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「……五、〇、〇、〇、〇。……ふふっ」
執務室のデスクで、私は通帳(魔導記録媒体)の数字を見つめ、不気味な笑みを漏らしていた。
金貨五万枚。
入金確認、完了。
これにより、私の総資産は国家予算規模に膨れ上がった。
もはや「老後資金」などというレベルではない。
「孫の代まで遊んで暮らせる資金」だ。
「……素晴らしい。これが『不労所得』の極みですね」
私は通帳を頬にすり寄せた。
冷たい感触がたまらない。
これでもう、あくせく働く必要はない。
今すぐ辞表を叩きつけ、南の島で猫と戯れる日々を送る権利(オプション)を、私は手に入れたのだ。
「……」
しかし。
そんな私を、デスクの向こうからじっと見つめる視線があった。
クライヴ殿下だ。
彼は朝から一言も喋らず、書類もめくらず、ただひたすらに私を目で追っている。
その目は、捨てられた子犬のように湿っぽく、そしてどこか焦燥に駆られていた。
「……殿下。視線が痛いのですが」
私が顔を上げると、殿下はビクッとして視線を逸らした。
「い、いや……何でもない。……その、嬉しそうだなと思って」
「ええ、もちろんです。人生の勝者(ウィナー)になった気分ですから」
「……そうか。……なら、もうこの仕事も必要ないな」
殿下の声が、消え入りそうに小さくなる。
「え?」
「金貨五万枚だぞ? 一生遊んで暮らせる額だ。わざわざ他国の皇太子の下で、面倒な書類整理や害虫駆除(貴族対応)をする必要なんて……もう、どこにもないだろう」
殿下は自嘲気味に笑った。
「君は自由だ。……南の島でも、どこへでも行ける」
ああ、なるほど。
この人は、それを心配していたのか。
私が金を手に入れたことで、今の雇用契約に縛られる理由がなくなった。
つまり、「いつでも逃げられる」状態になったことに気づき、戦々恐々としているのだ。
(……可愛いところがありますね)
私は通帳をパタンと閉じた。
「殿下。一つ勘違いされています」
「勘違い?」
「私は『働く必要がなくなった』のではありません。『好きな仕事だけを選べるようになった』のです」
「……どういう意味だ?」
「今の仕事、嫌いじゃありませんから」
私は書類の山を指差した。
「混沌とした数字を整え、無駄を削ぎ落とし、効率化する。このパズルを解くような快感は、南の島で昼寝をしているだけでは得られません。それに……」
私はちらりと殿下を見た。
「ここには、私の提案を面白がって採用してくれる、優秀なボスがいますからね」
「……っ」
殿下の顔が、パァッと明るくなる。
「そ、そうか! 君はまだ、私の元にいてくれるのか!」
「ええ。契約期間満了までは」
「……契約期間?」
「あと半年ですね。その後は更新するか、猫と隠居するか、その時の気分と条件次第です」
私が意地悪く言うと、殿下の表情が再び曇った。
ジェットコースターのように忙しい人だ。
◇
その日の夕方。
「では、定時ですのでお先に失礼します」
私は鞄を手に取り、立ち上がった。
今日の業務は完璧に消化した。
タルト屋に寄って帰る予定だ。
「……待て」
背後から、低い声がかかった。
「殿下? 残業はしませんよ。契約条項第1条をご確認ください」
「仕事の話ではない」
殿下が立ち上がり、ツカツカと歩み寄ってくる。
その歩幅がいつもより大きく、圧が強い。
「少し、話がある」
「明日でいいのでは?」
「今だ。今じゃなきゃダメだ」
殿下は私の手首を掴み、強引に執務室の壁際へと誘導した。
そして――。
ドンッ!
私の顔の横に、殿下の手がつかれた。
いわゆる「壁ドン」だ。
至近距離。
整った顔が、目の前に迫る。
「……殿下。これは何の真似ですか? パワハラとして訴えますよ?」
私は冷静に指摘したが、心臓は裏腹に暴れていた。
ドクン、ドクン。
眼精疲労(仮)が再発している。
「……ニオ。君は『気分次第』と言ったな」
殿下の瞳が、真剣な光を宿して私を射抜く。
「半年後。……もし君が『隠居したい』と思っても、私は君を手放すつもりはない」
「……契約は双方の合意が必要です」
「合意などさせる。給与なら今の十倍出す。休暇も増やす。猫専用の離宮も建ててやる。……君が望むなら、私の全財産を投げ打ってもいい」
殿下の切羽詰まった声。
それは、単なる「有能な部下」への執着を超えていた。
「金貨五万枚など、はした金だと思わせるくらい、私の方が君を厚遇してみせる。だから……」
殿下のもう片方の手が、私の頬を包み込んだ。
「帰るな。……どこへも行くな」
甘く、低い囁き。
耳元でその声を聞いた瞬間、私の背筋にゾクゾクとした電流が走った。
「……殿下。それは、上司としての命令ですか?」
私は震える声を隠して尋ねた。
「いいや」
殿下は首を横に振り、額を私の額にコツンと合わせた。
「懇願だ。……一人の男としての」
「……っ」
私の思考回路がショートした。
計算機がエラーを吐き出し、煙を上げている。
合理的?
