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第三話
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灰色 色のない世界に、
ひとつ、光りが見える。
遠くで瞬いているそれは、最初は幻みたいやった。
瓦礫の隙間に残ったガラス片が、月を反射しとるだけかもしれん。
せやけど、近づくにつれて、その光は確かに色を持ちはじめる。
赤でもない。
青でもない。
言葉にしようとした瞬間、零れ落ちてしまう色。
それは――極彩色の極楽鳥やった。
羽は炎のように揺れ、雨上がりの油膜みたいに七色に滲む
この世界に本来あるはずのなかった光を、堂々と背負って立っている。
廃墟も、橋も、人々も、
その一瞬だけ、鳥の色を映して染まった。
老子小太郎は、霞んだ瞳をひと拭きした。
それは涙やったのか、埃やったのか、
本人にも分からへん。
「……おるんやな」
誰にともなく、そう呟く。
「色はな、消えたんやない。
見えんようになっとっただけや」
小太郎は、また語り始める。
今度は昔話でも、街の話でもない。
「極楽鳥いうんはな、
極楽から来る鳥やない。
極楽を思い出させる鳥や」
人々は黙って聞いている。
極彩色の極楽鳥は鳴かない。
ただ、そこにおるだけで、
この世界が間違いではなかったことを証明していた。
「せやから、あんたらもな……
ここにおる限り、
まだ終わっとらん」
小太郎はギターに触れたが、弾かへん。
音は、もういらんかった。
極彩色の極楽鳥は、ゆっくりと羽ばたく。
そのたびに、灰色の空気が、ほんの少しずつ剥がれていく。
誰かが、笑った。
理由のない、久しぶりの笑いやった。
老子小太郎は思う。
語り部いうんは、道を示す存在やない。
ただ、光を指さすだけの人間なんやと。
極楽鳥は、まだそこにいる。
そして、物語も――
まだ、飛び立ってへん。
ひとつ、光りが見える。
遠くで瞬いているそれは、最初は幻みたいやった。
瓦礫の隙間に残ったガラス片が、月を反射しとるだけかもしれん。
せやけど、近づくにつれて、その光は確かに色を持ちはじめる。
赤でもない。
青でもない。
言葉にしようとした瞬間、零れ落ちてしまう色。
それは――極彩色の極楽鳥やった。
羽は炎のように揺れ、雨上がりの油膜みたいに七色に滲む
この世界に本来あるはずのなかった光を、堂々と背負って立っている。
廃墟も、橋も、人々も、
その一瞬だけ、鳥の色を映して染まった。
老子小太郎は、霞んだ瞳をひと拭きした。
それは涙やったのか、埃やったのか、
本人にも分からへん。
「……おるんやな」
誰にともなく、そう呟く。
「色はな、消えたんやない。
見えんようになっとっただけや」
小太郎は、また語り始める。
今度は昔話でも、街の話でもない。
「極楽鳥いうんはな、
極楽から来る鳥やない。
極楽を思い出させる鳥や」
人々は黙って聞いている。
極彩色の極楽鳥は鳴かない。
ただ、そこにおるだけで、
この世界が間違いではなかったことを証明していた。
「せやから、あんたらもな……
ここにおる限り、
まだ終わっとらん」
小太郎はギターに触れたが、弾かへん。
音は、もういらんかった。
極彩色の極楽鳥は、ゆっくりと羽ばたく。
そのたびに、灰色の空気が、ほんの少しずつ剥がれていく。
誰かが、笑った。
理由のない、久しぶりの笑いやった。
老子小太郎は思う。
語り部いうんは、道を示す存在やない。
ただ、光を指さすだけの人間なんやと。
極楽鳥は、まだそこにいる。
そして、物語も――
まだ、飛び立ってへん。
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