空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

文字の大きさ
29 / 37

意外すぎる来訪者

しおりを挟む
新八が近藤勇・土方歳三の墓を建立し、
初めて孫と一緒に訪れた静かな初春の朝。
丘の上に吹く風は、まだ少し冷たいが、
京の街を見渡せるその場所は、凛として美しかった。
新八は、そっと手を合わせた。
「……兄弟分よ。
ようやく、あんたらを祀れたわ。
遅うなってすまん。」

「じっちゃん、お線香立てとくね。」
新八
「おう、頼む。」
そのとき──
カサ……ッ
草むらの向こうから、人影がゆっくり近づいてきた。
新八
「ん? 誰や?」

「じっちゃん、なんか来るで。」
薄茶の着物を着た老人。
しかし、その歩き方には妙な風格がある。
目は鋭く、姿勢はまっすぐ。
そして、胸には古びた“まるい徽章(バッジ)”のような飾り。
老人
「……永倉新八殿、でござるか?」
新八
「そうやが……あんた、何者や?」
老人は一礼し、震える声で名乗った。
■「わしは……会津のものです」
新八
「……会津?」
会津といえば、新選組が最後まで支え合い、
そして討ち死にも多かった“盟友の地”。
老人は続けた。
「わしは、あの戦の折……
近藤さま、土方さま、
そして永倉殿の戦いぶりを遠目に見とった者。
あの頃のことを、どうしても忘れられず……
墓が建ったと聞きまして、
無理をしてでも来とうございました。」
新八は、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「……そうか。
あんたら会津のもんには、
わしらはよう助けてもろた。
わしら、いっつもあんたらの覚悟に支えられとった。」
老人
「新八殿……
あの日、土方さまが見せてくださった“背中”のこと、
今でも忘れられませぬ。」
その声は震え、
目尻には涙が光った。
■さらに“もう一人”意外な来訪者が
その時、また草むらが揺れた。
新八
「え、まだ誰か来るんか?」

「じっちゃん、今日はにぎやかやな。」
現れたのは──
なんと、旅の途中で出会ったあの地主じいさんの猫・まるだった。
「にゃあ。」
地主じいさん
「永倉どん~! まるが勝手に走ってしもうての!」
新八
「なんで猫まで墓参りしとんねん!」

「じっちゃん、猫も悲しいんかも?」
まるは墓の前でちょこんと座り、
砂利をひっかきながら、しばらく動かなかった。
まる
「……にゃあ。」
どこか、しんみりとした声に聞こえる。
会津の老人が笑った。
「……猫でも、魂のある場所はわかるもんですな。」
新八
「おう。こいつ、ようできた猫や。」
■そして最後の意外な来訪者
──新八の胸を揺さぶる人物が現れる
風が一段と強く吹いたとき、
丘の下から足音が響いた。
新八
「また誰か来よったな?」
現れたのは──
武家風の若者。
まだ二十代そこそこ。
しかし姿勢は剣士のそれ。
若者は深く頭を下げた。
「永倉さま……
わたしは、近藤勇先生の“縁者”でございます。
どうしても、お墓に手を合わせたく……
今日まで探しておりました。」
新八
「……縁者、やて?」
若者
「はい。
先祖から、
“新撰組局長・近藤勇の血を継ぐ”と聞かされておりました。」
新八は思わず、
胸の奥をぎゅっとつかまれたような気がした。
「……そうか。
あんたも……あの人の血を継いどるんか。」
若者
「永倉さま……
ありがとうございます。
祖を祀ってくださり、
心より……感謝いたします。」
新八は深く頷き、
墓石に手を置いた。
「近藤さん……
あんたの血は、
ちゃんと未来へ残っとるで……」
孫はその光景に胸が熱くなった。
■最後は全員で静かに黙礼
新八、孫、会津の老人、若き縁者、
そして“まる”。
誰も言葉を発さず、
ただ静かに墓へ頭を下げた。
新八は心の中でそっと呟く。
「兄弟よ……
わしの務めはまだ続いとる。
けど、今日のこれは……
ほんまにええ日や。」
京の春の風が、優しく墓の周りを吹きわたった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

天正の黒船

KEYちゃん
歴史・時代
幕末、日本人は欧米諸国が日本に来た時の黒船に腰を抜かした。しかしその300年前に日本人は黒船を作っていた。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...