吹き込み、バーナードは少し身震いしており、ライオット含めた他班員は涼しい顔をしていた。
バーナードは怪訝そうに班員を見て述べた。
「君たちは寒く無いのかい?」
ライオットは不敵に笑う。
「ふっ。狩人たるもの、身体が資本だ。俺は鍛え抜いている」
「ライオットあんたソレ、ずっと言ってるわね……狩人はあれだけど、修道女も同意よ。修練の先に明日があるわ」
「……同意だ。頑強な肉体が無ければ、鋼を振るうことは出来ない。食べて鍛える。騎士の基本だ」
スピカ、ギルタブも頷く。
バーナードは顔をしかめた。
「バーナードあなた、燐灰騎士と言えども、身体は資本よ? 悪いこと言わないから、私の領に来なさい。ついでに実務も……」
「そっちが目的だろ。サボるな金髪女」
ライオットが冷たく言い放ち、スピカは口を一文字に結んだ。
「ふむ。そなたらの結束も高まって来たな」
黒い鎧の聖騎士ーーゾハルがバーナード班の後ろから顔を出す。
「「よろしくお願いします」」
「うむ、よろしく頼む。今回が最後の実践だったな。ではまた、昼をともにしよう。無論、私の奢りだ」
「「ありがとうございます!」」
バーナード班はゾハルを追いかけ、修練場を後にした。
ライオットはゾハルの背の大剣を見つめ、少し立ち止まったが、すぐにその黒い背中を追いかけた。
---
市場に位置する定食屋『女神ガイアの台所』にゾハル、バーナード班は来ていた。
両手で指を折り返すほどは来ており、ライオットは神棚にある女神ガイア像をなんとなく見上げる。
「ライオットは何にするの?」
スピカの声に我に帰ると、店員がペンで手にメモをしていた。
「あ、あぁすまない。俺はキコリウサギのシチューとコクリュウパンで」
キコリウサギは前に着いた刃で木を切り倒す獣。
コクリュウパンは穀竜の恵みをふんだんに使ったパン。
「かしこまりましたー」
スピカ、ギルタブは心なしかソワソワしており、バーナードは周りの席にいる騎士を見てぶつぶつと呟いていた。
ゾハルがライオットを真っ直ぐと見て述べた。
「ライオットよ。先月の大規模魔獣討滅においては大義であった。私の耳にも、そなたの活躍は届いておるぞ。我が愚息のトラブが世話をかけてしまったようだ。すまない」
「いえ、とんでもない。ただ、少しばかりは俺の指示を聞き、仲間への慈悲の心を持って欲しかった」
ゾハルは大袈裟に嘆息する。
班員達の視線が自然と、ゾハルに集まる。スピカはほんの少し、顔をしかめた。
「あれは妻に似た気質でな。嘘が無い素直さはあるのだが、それが裏目に出る事もある。トラブは将来、黒曜騎士だ。私はともかく、仲間と上手くやれるか……不安だ」
ゾハルはため息を吐き、水を半分ほど飲んだ。
「あ、ゾハルさん……」
スピカは何かを言いかけたが、口をつぐんだ。
ライオットの脳裏には、元スリの少年の笑顔が浮かぶ。かつて、トラブの凶刃から守った笑顔だ。
「すまない。変なことを話したな」
ゾハルがそう言った時、全員分の食事が配膳された。
「……ゾハル卿。食べましょう」
ギルタブが食事に祈りを捧げ、ゾハルに述べた。
「そうだな。騎士は身体が資本だ。食わねば任務は出来まい」
それからの食事は会話が弾み、バーナード以外はおかわりをしてから、終了となった。
ライオットは、かつて、不気味に思えていたゾハルが人間臭く思えてきた。
---
魔獣討滅は、馬車で二日ほど北へ向かった先にある領内の森林地帯で行う。
ケバルライ領内に位置していた。
バーナードの産まれ育った地だ。
陣形は前衛ニ人の後ろにバーナード、さらに後ろにライオットが控える。
「僕の家系は代々、正教会の文官として働いて来ました。しかし、僕は騎士になりたかった」
