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翌朝、私は一睡もできないまま、リビングで山のようなプレゼントに囲まれていた。
「お嬢様、またお荷物が届きました。……今度は、隣国の最高級シルクを用いた特注のパジャマだそうです」
「もういいわ……。そこらへんに積んでおいてちょうだい、セバス」
執事の声に力なく答える。
国外追放される人間が、なぜ最高級のパジャマで寝る準備を整えなければならないのか。
意味がわからない。
そんな混乱の最中、公爵邸の玄関先で甲高い笑い声が響いた。
「あらあら! まだこんなところにいたのかしら、惨めな悪役令嬢さんは!」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、昨夜の主役――男爵令嬢のミリア様だった。
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私の前に立つ。
「ミリア様……。どうして我が家へ?」
「決まっているじゃない! あなたがいつまでも居座っているから、殿下に代わって追い出しに来てあげたのよ!」
ミリア様は腰に手を当てて、私の周囲に積まれた箱を蔑むように一瞥した。
「何よ、この荷物は。国外へ逃げ出すための準備? ずいぶんと往生際が悪いこと。公爵家の財産を持ち逃げするつもりかしら?」
「いいえ、これはすべて、殿下から贈られてきたもので……」
私が正直に答えると、ミリア様は一瞬だけ呆然とした顔になり、その後すぐに顔を真っ赤にして笑い飛ばした。
「は、はあ!? 殿下があなたにプレゼント? 笑わせないで! 殿下は私を愛しているのよ! これはきっと、あなたが無理やり殿下の名前を使って注文した偽物に決まってるわ!」
「……そう思いたいのでしたら、それでも構いませんわ」
私は深いため息をついて、扇子を広げた。
緊張するとどうしても「威圧モード」になってしまう私の癖が、ここで発動する。
「ですが、もしこれらが偽物だとしたら、王家の紋章が入ったこの送り状はどう説明すればよろしいのかしら?」
「なっ……!?」
ミリア様が送り状をひったくるようにして確認する。
そこには確かに、王家の刻印と、アルフォンス殿下の直筆サインがあった。
「嘘よ……。殿下はあんなに厳しくあなたを断罪したのに! あ、わかったわ! これはあれね!『ゴミを片付けるための手数料』として、慈悲深い殿下が小銭を恵んでくださったのね!」
……この山のような宝石やドレスが、小銭?
ミリア様のポジティブすぎる解釈に、私は言葉を失った。
「いい、カタリーナ! あなたがどれだけ小細工をしても無駄よ! 私は追加の証拠も持っているんだから!」
彼女はバサリと束ねられた紙を私の前のテーブルに叩きつけた。
「これは?」
「あなたが、私に送った脅迫状の数々よ!」
私は差し出された紙を一枚手に取った。
『ミリア様へ。本日のお茶会でお出ししたクッキーは、少し焼きすぎたかもしれません。お口に合わなかったら申し訳ありません。お詫びに、明日はもっと美味しいものを用意しますわ。 カタリーナより』
……。
「……ミリア様、これのどこが脅迫状なのですか?」
「何言ってるの!?『明日はもっと美味しいもの(毒入り)を用意しますわ』っていう意味に決まってるじゃない! 私、怖くて一晩中眠れなかったんだから!」
「それは単に、私のクッキーの出来栄えに不安があっただけで……」
「言い訳は見苦しいわよ! この『焼きすぎた』っていうのも、『あなたを火刑に処してやる』っていう比喩でしょう!?」
想像力が豊かすぎる。
もはや、ミリア様の頭の中では、私の挨拶一つ一つが死の宣告に変換されているらしい。
「殿下はもうすぐここへいらっしゃるわ! そして、この追加の証拠を見て、あなたを今度こそ牢屋へぶち込むのよ!」
ミリア様は高笑いを上げながら、玄関の方を指差した。
ちょうどその時。
「――ほう、私を呼んだかな?」
低い、しかしどこか弾むような声と共に、玄関の扉が開いた。
そこには、正装に身を包み、なぜか普段の三倍はキラキラとしたオーラを放っているアルフォンス殿下の姿があった。
「殿下ぁ!」
ミリア様が駆け寄る。
「見てください、殿下! この悪女、まだこんなところで贅沢三昧しているんです! しかも、私にこんな恐ろしい脅迫状まで!」
殿下はミリア様から差し出された『クッキーの反省文』を一読した。
すると。
「……素晴らしい」
「え?」
ミリア様が呆けた声を出す。
「この控えめな文章の中に秘められた、カタリーナの深い愛情と気遣い……。やはり、私の選んだ女性に狂いはなかった」
殿下はうっとりとした表情で紙を胸に抱きしめた。
「ちょっと、殿下!? 何を仰っているんですか!?」
「ミリア嬢。君の役割はもう終わった。夜会での大根芝居に付き合ってくれたことには感謝するが……」
殿下はミリア様を冷たくあしらうと、一直線に私の方へ歩いてきた。
そして、私の手を取り、跪く。
「おはよう、私の愛しい悪女(カタリーナ)。昨夜はよく眠れたかな? ……おや、少しクマがあるね。私の贈り物が足りなかったかな? それとも、今すぐ添い寝が必要かい?」
「……。……は?」
私は扇子を落とした。
背後では、ミリア様が「あ……あ……」と金魚のように口をパクパクさせている。
事態は、私の予想を遥かに超えた方向へと加速し始めていた。
「お嬢様、またお荷物が届きました。……今度は、隣国の最高級シルクを用いた特注のパジャマだそうです」
「もういいわ……。そこらへんに積んでおいてちょうだい、セバス」
執事の声に力なく答える。
国外追放される人間が、なぜ最高級のパジャマで寝る準備を整えなければならないのか。
意味がわからない。
そんな混乱の最中、公爵邸の玄関先で甲高い笑い声が響いた。
「あらあら! まだこんなところにいたのかしら、惨めな悪役令嬢さんは!」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、昨夜の主役――男爵令嬢のミリア様だった。
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私の前に立つ。
「ミリア様……。どうして我が家へ?」
「決まっているじゃない! あなたがいつまでも居座っているから、殿下に代わって追い出しに来てあげたのよ!」
ミリア様は腰に手を当てて、私の周囲に積まれた箱を蔑むように一瞥した。
「何よ、この荷物は。国外へ逃げ出すための準備? ずいぶんと往生際が悪いこと。公爵家の財産を持ち逃げするつもりかしら?」
「いいえ、これはすべて、殿下から贈られてきたもので……」
私が正直に答えると、ミリア様は一瞬だけ呆然とした顔になり、その後すぐに顔を真っ赤にして笑い飛ばした。
「は、はあ!? 殿下があなたにプレゼント? 笑わせないで! 殿下は私を愛しているのよ! これはきっと、あなたが無理やり殿下の名前を使って注文した偽物に決まってるわ!」
「……そう思いたいのでしたら、それでも構いませんわ」
私は深いため息をついて、扇子を広げた。
緊張するとどうしても「威圧モード」になってしまう私の癖が、ここで発動する。
「ですが、もしこれらが偽物だとしたら、王家の紋章が入ったこの送り状はどう説明すればよろしいのかしら?」
「なっ……!?」
ミリア様が送り状をひったくるようにして確認する。
そこには確かに、王家の刻印と、アルフォンス殿下の直筆サインがあった。
「嘘よ……。殿下はあんなに厳しくあなたを断罪したのに! あ、わかったわ! これはあれね!『ゴミを片付けるための手数料』として、慈悲深い殿下が小銭を恵んでくださったのね!」
……この山のような宝石やドレスが、小銭?
ミリア様のポジティブすぎる解釈に、私は言葉を失った。
「いい、カタリーナ! あなたがどれだけ小細工をしても無駄よ! 私は追加の証拠も持っているんだから!」
彼女はバサリと束ねられた紙を私の前のテーブルに叩きつけた。
「これは?」
「あなたが、私に送った脅迫状の数々よ!」
私は差し出された紙を一枚手に取った。
『ミリア様へ。本日のお茶会でお出ししたクッキーは、少し焼きすぎたかもしれません。お口に合わなかったら申し訳ありません。お詫びに、明日はもっと美味しいものを用意しますわ。 カタリーナより』
……。
「……ミリア様、これのどこが脅迫状なのですか?」
「何言ってるの!?『明日はもっと美味しいもの(毒入り)を用意しますわ』っていう意味に決まってるじゃない! 私、怖くて一晩中眠れなかったんだから!」
「それは単に、私のクッキーの出来栄えに不安があっただけで……」
「言い訳は見苦しいわよ! この『焼きすぎた』っていうのも、『あなたを火刑に処してやる』っていう比喩でしょう!?」
想像力が豊かすぎる。
もはや、ミリア様の頭の中では、私の挨拶一つ一つが死の宣告に変換されているらしい。
「殿下はもうすぐここへいらっしゃるわ! そして、この追加の証拠を見て、あなたを今度こそ牢屋へぶち込むのよ!」
ミリア様は高笑いを上げながら、玄関の方を指差した。
ちょうどその時。
「――ほう、私を呼んだかな?」
低い、しかしどこか弾むような声と共に、玄関の扉が開いた。
そこには、正装に身を包み、なぜか普段の三倍はキラキラとしたオーラを放っているアルフォンス殿下の姿があった。
「殿下ぁ!」
ミリア様が駆け寄る。
「見てください、殿下! この悪女、まだこんなところで贅沢三昧しているんです! しかも、私にこんな恐ろしい脅迫状まで!」
殿下はミリア様から差し出された『クッキーの反省文』を一読した。
すると。
「……素晴らしい」
「え?」
ミリア様が呆けた声を出す。
「この控えめな文章の中に秘められた、カタリーナの深い愛情と気遣い……。やはり、私の選んだ女性に狂いはなかった」
殿下はうっとりとした表情で紙を胸に抱きしめた。
「ちょっと、殿下!? 何を仰っているんですか!?」
「ミリア嬢。君の役割はもう終わった。夜会での大根芝居に付き合ってくれたことには感謝するが……」
殿下はミリア様を冷たくあしらうと、一直線に私の方へ歩いてきた。
そして、私の手を取り、跪く。
「おはよう、私の愛しい悪女(カタリーナ)。昨夜はよく眠れたかな? ……おや、少しクマがあるね。私の贈り物が足りなかったかな? それとも、今すぐ添い寝が必要かい?」
「……。……は?」
私は扇子を落とした。
背後では、ミリア様が「あ……あ……」と金魚のように口をパクパクさせている。
事態は、私の予想を遥かに超えた方向へと加速し始めていた。
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