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黒朱の山犬
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むかしむかしのことじゃった。
魔がはびこり、村も町も影に沈み、
人の心が折れかけていた時代――
六人の旅人が、山の村へと現れた。
山の奥、神の社が朽ち果てた神座村(かみくらむら)。
「この村には昔、神を封じる“しめ縄”があったが、今ではもう……」
そう言ったのは、老いた村長。
村には瘴気が立ち込め、夜な夜な“何か”が出る。
「黒く、朱い、でかい犬のような化けもんですじゃ……!」
呼ばれた六人の旅人は、全員が若くして名を上げた者たち。
「じゃあ、出る前に倒せばいいってことだな!」
テンマが笑い、槍を回す。
「術の準備は整ってます。ノクスさん、魔力……」
イズナがちらりと見れば、
ノクスは既に、淡く輝く魔法陣を身の周囲に展開していた。
「……必要な分だけ、持っていけ」
夜――。
森の奥より、**“グォオオ……ッ!”**という唸り声。
現れたのは、四つ目を持つ黒朱の獣。
「出たな……山犬!」
アルヴェインが剣を抜き、踏み込む。
その背後で、ノクスは指を鳴らす。
ゴウン……
彼の足元に現れたのは、六角形の魔力供給陣。
仲間たちの体に、それぞれ紋様が灯る。
「これで制限はない。出し惜しむな」
「言われたな? 全力でいくぜ!」
テンマは雷光のごとく突撃し、山犬の前足を突く。
アルヴェインの剣が闇を裂き、斬撃に火花が走る。
ナトリの矢が、獣の眼に正確に突き刺さり、
ユイナが祓いの光で瘴気を清める。
イズナは次々と符を重ね、
「火符・封焔の鎖(ふうえんのくさり)!」
「風符・裂嵐の爪(れつらんのつめ)!」
普段の力以上の術が繰り出される。
「……やっぱり、ノクスさんの魔力があると違う……!」
彼女は小さく息を吐き、符をもう一枚構えた。
ノクスは一歩も動かず、ただ冷静に魔力を流し続ける。
彼の背後に現れる巨大な魔法陣は、まるで“泉”のように魔力を供給し、
仲間たちの動きを支え続けた。
アルヴェインの一撃が山犬の胴を断ち、
テンマがその脚を砕き、ナトリの矢が残る眼を射抜く。
ユイナが最後の浄化を放ち、瘴気が薄れると、
イズナの声が響いた。
「ノクスさん、最後の魔力ください!」
「……すべて渡す。放て、イズナ」
「式封・五芒の光鎖《ごぼうのこうさ》!!」
五枚の封札が空を舞い、
山犬の動きを完全に封じ込めた。
魔が、静かに消えていった。
村に、夜の風が戻った。
星が瞬き、月が昇る。
「終わった……」
ユイナがほっと息をつき、
テンマが木に背を預けて笑う。
「ノクス、あれだけ魔力出して疲れないのか?」
「慣れている」
「……もっと、前に出てきてもいいのに」
イズナが言うと、
「前に出なくて済むようにしてる。それが一番無駄がない」
アルヴェインは弟の背中を見て、少し笑った。
「それでいい。お前が動く時は、“世界の終わり”だからな」
ノクスは何も言わなかった。
ただ、静かに空を見上げていた。
魔がはびこり、村も町も影に沈み、
人の心が折れかけていた時代――
六人の旅人が、山の村へと現れた。
山の奥、神の社が朽ち果てた神座村(かみくらむら)。
「この村には昔、神を封じる“しめ縄”があったが、今ではもう……」
そう言ったのは、老いた村長。
村には瘴気が立ち込め、夜な夜な“何か”が出る。
「黒く、朱い、でかい犬のような化けもんですじゃ……!」
呼ばれた六人の旅人は、全員が若くして名を上げた者たち。
「じゃあ、出る前に倒せばいいってことだな!」
テンマが笑い、槍を回す。
「術の準備は整ってます。ノクスさん、魔力……」
イズナがちらりと見れば、
ノクスは既に、淡く輝く魔法陣を身の周囲に展開していた。
「……必要な分だけ、持っていけ」
夜――。
森の奥より、**“グォオオ……ッ!”**という唸り声。
現れたのは、四つ目を持つ黒朱の獣。
「出たな……山犬!」
アルヴェインが剣を抜き、踏み込む。
その背後で、ノクスは指を鳴らす。
ゴウン……
彼の足元に現れたのは、六角形の魔力供給陣。
仲間たちの体に、それぞれ紋様が灯る。
「これで制限はない。出し惜しむな」
「言われたな? 全力でいくぜ!」
テンマは雷光のごとく突撃し、山犬の前足を突く。
アルヴェインの剣が闇を裂き、斬撃に火花が走る。
ナトリの矢が、獣の眼に正確に突き刺さり、
ユイナが祓いの光で瘴気を清める。
イズナは次々と符を重ね、
「火符・封焔の鎖(ふうえんのくさり)!」
「風符・裂嵐の爪(れつらんのつめ)!」
普段の力以上の術が繰り出される。
「……やっぱり、ノクスさんの魔力があると違う……!」
彼女は小さく息を吐き、符をもう一枚構えた。
ノクスは一歩も動かず、ただ冷静に魔力を流し続ける。
彼の背後に現れる巨大な魔法陣は、まるで“泉”のように魔力を供給し、
仲間たちの動きを支え続けた。
アルヴェインの一撃が山犬の胴を断ち、
テンマがその脚を砕き、ナトリの矢が残る眼を射抜く。
ユイナが最後の浄化を放ち、瘴気が薄れると、
イズナの声が響いた。
「ノクスさん、最後の魔力ください!」
「……すべて渡す。放て、イズナ」
「式封・五芒の光鎖《ごぼうのこうさ》!!」
五枚の封札が空を舞い、
山犬の動きを完全に封じ込めた。
魔が、静かに消えていった。
村に、夜の風が戻った。
星が瞬き、月が昇る。
「終わった……」
ユイナがほっと息をつき、
テンマが木に背を預けて笑う。
「ノクス、あれだけ魔力出して疲れないのか?」
「慣れている」
「……もっと、前に出てきてもいいのに」
イズナが言うと、
「前に出なくて済むようにしてる。それが一番無駄がない」
アルヴェインは弟の背中を見て、少し笑った。
「それでいい。お前が動く時は、“世界の終わり”だからな」
ノクスは何も言わなかった。
ただ、静かに空を見上げていた。
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