バーナードは生家も近いことがあってか、足取りも軽く、饒舌。
「努力が実って良かったわね」
スピカが母親のような表情を見せる。
バーナードはギルタブをチラリと見る。
「ほんとは、黒曜騎士団が良かったんですけどね……まぁ、いずれ、燐灰騎士団を戦闘集団にして見せます!」
「……前方11時にいるぞ。蝿だ」
ギルタブが皆を静止し、木陰に隠れた。
バーナードはそれを認め、後方のライオットに警戒の合図を出した。
赤子ほどの大きさの蝿がいた。
額に角が生えており、その下には赤い宝石がある。身体には黒いモヤ。
翅は赤く、血管が蠢いており、顔には黄ばんだ牙が見え、木を齧っていた。
微かに讃美歌が聞こえる。
「讃美歌は余り気に留めないようにしよう」
「魔獣から下手な歌は聞いたこと無いわ。不思議ね」
バーナードとスピカは慣れた調子で軽口を叩く。ギルタブは口を一文字に結び、槍を固く握っていた。
距離はバーナード達からは50メートルほど、ライオットからは80メートルほど。
「相変わらず気持ち悪いわね……ライオットに先制攻撃してもらいましょ」
「了解です」
バーナードは、ライオットに『射撃せよ』の合図を出した。
合図を出した瞬間、ヒュンと風切音が響き、角蝿の左目を潰した。
角蝿はフラフラしながら、周辺をキョロキョロとしている。
「任せてくださいッ!」
バーナードが突剣を右手に構えーー額の宝石を貫いた。
「よし。牙と宝石を剥ぎましょう」
手慣れた動作で角蝿を解体していった。
「……慣れたものだな」
「何回もやっていますからね」
「私は慣れないわ。この冒涜的な見た目……ん、ライオットが戦っているわ」
スピカが後ろを振り向くと、ライオットが角蝿と戦闘していた。
かと思えば、ククリナイフで角蝿を両断し、勝利を納めた。
バーナード達は武器をしまい、足を止めた。
「勝ちましたね。良かった」
「前にも同じようなことがあったわ……この陣形、そもそも適切なのかしら? バーナード」
スピカの問いかけに、バーナードは考え込んだ。
「……俺はバーナードも弓を持って後衛二人の方が良いと思うぞ」
ギルタブはボソッと呟く。
「ま、今日までだから、気にしないでおきましょうか」
ライオットが魔獣の身体を剥ぎ取り終わるのを見届け、魔獣狩りを続けた。
---
ケバルライ家に着くと思いもよらない歓待を受けた。
「「ようこそ、騎士様方!」」
祭司のような服装をした臣下達が出迎えた。臣下達の異様に目が輝いている。
皆、身体の線は細く、戦い慣れていないことがわかる。
「すごいわね、ケバルライ家」
「……目が光っている」
「ふっ」
スピカとギルタブは引き攣った笑みでこれに応じた。
ライオットは満更でも無さそうに不敵な笑みを浮かべた後、応じた。
ゾハルは「宿場町の衛兵と打ち合わせがある」として、近隣の宿場町に戻った。
ライオットはその後ろ姿を目を細めて見送っていると、スピカは「また奥様ね」と口角を上げた。その瞳には好奇心が浮かんでいた。
「……ほら記録室に行きますよ」
バーナードは顔を真っ赤にして、ツカツカと奥の部屋へ消えていった。
「あ、いってしまった」
記録室で魔獣討滅の記録を終えると、晩の食事会に案内された。
食事会には、ケバルライ家当主のシンストラ、その妻プリオルも席を同じにしている。
ケバルライ家は失礼にならない程度に、バーナード班の面々やその装備をジロジロとみていた。
「……もう、恥ずかしいなぁ」
「騎士に憧れでもあるのか?」
「まぁ、そうですね」
「ははは……面目ない。我々はどうにも、文官気質の者が多く、騎士に過度な憧れをもっていまして」
