空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

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忠義を生きた者たちの面影

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新八が建立した、
近藤勇
土方歳三
を祀る静かな墓所には、時折、誰とも知れぬ来訪者があった。
ある晩、山道を登ってくる足音がひとつ。
提灯の灯りに浮かび上がったのは、深い皺の刻まれた老人。
着物の袖は擦り切れ、杖を頼りにしている。
新八が声をかける。
「じいさん、こんな山奥まで、何しに来なさった?」
老人は墓前に静かに手を合わせ、しばらく黙っていた。
やがて、ぽつりと語り出す。
■ 会津の老人の語り
「わしはの……会津の者じゃ。
あの戦(いくさ)の折、若かったわしは武士でも何でもないただの百姓じゃった。
それでも、会津の者として誇りだけは失うまいと、必死に生きとった。」
老人は、懐から古びた守袋を取り出した。
「ここにのう、昔いただいた文(ふみ)のお裾分けが入っとる。
会津を助けに来てくれた新選組の若者がのう……
“あんたらの覚悟は、わしらといっしょじゃ”と言うてくれたんじゃ。」
新八は息をのむ。
その若者とは、近藤か、土方か、それとも別の誰かか――
老人は名を明かさず、ただ懐かしむように笑った。
■ 老人の「秘話」
「近藤殿も、土方殿も……
会津の民を守るため、よう戦(たたか)うてくださった。
それはな、武士の意地やのうて、 “人を見捨てぬ”という心じゃった。
わしはそれを、この目で見たんじゃ。」
老人の目は澄んでいた。
誇張も、怨みも、ただの噂話も含まれていない。
長年、胸の奥で大事に温めてきた真実のように聞こえた。
「じゃが……世間では、あの方々を悪し様に言う者もおる。
それが、わしには耐えられんのじゃ……
真実を語れる者が、少のうなってしもうてな。」
新八は静かに頭を下げた。
「じいさん……あんたの話、大事にさせてもらうで。」
老人は微笑み、墓に手を合わせる。
「わしはもう長うはない。
じゃがのう……墓があるというんは、ええもんじゃ。
人の善(よ)き心を、後の世に残してくれる。」
そう言うと、お辞儀をして山道を下っていった。
提灯の灯りが遠ざかり、やがて完全に消えた。
■ 新八の胸に残ったもの
新八は胸の奥が、ふっと温かくなるのを感じた。
「近藤さん、土方さん……
あんたらのことを覚えとる人は、まだおる。
ほんまに、まだ生きとるんやで。」

そして、新八は夜空を見上げる。

雲間から覗く月は、どこか穏やかに輝いていた。
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