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ようこそ摩訶不思議堂へ 最後の落し物
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摩訶不思議堂 ――「最後の落とし物」
悠斗は、八十二歳になっていた。
駅前のベンチ。
膝の上には、小さなノート。
表紙は擦り切れて、文字はもう薄い。
『落とし物係 日誌』
子どものころ、
あの不思議な店でもらったものや。
人生は、思ってたより長かった。
結婚もした。
別れもあった。
うまくいったことと、
うまくいかへんかったこと――
だいたい半分ずつ。
「よう歩いたな」
ふと顔を上げると、
駅前の片隅に、見覚えのある看板が立っていた。
「摩訶不思議堂」
中に入ると、棚はほとんど空やった。
奥の椅子に、あのおばあさんが座っている。
いや――
今はもう、同じ年頃の顔をしていた。
「来たな」
「……はい」
悠斗は、ノートを差し出した。
「最後の落とし物、返しに来ました」
「何や?」
悠斗は、少し考えてから言った。
「……この人生です」
おばあさんは、笑った。
それは若い顔でも、老いた顔でもない、
知っとる笑顔やった。
「合格や」
「合格?」
「よう生きた、ちゅうことや」
棚の奥から、小さな包みが出てきた。
「次の持ち物や」
包みの中には、
何もなかった。
「空っぽや」
「せや。
せやから、なんでも入る」
悠斗は、深く息を吸った。
長い昼寝に入るみたいに、目を閉じた。
悠斗は、八十二歳になっていた。
駅前のベンチ。
膝の上には、小さなノート。
表紙は擦り切れて、文字はもう薄い。
『落とし物係 日誌』
子どものころ、
あの不思議な店でもらったものや。
人生は、思ってたより長かった。
結婚もした。
別れもあった。
うまくいったことと、
うまくいかへんかったこと――
だいたい半分ずつ。
「よう歩いたな」
ふと顔を上げると、
駅前の片隅に、見覚えのある看板が立っていた。
「摩訶不思議堂」
中に入ると、棚はほとんど空やった。
奥の椅子に、あのおばあさんが座っている。
いや――
今はもう、同じ年頃の顔をしていた。
「来たな」
「……はい」
悠斗は、ノートを差し出した。
「最後の落とし物、返しに来ました」
「何や?」
悠斗は、少し考えてから言った。
「……この人生です」
おばあさんは、笑った。
それは若い顔でも、老いた顔でもない、
知っとる笑顔やった。
「合格や」
「合格?」
「よう生きた、ちゅうことや」
棚の奥から、小さな包みが出てきた。
「次の持ち物や」
包みの中には、
何もなかった。
「空っぽや」
「せや。
せやから、なんでも入る」
悠斗は、深く息を吸った。
長い昼寝に入るみたいに、目を閉じた。
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