効率的?
そんな言葉が、この熱量の前では意味をなさない。
「……ずるいですね、殿下は」
私は目を伏せた。
「そんな風に言われたら……値上げ交渉(ベースアップ)がしにくいじゃありませんか」
「……受け入れてくれるか?」
「検討します。……前向きに」
私が答えると、殿下は安堵したように息を吐き、へなへなと私の肩に頭を預けてきた。
「よかった……。君がいなくなったら、私はまたゴミ屋敷の住人になるところだった」
「そこですか」
「嘘だ。……寂しくて死ぬところだった」
殿下の小さな呟きが、胸に刺さる。
(……やれやれ)
私は殿下の背中に手を回し、ポンポンとあやした。
どうやら私は、とんでもなく大きな「大型犬」を飼い慣らしてしまったらしい。
老後は猫と暮らす予定だったが、これでは犬の世話も追加されそうだ。
だが。
そんな甘い雰囲気も、長くは続かなかった。
コンコンコン!
激しいノックの音が、執務室に響いた。
「し、失礼します! 緊急報告です!」
空気を読まないタイミングで入ってきたのは、またしてもセバスだった。
彼は壁ドン状態の私たちを見て一瞬固まったが、プロの執事として見なかったことにし、報告を続けた。
「ニオ様、クライヴ殿下。……レイガルド王国より、新たな動きがありました」
「……またか」
殿下が不機嫌そうに私から離れる。
「金は払っただろう。今度は何だ? まさか『金が足りないから返せ』とでも言ってきたか?」
「いえ、逆です」
セバスは一枚のポスターのような紙を広げた。
「彼ら、ニオ様に戻ってきてもらうために、『国民的キャンペーン』を開始したようです」
「キャンペーン?」
私がそのポスターを見ると、そこには極彩色でこう書かれていた。
『帰ってきて! 我らが女神ニオ様!
~ニオ様帰還嘆願フェスティバル開催中~
※署名した方には、ジェラルド王子のブロマイドをプレゼント!』
「……吐き気がします」
私はポスターを即座に破り捨てた。
私の名前を勝手に使い、あろうことか元婚約者のブロマイドの販促に利用するとは。
著作権侵害も甚だしい。
「さらに、彼らは『ニオ様の素晴らしさを称える歌』を作り、国中の吟遊詩人に歌わせているそうです」
「公害ですね」
「そして……これが最大の問題なのですが」
セバスの声が低くなった。
「このキャンペーンが盛り上がりすぎたせいで、一部の過激派……かつてリリナ嬢を崇拝していた『リリナ親衛隊』の残党が、逆上しているとの情報が入りました」
「……リリナ親衛隊?」
「はい。『魔女ニオが国を乗っ取ろうとしている』『金を巻き上げた悪女を許すな』と騒ぎ立て……どうやら、ニオ様を物理的に排除しようと、こちらの国へ向かっているようです」
「……ほう」
殿下の目が、スゥッと細められた。
先ほどまでの甘い雰囲気は消え失せ、冷徹な支配者の顔に戻っている。
「排除、だと?」
「はい。誘拐、あるいは暗殺を企てている可能性も……」
「面白い」
殿下は腰の剣に手をかけた。
「私の大事な『投資先』に手を出そうとは……。金貨五万枚をドブに捨てるどころか、命まで捨てに来るとはな」
「殿下、落ち着いてください。血を見ればクリーニング代がかかります」
私は冷静に制止したが、内心では舌打ちしていた。
(……面倒なことになりましたね)
金を巻き上げて「ハイさようなら」のつもりが、向こうの暴走(キャンペーン)のせいで、新たな火種(狂信者)を呼び寄せてしまったようだ。
「ニオ。君は私の側を離れるな。……今夜は、私の寝室で警護する」
「……はい? それはドサクサに紛れたセクハラでは?」
「緊急避難だ! 背に腹は代えられんだろう!」
殿下の顔が赤い。
どうやら本気で心配しているのと、下心が半々らしい。
しかし、事態は我々の予想よりも早く動いていた。
リリナ親衛隊の魔の手は、すでに王都の中にまで伸びていたのである。
執務室のデスクで、私は通帳(魔導記録媒体)の数字を見つめ、不気味な笑みを漏らしていた。
金貨五万枚。
入金確認、完了。
これにより、私の総資産は国家予算規模に膨れ上がった。
もはや「老後資金」などというレベルではない。
「孫の代まで遊んで暮らせる資金」だ。
「……素晴らしい。これが『不労所得』の極みですね」
私は通帳を頬にすり寄せた。
冷たい感触がたまらない。
これでもう、あくせく働く必要はない。
今すぐ辞表を叩きつけ、南の島で猫と戯れる日々を送る権利(オプション)を、私は手に入れたのだ。
「……」
しかし。
そんな私を、デスクの向こうからじっと見つめる視線があった。
クライヴ殿下だ。
彼は朝から一言も喋らず、書類もめくらず、ただひたすらに私を目で追っている。
その目は、捨てられた子犬のように湿っぽく、そしてどこか焦燥に駆られていた。
「……殿下。視線が痛いのですが」
私が顔を上げると、殿下はビクッとして視線を逸らした。
「い、いや……何でもない。……その、嬉しそうだなと思って」
「ええ、もちろんです。人生の勝者(ウィナー)になった気分ですから」
「……そうか。……なら、もうこの仕事も必要ないな」
殿下の声が、消え入りそうに小さくなる。
「え?」
「金貨五万枚だぞ? 一生遊んで暮らせる額だ。わざわざ他国の皇太子の下で、面倒な書類整理や害虫駆除(貴族対応)をする必要なんて……もう、どこにもないだろう」
殿下は自嘲気味に笑った。
「君は自由だ。……南の島でも、どこへでも行ける」
ああ、なるほど。
この人は、それを心配していたのか。
私が金を手に入れたことで、今の雇用契約に縛られる理由がなくなった。
つまり、「いつでも逃げられる」状態になったことに気づき、戦々恐々としているのだ。
(……可愛いところがありますね)
私は通帳をパタンと閉じた。
「殿下。一つ勘違いされています」
「勘違い?」
「私は『働く必要がなくなった』のではありません。『好きな仕事だけを選べるようになった』のです」
「……どういう意味だ?」
「今の仕事、嫌いじゃありませんから」
私は書類の山を指差した。
「混沌とした数字を整え、無駄を削ぎ落とし、効率化する。このパズルを解くような快感は、南の島で昼寝をしているだけでは得られません。それに……」
私はちらりと殿下を見た。
「ここには、私の提案を面白がって採用してくれる、優秀なボスがいますからね」
「……っ」
殿下の顔が、パァッと明るくなる。
「そ、そうか! 君はまだ、私の元にいてくれるのか!」
「ええ。契約期間満了までは」
「……契約期間?」
「あと半年ですね。その後は更新するか、猫と隠居するか、その時の気分と条件次第です」
私が意地悪く言うと、殿下の表情が再び曇った。
ジェットコースターのように忙しい人だ。
◇
その日の夕方。
「では、定時ですのでお先に失礼します」
私は鞄を手に取り、立ち上がった。
今日の業務は完璧に消化した。
タルト屋に寄って帰る予定だ。
「……待て」
背後から、低い声がかかった。
「殿下? 残業はしませんよ。契約条項第1条をご確認ください」
「仕事の話ではない」
殿下が立ち上がり、ツカツカと歩み寄ってくる。
その歩幅がいつもより大きく、圧が強い。
「少し、話がある」
「明日でいいのでは?」
「今だ。今じゃなきゃダメだ」
殿下は私の手首を掴み、強引に執務室の壁際へと誘導した。
そして――。
ドンッ!
私の顔の横に、殿下の手がつかれた。
いわゆる「壁ドン」だ。
至近距離。
整った顔が、目の前に迫る。
「……殿下。これは何の真似ですか? パワハラとして訴えますよ?」
私は冷静に指摘したが、心臓は裏腹に暴れていた。
ドクン、ドクン。
眼精疲労(仮)が再発している。
「……ニオ。君は『気分次第』と言ったな」
殿下の瞳が、真剣な光を宿して私を射抜く。
「半年後。……もし君が『隠居したい』と思っても、私は君を手放すつもりはない」
「……契約は双方の合意が必要です」
「合意などさせる。給与なら今の十倍出す。休暇も増やす。猫専用の離宮も建ててやる。……君が望むなら、私の全財産を投げ打ってもいい」
殿下の切羽詰まった声。
それは、単なる「有能な部下」への執着を超えていた。
「金貨五万枚など、はした金だと思わせるくらい、私の方が君を厚遇してみせる。だから……」
殿下のもう片方の手が、私の頬を包み込んだ。
「帰るな。……どこへも行くな」
甘く、低い囁き。
耳元でその声を聞いた瞬間、私の背筋にゾクゾクとした電流が走った。
「……殿下。それは、上司としての命令ですか?」
私は震える声を隠して尋ねた。
「いいや」
殿下は首を横に振り、額を私の額にコツンと合わせた。
「懇願だ。……一人の男としての」
「……っ」
私の思考回路がショートした。
計算機がエラーを吐き出し、煙を上げている。
合理的?
効率的?
そんな言葉が、この熱量の前では意味をなさない。
「……ずるいですね、殿下は」
私は目を伏せた。
「そんな風に言われたら……値上げ交渉(ベースアップ)がしにくいじゃありませんか」
「……受け入れてくれるか?」
「検討します。……前向きに」
私が答えると、殿下は安堵したように息を吐き、へなへなと私の肩に頭を預けてきた。
「よかった……。君がいなくなったら、私はまたゴミ屋敷の住人になるところだった」
「そこですか」
「嘘だ。……寂しくて死ぬところだった」
殿下の小さな呟きが、胸に刺さる。
(……やれやれ)
私は殿下の背中に手を回し、ポンポンとあやした。
どうやら私は、とんでもなく大きな「大型犬」を飼い慣らしてしまったらしい。
老後は猫と暮らす予定だったが、これでは犬の世話も追加されそうだ。
だが。
そんな甘い雰囲気も、長くは続かなかった。
コンコンコン!
激しいノックの音が、執務室に響いた。
「し、失礼します! 緊急報告です!」
空気を読まないタイミングで入ってきたのは、またしてもセバスだった。
彼は壁ドン状態の私たちを見て一瞬固まったが、プロの執事として見なかったことにし、報告を続けた。
「ニオ様、クライヴ殿下。……レイガルド王国より、新たな動きがありました」
「……またか」
殿下が不機嫌そうに私から離れる。
「金は払っただろう。今度は何だ? まさか『金が足りないから返せ』とでも言ってきたか?」
「いえ、逆です」
セバスは一枚のポスターのような紙を広げた。
「彼ら、ニオ様に戻ってきてもらうために、『国民的キャンペーン』を開始したようです」
「キャンペーン?」
私がそのポスターを見ると、そこには極彩色でこう書かれていた。
『帰ってきて! 我らが女神ニオ様!
~ニオ様帰還嘆願フェスティバル開催中~
※署名した方には、ジェラルド王子のブロマイドをプレゼント!』
「……吐き気がします」
私はポスターを即座に破り捨てた。
私の名前を勝手に使い、あろうことか元婚約者のブロマイドの販促に利用するとは。
著作権侵害も甚だしい。
「さらに、彼らは『ニオ様の素晴らしさを称える歌』を作り、国中の吟遊詩人に歌わせているそうです」
「公害ですね」
「そして……これが最大の問題なのですが」
セバスの声が低くなった。
「このキャンペーンが盛り上がりすぎたせいで、一部の過激派……かつてリリナ嬢を崇拝していた『リリナ親衛隊』の残党が、逆上しているとの情報が入りました」
「……リリナ親衛隊?」
「はい。『魔女ニオが国を乗っ取ろうとしている』『金を巻き上げた悪女を許すな』と騒ぎ立て……どうやら、ニオ様を物理的に排除しようと、こちらの国へ向かっているようです」
「……ほう」
殿下の目が、スゥッと細められた。
先ほどまでの甘い雰囲気は消え失せ、冷徹な支配者の顔に戻っている。
「排除、だと?」
「はい。誘拐、あるいは暗殺を企てている可能性も……」
「面白い」
殿下は腰の剣に手をかけた。
「私の大事な『投資先』に手を出そうとは……。金貨五万枚をドブに捨てるどころか、命まで捨てに来るとはな」
「殿下、落ち着いてください。血を見ればクリーニング代がかかります」
私は冷静に制止したが、内心では舌打ちしていた。
(……面倒なことになりましたね)
金を巻き上げて「ハイさようなら」のつもりが、向こうの暴走(キャンペーン)のせいで、新たな火種(狂信者)を呼び寄せてしまったようだ。
「ニオ。君は私の側を離れるな。……今夜は、私の寝室で警護する」
「……はい? それはドサクサに紛れたセクハラでは?」
「緊急避難だ! 背に腹は代えられんだろう!」
殿下の顔が赤い。
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