冒険日記

ナキ

文字の大きさ
1 / 1

黒朱の山犬

しおりを挟む
むかしむかしのことじゃった。
魔がはびこり、村も町も影に沈み、
人の心が折れかけていた時代――
六人の旅人が、山の村へと現れた。


山の奥、神の社が朽ち果てた神座村(かみくらむら)。

「この村には昔、神を封じる“しめ縄”があったが、今ではもう……」
そう言ったのは、老いた村長。

村には瘴気が立ち込め、夜な夜な“何か”が出る。

「黒く、朱い、でかい犬のような化けもんですじゃ……!」

呼ばれた六人の旅人は、全員が若くして名を上げた者たち。

「じゃあ、出る前に倒せばいいってことだな!」
テンマが笑い、槍を回す。

「術の準備は整ってます。ノクスさん、魔力……」
イズナがちらりと見れば、

ノクスは既に、淡く輝く魔法陣を身の周囲に展開していた。

「……必要な分だけ、持っていけ」



夜――。

森の奥より、**“グォオオ……ッ!”**という唸り声。
現れたのは、四つ目を持つ黒朱の獣。

「出たな……山犬!」
アルヴェインが剣を抜き、踏み込む。

その背後で、ノクスは指を鳴らす。

ゴウン……

彼の足元に現れたのは、六角形の魔力供給陣。
仲間たちの体に、それぞれ紋様が灯る。

「これで制限はない。出し惜しむな」

「言われたな? 全力でいくぜ!」



テンマは雷光のごとく突撃し、山犬の前足を突く。
アルヴェインの剣が闇を裂き、斬撃に火花が走る。

ナトリの矢が、獣の眼に正確に突き刺さり、
ユイナが祓いの光で瘴気を清める。

イズナは次々と符を重ね、

「火符・封焔の鎖(ふうえんのくさり)!」
「風符・裂嵐の爪(れつらんのつめ)!」

普段の力以上の術が繰り出される。

「……やっぱり、ノクスさんの魔力があると違う……!」

彼女は小さく息を吐き、符をもう一枚構えた。

ノクスは一歩も動かず、ただ冷静に魔力を流し続ける。

彼の背後に現れる巨大な魔法陣は、まるで“泉”のように魔力を供給し、
仲間たちの動きを支え続けた。


アルヴェインの一撃が山犬の胴を断ち、
テンマがその脚を砕き、ナトリの矢が残る眼を射抜く。

ユイナが最後の浄化を放ち、瘴気が薄れると、

イズナの声が響いた。

「ノクスさん、最後の魔力ください!」

「……すべて渡す。放て、イズナ」

「式封・五芒の光鎖《ごぼうのこうさ》!!」

五枚の封札が空を舞い、
山犬の動きを完全に封じ込めた。

魔が、静かに消えていった。


村に、夜の風が戻った。
星が瞬き、月が昇る。

「終わった……」
ユイナがほっと息をつき、
テンマが木に背を預けて笑う。

「ノクス、あれだけ魔力出して疲れないのか?」
「慣れている」

「……もっと、前に出てきてもいいのに」
イズナが言うと、

「前に出なくて済むようにしてる。それが一番無駄がない」

アルヴェインは弟の背中を見て、少し笑った。

「それでいい。お前が動く時は、“世界の終わり”だからな」

ノクスは何も言わなかった。
ただ、静かに空を見上げていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

最愛が……腕の中に……あるのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と結ばれたかった…… この国を最愛と導きたかった…… その願いも……叶わないのか……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...