31 / 37
守袋の中にあったものとは
しおりを挟む
老人が新八に手渡した守袋は、布がすり切れて色もあせていた。
けれど、指でそっとなぞると、どこか温かいものが宿っているように感じられた。
袋の中に入っていたのは——
■ 一枚の短い文(ふみ)
筆跡は若い武士のもの。
名前は記されていない。
ただ、言葉だけが、まっすぐ胸に刺さる。
あんたら百姓(ひゃくしょう)が
生きて笑える日を守るため、
わしらは刃をとる。
強い者が弱い者を踏みつける世や。
せやけどな、
心まで奪われたらあかん。
あんたらは胸張って生き。
わしらも胸張って死ぬ。
どっちも同じ人間(ひと)の道や。
短いが、嘘偽りのない文。
そこには、身分や立場を越えた“人としての誇り”が刻まれていた。
老人が大切に持ち続けた理由が、すぐに分かった。
■ 新八の胸に走ったもの
文を読み終えた新八は、
言葉にできぬ熱が喉の奥まで込み上げてきた。
「……こんな、まっすぐな文(ふみ)、
よう書けたな……」
その瞬間、新八は不意に悟る。
——これは、近藤さんや土方さんが語っていた“人の道”そのものや。
——剣の道より深い、心の道や。
彼は拳をぎゅっと握りしめる。
「じいさん、あんた……
こんな大事なもん、ようぞ手放したな。」
老人は静かに笑った。
「わしの役目は終わった。
次は、おぬしの番じゃろ。」
■ 孫が見せた“本能”
傍らにいた新八の孫が、
文を読んだ新八の横顔をじっと見ていた。
孫はまだ幼い。
だが、何かを感じ取ったようで、新八に言った。
「じっちゃん……
その人、ほんまに強かったんやな。
だって、ぼく……ちょっと泣きそうになった。」
純粋な感性は、ときに大人より鋭い。
新八は笑って、頭をそっと撫でた。
「せや。強かった。
せやけどな……“心が強い”っちゅうんが、
ほんまの“つよさ”なんや。」
孫はこくりとうなずいた。
老人はその様子を見て、静かに目を細めた。
「……あの文はな、
わしら年寄りより、
ほんまは若いもんに読んでほしかったんじゃ。」
■ 文が動かしたもの
新八の胸に残ったのは、ただひとつ。
「この人らの心を、ちゃんと形にして残さなあかん」
それは、単なる墓づくりの決意ではなく、
“人としての筋”を通すという本能に近いものだった。
そしてその炎は、
老人の孫にまで静かに受け継がれていた。
けれど、指でそっとなぞると、どこか温かいものが宿っているように感じられた。
袋の中に入っていたのは——
■ 一枚の短い文(ふみ)
筆跡は若い武士のもの。
名前は記されていない。
ただ、言葉だけが、まっすぐ胸に刺さる。
あんたら百姓(ひゃくしょう)が
生きて笑える日を守るため、
わしらは刃をとる。
強い者が弱い者を踏みつける世や。
せやけどな、
心まで奪われたらあかん。
あんたらは胸張って生き。
わしらも胸張って死ぬ。
どっちも同じ人間(ひと)の道や。
短いが、嘘偽りのない文。
そこには、身分や立場を越えた“人としての誇り”が刻まれていた。
老人が大切に持ち続けた理由が、すぐに分かった。
■ 新八の胸に走ったもの
文を読み終えた新八は、
言葉にできぬ熱が喉の奥まで込み上げてきた。
「……こんな、まっすぐな文(ふみ)、
よう書けたな……」
その瞬間、新八は不意に悟る。
——これは、近藤さんや土方さんが語っていた“人の道”そのものや。
——剣の道より深い、心の道や。
彼は拳をぎゅっと握りしめる。
「じいさん、あんた……
こんな大事なもん、ようぞ手放したな。」
老人は静かに笑った。
「わしの役目は終わった。
次は、おぬしの番じゃろ。」
■ 孫が見せた“本能”
傍らにいた新八の孫が、
文を読んだ新八の横顔をじっと見ていた。
孫はまだ幼い。
だが、何かを感じ取ったようで、新八に言った。
「じっちゃん……
その人、ほんまに強かったんやな。
だって、ぼく……ちょっと泣きそうになった。」
純粋な感性は、ときに大人より鋭い。
新八は笑って、頭をそっと撫でた。
「せや。強かった。
せやけどな……“心が強い”っちゅうんが、
ほんまの“つよさ”なんや。」
孫はこくりとうなずいた。
老人はその様子を見て、静かに目を細めた。
「……あの文はな、
わしら年寄りより、
ほんまは若いもんに読んでほしかったんじゃ。」
■ 文が動かしたもの
新八の胸に残ったのは、ただひとつ。
「この人らの心を、ちゃんと形にして残さなあかん」
それは、単なる墓づくりの決意ではなく、
“人としての筋”を通すという本能に近いものだった。
そしてその炎は、
老人の孫にまで静かに受け継がれていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる