9 / 11
第9パケ 「一億円のゆくえ」
【筋トレ中毒のシャブ屋】
しおりを挟む第9パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
「一億円のゆくえ」
その夜、俺は筋トレを終えると、ターゲットとする客5人にメールをし、明日に一度会いたいことを伝え、すぐに寝てしまった。
次の日の朝早く、全身筋肉痛の身体を引き摺って自宅の階段を降りると、2分で朝飯を済ませ、弁当を作り終え、トミーの自宅へクーラーボックスを取りに向かった。
トミーの大豪邸に着くと、レクサスをはじめ、高級車がズラリと並んでいる。
緩やかな階段を昇り玄関に辿り着くと、玄関前の踊り場の横にある庭の中でトミーはいつもの様に木の剪定をしていた。
こちらから話しかけようとすると、俺に気付いたトミーが妙なことを言い出した。
「ああ、小太郎おはよう!なに、また預かりものか?」
意味がよくわからなかったが、(追加の荷物があると思ってるのかな?)等と考えながら応答した。
「いや、ちゃうねん。今日は引き取りだけでええねん」
トミーのよく焼けた顔色にわずかな変化が見られる。
「え?あのクーラーボックスか? もう持ち去ったんやろ?」
嫌な予感がしたが、認めたくなかった。
万一予感が的中した所でトミーに罪はない。しかしこの不安と怒りを誰にぶつけたら良いのか、一瞬で胸が潰される様に苦しくなった。
「トミー…。ちゃうねん。俺、あれからここに来るの初めてやねん。冗談やろ?」
今度はトミーが、剪定鋏を両手に持ち、脚立の上に立ったまま固まってしまった。
「いや、母親がそんな汚ならしいクーラーボックスは、玄関先に置いときなさいってゆうからさあ…」
その先は聞かなくても、トミーの言いたいことはわかった。
自分でも驚いたが、気付けば両目から涙が溢れていた。
(半端ない!半端ない額やで…。 富裕層のトミーでもキャラメル買う様には貸してくれんやろ…。ヤバイで! これはヤバイで…)
玄関周りや、先が見通せないほど広いトミーの自宅の廊下を隅々まで確認するが、青い箱は見当たらなかった。
どう考えてもトミーが中身を確認してネコババしたとは考えられない。
トミーはそんなヤツじゃない。
この可笑しな俺を15年間も精神的にも売上げ的にも支えてくれたトミー…。
俺は、玄関前の広々とした踊り場に突っ伏して、音をたてないように泣いた。
まるでスーパーマーケットで「チョコビ買うて~!」と駄々をこねるガキの様に、地にへばりついて。
トミーが心配そうな顔をして近寄って来る。
「小太郎…。ごめん。そんなにあれ大切なものだったのか?僕知らんかったから。ごめんな。中身何だったの? 僕預かった責任あるし弁償するわ。いくら?いくらで買えるの?」
トミーの気概と優しさが心に沁みて、我慢していた声が漏れ出してしまった。
「いやや~!トミー!俺殺される!土左衛門や!中華街や!牛豚鳥とミックスいやや~!Cozyもみっこ太郎で、可愛い女の子待ち続けたいねん!!!」
「わかったから、もう泣かなくていいから、なっ?いくらで買えるの?僕今からおんなじの買ってくるからさ。なっ?もう泣かんといてよ」
流石に、権堂との一連の流れをトミーに話す気にはなれなかった。
俺が若い頃からして来た悪事を知りつつ、エリートの富裕層でありながら、腹を割って付き合ってくれたトミーだったから。
「トミー、ええわ!すまんかった。ワシ勘違いやねん。そう言やぁ、昨夜に取りに来て、もうしまいこんだんやったわ!すまんすまん!へへへへ~!」
「本当か?大丈夫か?何や昨夜飲みすぎたのか?」
「大丈夫やで、大丈夫やで、問題あらへんわ!さいなら!」
溢れる涙と身体の震えが抑えられる内に、急いでその場を立ち去った。
豪邸の部屋の中では、トミーの家族が不思議な顔をして俺を眺めていた。
(うう…。ううう…。わたしは…、わたしは…貝になりたい。あの深い深い海の底で、誰にも気付かれず、わたしは貝になりたいのです…)
またもや逃げセリフを独りごちて、周りを見渡してはみたものの、内陸の岐阜に海は見当たらなかった。
けだし、あんな大金を人に預けた自らを呪うほかなかったのである。
第9パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
おわり
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる