これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな

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「嫌! 離して! 私はヒロインなのよ! こんなの、お話が違うわー!」

近衛騎士たちに左右から腕を掴まれ、引きずられていくミリア様の叫び声が、廊下の向こうへ消えていく。

……嵐が去ったような静寂が、リビングに訪れた。

残されたのは、跪いたまま私の手を握りしめているアルフォンス殿下と、困惑の極致にいる私。

そして、なぜか「よくぞ仰った」と言わんばかりに深く頷いている執事のセバスだけだ。

「……殿下。もう、手を離していただけませんか?」

「断る。君が国外追放(という名の自由)に怯えて、どこかへ消えてしまわないよう、私は君を繋ぎ止めておかねばならない」

「いや、追放しろと言ったのは殿下でしょうに……」

私はあえて冷ややかな視線を送った。

すると殿下は、「くっ、その蔑むような目……! たまらない……!」と、今度は反対側の手で顔を覆って悶絶し始めた。

この王子、やはりどこかおかしい。

「説明してください。ミリア様がスパイだったというお話も、私が『推し』だという不可解な発言も」

「ふむ。カタリーナ、君は自分がどうして『悪役令嬢』などと呼ばれているか、考えたことはあるかい?」

殿下がようやく真面目な顔(といっても、目はまだキラキラしているが)で私を見た。

「それは……私の目つきが悪く、公爵家としての誇りを守るために毅然とした態度を貫いてきたからですわ。結果として、周囲を威圧してしまったことは認めますけれど」

「違うよ。君がどれほど純粋で、緊張すると顔が強張るだけの不器用な令嬢か、私は最初から知っていた」

殿下は、私の手の甲にそっと唇を寄せた。

「だが、周囲は違った。君の『悪役』としての評判を利用して、君を追い落とし、公爵家の権力を削ごうとする連中が後を絶たなかった。ミリア嬢もその一人に過ぎない」

「利用……されていたのですか? 私が?」

「ああ。だから私は、彼らを一網打尽にするための舞台を用意したんだ。それが、昨夜の『婚約破棄』だ」

殿下は、さも名案だったと言わんばかりに胸を張る。

「公衆の面前で君を断罪し、私が『お花畑なヒロイン』に乗り換えたと見せかける。そうすれば、私に媚びようとする不届き者や、君をさらに貶めようとするスパイどもが、一斉に尻尾を出してミリアの元に集まるからね」

……つまり。

私は、殿下が敵を釣るための「餌」にされたということだろうか。

「……随分と、手の込んだことをなさいますのね。おかげで私は一晩中、荷造りをしながら涙で枕を濡らすところでしたわ」

「嘘をつけ。君の家の侍女からの報告では、君は『国外追放されたら、田舎で美味しいパン屋を開くのも悪くないわね』と、間食のスコーンを食べながら前向きに検討していたそうじゃないか」

「なっ!? 誰ですか、そんな余計な報告を!」

恥ずかしさのあまり、顔が火を噴きそうだ。

「まあ、いい。とにかく、これで障害はすべて排除した。ミリアに加担した貴族たちも、今頃は騎士団の取り調べを受けているはずだ」

殿下は立ち上がり、私の腰を引き寄せた。

あまりに急な密着に、私の心臓が跳ね上がる。

「カタリーナ。これまでの婚約は、親同士が決めた形だけのものだった。……だが、これからは違う」

殿下の顔が、私の耳元に近づく。

「君を『悪役令嬢』という呪縛から解き放ち、今度は私が、世界で一番幸せな『王妃』にしてあげる。……あ、でも、時々はあの怖い顔で睨んでくれないと、私が枯れてしまうから気をつけてね」

「……殿下、やはり一度、お医者様に診ていただいた方がよろしいかと思いますわ」

私は震える手で殿下の胸を押し返したが、その頬は自分でもわかるほど赤く染まっていた。

「さあ、まずは『国外追放』の取り消しと、君への謝罪を兼ねた公式発表の準備だ。……あ、言い忘れていたけれど」

殿下はいたずらっぽく笑った。

「君が昨夜、会場を去る時に見せたあの『絶望に満ちた、しかし凛とした後ろ姿』。……あれ、最高にエモかったよ。絵師に命じて三枚ほど描かせたから、後で一部屋プレゼントするね」

「……いりませんわよ、そんなもの!!」

公爵邸の静かなリビングに、私の絶叫が響きわたった。

どうやら、平穏な日常に戻るまでは、まだまだ時間がかかりそうである。
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