これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな

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「……それで? 結局、どこまでが殿下の『作戦』だったのですか?」

私は、ソファに深々と腰掛けた殿下に、冷めた紅茶を差し出しながら尋ねた。

殿下は、まるで自慢話を聞いてほしくてたまらない子供のような顔をして、私の顔をじっと見上げている。

「最初からすべてだよ、カタリーナ。君が学園で『悪役令嬢』として孤立し始めた、あの瞬間からだ」

「……はあ。ずいぶんと息の長い作戦ですこと」

私は呆れて、思わずため息をついた。

「考えてもみてくれ。君のように高潔で、それでいて不器用な令嬢が、なぜこれほどまでに悪評を流されなければならないのか。それは、我が国の保守派貴族たちが、君の家……シュバルツ公爵家の力を恐れたからだ」

殿下は紅茶に口をつけず、真剣な眼差しで私を見つめた。

「彼らはミリア嬢という『操り人形』を使い、私と君の仲を裂こうとした。私が彼女に溺れ、君を断罪すれば、公爵家は面目丸つぶれ。王家との繋がりも断たれる……。それが彼らの狙いだったのさ」

「……それは、なんとなく理解しておりましたわ。お父様も最近、胃薬を飲む回数が増えていましたし」

「だろう? だから私は、逆にその計画に乗ったふりをしたんだ。彼らが『勝った!』と確信して油断した瞬間に、すべての証拠を突きつける……。それが昨夜の、あの華麗な婚約破棄(パフォーマンス)だよ!」

殿下は立ち上がり、まるで演劇の主役のようにポーズを決めた。

「どうだい? 完璧な筋書きだっただろう? 君が会場を去った後の、あの貴族たちの顔と言ったら!『計画通りだ!』とニヤついていた連中が、近衛騎士団が踏み込んできた瞬間に泡を吹いて倒れたんだから!」

「……殿下。一つ、よろしいかしら」

私は扇子でトントンと自分の顎を叩いた。

「何かな、私の愛しい共犯者」

「その作戦のために、私を精神的に追い詰める必要はありましたの? 一言、事前に相談してくだされば……」

「それは無理だよ! だって、君は嘘がつけないだろう?」

殿下はあっけらかんと言い放った。

「君に知らせてしまったら、君はきっと練習通りの『悪役』ができなくなってしまう。あの、追い詰められて今にも泣き出しそうなのに、必死に矜持を保とうとして私を睨みつける……あの最高の表情(アート)が拝めなくなってしまうじゃないか!」

「……。……やはり、そこが目的でしたのね」

私は頭を抱えた。

この王子、国を救うついでに自分の欲望を満たしやがった。

「それにね、カタリーナ。私が君にこれほど執着するのには、ちゃんとした理由があるんだ」

殿下は急に声を落とし、私の手元に歩み寄った。

「……理由、ですか?」

「覚えているかい? 十年前、私たちが初めて顔を合わせた、あの王宮の庭園での出来事を」

「十年前……。確か、私が初めてお父様に連れられて登城した時ですわね」

私は記憶を辿った。

当時、私はまだ幼く、慣れないドレスの締め付けと周囲の視線の多さに、今以上にガチガチに緊張していたはずだ。

「あの時、年上の令息たちに囲まれて困っていた私を、君が助けてくれたんだ」

「私が? そんな勇ましいこと……」

「ああ。君は無言で、彼らを射殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつけた。令息たちは君のあまりの気迫に震え上がって逃げ出していったよ。……その後、君は私にこう言ったんだ」

殿下は私の手を優しく包み込んだ。

「『……うるさい、男は黙ってなさい』」

「……っ!? そ、それは、あまりの緊張で言葉が支離滅裂になっていただけでは……!」

「いや、あの瞬間、私の心は射抜かれたんだ。なんて気高く、なんて攻撃的で、なんて美しい少女なんだろう、とね!」

殿下はうっとりと目を細めた。

「それ以来、私の理想は君だけだ。君が『悪役令嬢』と呼ばれようと、国外追放を突きつけられようと、私が君を離すはずがないだろう?」

「……。……お父様、私、やっぱりこの国を出た方がいいかもしれませんわ」

「ははは! 冗談が上手いな、カタリーナ! さあ、今日はこれから、君の『名誉回復』のための公式パレードの打ち合わせをしよう!」

「……パレード!? 聞いてませんわよ、そんなもの!」

私の抗議も虚しく、殿下の「推し活」という名の暴走は、さらに勢いを増していくのであった。
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