「バーナードは晴れて騎士に。ケバルライの誇りです」
シンストラとプリオルの言葉には、熱がこもっていた。
「ところで、どうして文官の方ばかりなのでしょうか? 武官に憧憬があるならば、なられる方がいても不思議ではないかと」
スピカが眉を八の字にして疑問を投げかけた。
すると、ケバルライ家はやや目を細め、お互いに顔を見合わせ、シンストラが少し言葉を口に溜め、解き放つ。
「実は……我が家に騎士を迎えると、領内に魔獣が増えるんです。なので、どうしても騎士になりたい者は、我が領を出るのです」
バーナードはメガネを外し、疲れたかのように目を覆った。
ライオットはその様を見て、眉をひそめた。
「それは何故?」
「理由は分かりかねます。ただ、騎士がいると魔獣は増え、騎士がいないと領内は比較的少数の蝿の魔獣だけが出現します」
シンストラが続けた。
「かつて、我が領内で騎士に憧れを持つ子どもが失踪した事件が相次いだ。これが関係あるのかもしれぬな……ケバルライの者からも失踪者が出ておる」
シンストラはある額縁に飾られた肖像画を指差した。
それには『サビク=ケバルライ』と書かれていた。
ライオットはその絵とバーナードを交互に見ると「似ているでしょ?」と本人に言われる。
「叔父なんだ。サビクさん」
バーナードがポツリとこぼし、パンをちぎって口に頬張る。
プリオルが不安そうにギルタブを見つめる。
「なので、騎士様方……特にギルタブ様は騎士そのものです。夜、お気をつけください。領内で讃美歌が聞こえたら、特に」
「……承知した」
ギルタブの手はかすかに震えていた。
「ところで、これ美味いな」
ライオットは、キノコが和えられた肉料理に舌鼓を打つ。
「この地方での自慢の料理です。これは……」
ライオットが空気を変え、バーナードは料理の説明を始めた。
その後、食事は和やかな雰囲気のまま進み、解散となった。
ライオット達は割り当てられた部屋で休むことになった。
---
ライオットは、食事会の際の話が気になって眠れず、客室そばのバルコニーで星空を見上げていた。
「ライオットも来ていたのね」
「……スピカか」
スピカが隣に並んだ。
すると、彼女の肩越しに大男も見えた。
「……お前たちもか」
「ギルタブは、部屋で休んでいた方が良いんじゃないか?」
「……休んでいたが、讃美歌が聞こえたような気がしてな。歩いて気を紛らわせていたのだ」
スピカは眉をひそめ、目を細めた。
「ギルタブ、今も聞こえるの?」
「……あっちの方から微かに、な」
ギルタブが指差した先には、井戸があった。ライオットは聴覚を研ぎ澄ますが、聞こえない。
「なぁ、バーナードも起こして行ってみないか?」
「反対」
「……反対だ」
二人は顔をしかめ、苦虫を飲み干したような表情。
ライオットは肩を落とした。
「……わかったよ。明日、バーナードに相談しよう。アイツが班長だしな」
「僕がなんだって?」
「わっ!」
後ろから聞こえた声に、スピカは心臓が飛び出そうになる。
「驚きすぎですよ……あ、あの井戸が気になるのですか?」
「明日、班長たるお前に相談してから行こうと思ってな」
スピカとギルタブは、ライオットの顔を見て顔をしかめた。
よほど行きたくないのだろう。
「それなら、今見てきちゃいましょうよ。近くですし」
ライオットは少しだけ笑みを浮かべ、スピカとギルタブは部屋に戻ろうとする。
「金髪女と大男。班長命令だ。行くぞ」
「「……了解」」
四人は武器を持ち、井戸に向かった。
井戸は口を開け、微かに聞こえる讃美歌は喜びの声が混じる。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる