10 / 13
第十話 その時
しおりを挟む
語りも、
痛みも、
希望も――
速すぎたら、
人の中には残らへん。
ゆっくりでええ。
秒速340メートルで。
それで、
ちゃんと届く。
リンドウは、
雨を待つみたいに、
静かに立っていた。
そして、
次に語られる言葉は、
もう、
雷にはかき消されへんかった。
雷の余韻が、まだ空に残っている。
雨は降らへん。
せやけど、空気だけが重くなった。
そのときや。
影が、動いた。
光のない方向から、
濃すぎる闇が、
ゆっくりとこちらへにじんでくる。
人の形に似ている。
せやけど、人やない。
距離の詰め方が、
生き物のそれやなかった。
シェリーは、
言葉を止める。
数を数える癖が、
また戻ってくる。
(……近い)
老子小太郎は、
前に出えへん。
後ろにも下がらへん。
語り部の立ち位置に、
ぴたりと立つ。
影は、
雷鳴の残り香を踏みながら、
音もなく近づいてくる。
ギターの弦が、
風もないのに、
かすかに震えた。
「……誰や」
小太郎の声は低い。
問いであって、
挑発ではない。
返事はない。
代わりに、
影の輪郭が、
ほんの一瞬だけ歪む。
シェリーは気づく。
この影、
光を遮ってるんやない。
光を、
吸うている。
雷が、
もう一度だけ、
遠くで光る。
その一瞬、
影の中に、
見てはいけないものが映る。
過去か。
後悔か。
語られへんまま、
置き去りにされた声。
シェリーの喉が鳴る。
「……あれ、
話を聞きに来とる」
老子小太郎は、
初めて、
はっきりとうなずいた。
「せやな。
聞かれへんかった話や」
影は、
あと三歩の距離で、
止まる。
雷は鳴らへん。
風も吹かへん。
この沈黙は、
嵐の前やない。
告白の前や。
老子小太郎は、
ゆっくりと、
ギターケースに手をかける。
武器としてやない。
蓋を開ける準備として。
語り部は知っている。
最も危険なんは、
刃物を持った悪党やない。
語られへんまま、
溜まり続けた影や。
影が、
口を開く――
その直前で、
世界は、息を止めた。
痛みも、
希望も――
速すぎたら、
人の中には残らへん。
ゆっくりでええ。
秒速340メートルで。
それで、
ちゃんと届く。
リンドウは、
雨を待つみたいに、
静かに立っていた。
そして、
次に語られる言葉は、
もう、
雷にはかき消されへんかった。
雷の余韻が、まだ空に残っている。
雨は降らへん。
せやけど、空気だけが重くなった。
そのときや。
影が、動いた。
光のない方向から、
濃すぎる闇が、
ゆっくりとこちらへにじんでくる。
人の形に似ている。
せやけど、人やない。
距離の詰め方が、
生き物のそれやなかった。
シェリーは、
言葉を止める。
数を数える癖が、
また戻ってくる。
(……近い)
老子小太郎は、
前に出えへん。
後ろにも下がらへん。
語り部の立ち位置に、
ぴたりと立つ。
影は、
雷鳴の残り香を踏みながら、
音もなく近づいてくる。
ギターの弦が、
風もないのに、
かすかに震えた。
「……誰や」
小太郎の声は低い。
問いであって、
挑発ではない。
返事はない。
代わりに、
影の輪郭が、
ほんの一瞬だけ歪む。
シェリーは気づく。
この影、
光を遮ってるんやない。
光を、
吸うている。
雷が、
もう一度だけ、
遠くで光る。
その一瞬、
影の中に、
見てはいけないものが映る。
過去か。
後悔か。
語られへんまま、
置き去りにされた声。
シェリーの喉が鳴る。
「……あれ、
話を聞きに来とる」
老子小太郎は、
初めて、
はっきりとうなずいた。
「せやな。
聞かれへんかった話や」
影は、
あと三歩の距離で、
止まる。
雷は鳴らへん。
風も吹かへん。
この沈黙は、
嵐の前やない。
告白の前や。
老子小太郎は、
ゆっくりと、
ギターケースに手をかける。
武器としてやない。
蓋を開ける準備として。
語り部は知っている。
最も危険なんは、
刃物を持った悪党やない。
語られへんまま、
溜まり続けた影や。
影が、
口を開く――
その直前で、
世界は、息を止めた。
0
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
元婚約者に捨てられて皇太子に拾われたけど、今さら後悔しても遅いですよ?
exdonuts
恋愛
婚約破棄された日に崖から落ちた。目覚めたら見知らぬ国の皇太子に拾われ、私は皇太子妃候補に。元婚約者は私の死を喜び、新妻と祝杯を挙げていた。だが一年後、国賓として訪れた私は皇太子の腕に抱かれていた。彼の溺愛は国を揺るがすほどで、元婚約者の後悔の叫びなど届かない。ざまぁ、あなたが捨てたこの女が、今世界で一番愛されているのよ。
平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました
Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。
伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。
理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。
これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる