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第9パケ 「一億円のゆくえ」
【筋トレ中毒のシャブ屋】
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「一億円のゆくえ」
その夜、俺は筋トレを終えると、ターゲットとする客5人にメールをし、明日に一度会いたいことを伝え、すぐに寝てしまった。
次の日の朝早く、全身筋肉痛の身体を引き摺って自宅の階段を降りると、2分で朝飯を済ませ、弁当を作り終え、トミーの自宅へクーラーボックスを取りに向かった。
トミーの大豪邸に着くと、レクサスをはじめ、高級車がズラリと並んでいる。
緩やかな階段を昇り玄関に辿り着くと、玄関前の踊り場の横にある庭の中でトミーはいつもの様に木の剪定をしていた。
こちらから話しかけようとすると、俺に気付いたトミーが妙なことを言い出した。
「ああ、小太郎おはよう!なに、また預かりものか?」
意味がよくわからなかったが、(追加の荷物があると思ってるのかな?)等と考えながら応答した。
「いや、ちゃうねん。今日は引き取りだけでええねん」
トミーのよく焼けた顔色にわずかな変化が見られる。
「え?あのクーラーボックスか? もう持ち去ったんやろ?」
嫌な予感がしたが、認めたくなかった。
万一予感が的中した所でトミーに罪はない。しかしこの不安と怒りを誰にぶつけたら良いのか、一瞬で胸が潰される様に苦しくなった。
「トミー…。ちゃうねん。俺、あれからここに来るの初めてやねん。冗談やろ?」
今度はトミーが、剪定鋏を両手に持ち、脚立の上に立ったまま固まってしまった。
「いや、母親がそんな汚ならしいクーラーボックスは、玄関先に置いときなさいってゆうからさあ…」
その先は聞かなくても、トミーの言いたいことはわかった。
自分でも驚いたが、気付けば両目から涙が溢れていた。
(半端ない!半端ない額やで…。 富裕層のトミーでもキャラメル買う様には貸してくれんやろ…。ヤバイで! これはヤバイで…)
玄関周りや、先が見通せないほど広いトミーの自宅の廊下を隅々まで確認するが、青い箱は見当たらなかった。
どう考えてもトミーが中身を確認してネコババしたとは考えられない。
トミーはそんなヤツじゃない。
この可笑しな俺を15年間も精神的にも売上げ的にも支えてくれたトミー…。
俺は、玄関前の広々とした踊り場に突っ伏して、音をたてないように泣いた。
まるでスーパーマーケットで「チョコビ買うて~!」と駄々をこねるガキの様に、地にへばりついて。
トミーが心配そうな顔をして近寄って来る。
「小太郎…。ごめん。そんなにあれ大切なものだったのか?僕知らんかったから。ごめんな。中身何だったの? 僕預かった責任あるし弁償するわ。いくら?いくらで買えるの?」
トミーの気概と優しさが心に沁みて、我慢していた声が漏れ出してしまった。
「いやや~!トミー!俺殺される!土左衛門や!中華街や!牛豚鳥とミックスいやや~!Cozyもみっこ太郎で、可愛い女の子待ち続けたいねん!!!」
「わかったから、もう泣かなくていいから、なっ?いくらで買えるの?僕今からおんなじの買ってくるからさ。なっ?もう泣かんといてよ」
流石に、権堂との一連の流れをトミーに話す気にはなれなかった。
俺が若い頃からして来た悪事を知りつつ、エリートの富裕層でありながら、腹を割って付き合ってくれたトミーだったから。
「トミー、ええわ!すまんかった。ワシ勘違いやねん。そう言やぁ、昨夜に取りに来て、もうしまいこんだんやったわ!すまんすまん!へへへへ~!」
「本当か?大丈夫か?何や昨夜飲みすぎたのか?」
「大丈夫やで、大丈夫やで、問題あらへんわ!さいなら!」
溢れる涙と身体の震えが抑えられる内に、急いでその場を立ち去った。
豪邸の部屋の中では、トミーの家族が不思議な顔をして俺を眺めていた。
(うう…。ううう…。わたしは…、わたしは…貝になりたい。あの深い深い海の底で、誰にも気付かれず、わたしは貝になりたいのです…)
またもや逃げセリフを独りごちて、周りを見渡してはみたものの、内陸の岐阜に海は見当たらなかった。
けだし、あんな大金を人に預けた自らを呪うほかなかったのである。
第9パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
おわり
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