これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな

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お昼休み。アルフォンス殿下が「少し野暮用で席を外す」と言い残し、私はようやく一人の時間を手に入れた。

……いいえ、実際には一人ではない。

教室の隅から、刺すような視線がいくつも私に向けられている。

ミリア様を「清らかな聖女」と崇め、私を「邪悪な公爵令嬢」として敵視していた取り巻きの令嬢たちだ。

「……ふう。今のうちに、午後の予習をしてしまいましょう」

私は内心の動揺を隠すため、あえて優雅に、かつ冷徹に見える所作で教科書を開いた。

「あら、見て。あんなに惨めな思いをしたのに、まだ平気な顔をして勉強なんて」

「本当、面の皮が厚いこと。ミリア様がいなくなって、せいせいしているのかしら?」

三人の令嬢が、私の机を取り囲むようにして立ちふさがった。

リーダー格の令嬢が、持っていた花の活けられた花瓶を、わざとらしく私の教科書の上で傾ける。

「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ」

教科書が水浸しになる――。

そう確信して私が目を閉じた瞬間。

「……え?」

「きゃっ!? な、何よこれ、冷たっ!」

短い悲鳴が上がった。

目を開けると、なぜか水は私の教科書ではなく、令嬢たちの足元に完璧な放物線を描いて降り注いでいた。

まるで、見えない壁に弾かれたかのように。

「わ、私の限定品のドレスが! どういうことですの、これ!」

「……さあ? 魔法の加護でも働いたのではありませんか?」

私は精一杯の皮肉を込めて、彼女たちを睨みつけた。

実際には「今の何!? 超常現象!?」とパニックになっていただけなのだが。

「くっ……! いい気にならないでよ、この悪女! 次こそは……」

彼女たちが二の矢を継ごうと、机の上にあった私のペンケースを掴もうとした時。

パキッ、と乾いた音がした。

彼女たちが踏んでいた床板が、不自然なほど綺麗に跳ね上がり、彼女たちは揃って後ろにひっくり返ったのだ。

「うそ……!? この学校の床、どうなってるのよ!」

「……お怪我はありませんか?」

私はあまりの事態に、思わず手を差し伸べようとした。

だが、彼女たちは私の「鋭い視線」を見て、恐怖に顔を歪めた。

「ひっ……! 呪いだわ! この女、黒魔術を使っているんだわ!」

「助けてー!」

蜘蛛の子を散らすように逃げていく令嬢たち。

……。

「……私のせいなのかしら、今の」

私は呆然と、跳ね上がった床板を見つめた。

すると、天井の梁から、シュタッと一人の影が降りてきた。

「見事な誘い込みだったよ、カタリーナ。君が睨みをきかせた瞬間に、私の『影の護衛隊』が床下からレバーを引くタイミング、完璧だったね」

「……殿下、いつからそこに?」

アルフォンス殿下が、どこか誇らしげに私の隣に立った。

「君が教科書を開いた瞬間からだ。……いやあ、あの水が降り注ぐ寸前の『今、私の目が獲物を捉えました』と言わんばかりの冷徹な表情。十点満点中、一二〇点だね」

「……。……殿下、今の全部、あなたの仕業ですの?」

「仕業とは人聞きが悪いな。私は君という芸術作品に、無粋な汚れがつかないよう保護しただけだよ」

殿下は満足げに、私の濡れなかった教科書を優しく撫でた。

「ちなみに、彼女たちが逃げていく時に転んだ角度も、私の計算通りだ。君の威厳を損なわず、かつ滑稽に見えるように配置しておいた」

「……もう、学園の設備を私物化するのはおやめになってください」

私は大きくため息をついた。

ミリア様の残党からの嫌がらせよりも、影で暗躍する殿下の執念の方が、よほど私にとっては恐怖であった。

「さあ、お昼を食べようか。今日の食堂のメニューは君の好きなキッシュだが、すでにあらゆる毒物検査を終えて、私が毒味という名の試食を済ませておいたよ」

「……毒味はともかく、私の分まで食べないでくださいませね」

私は殿下に連れられ、嵐の去った教室を後にした。

どうやらこの学園で私をいじめるのは、国家予算をかけた「鉄壁の推し活」を突破するのと同じくらい不可能なことであるらしい。
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