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第一章
カンナギ・ガンスリンガー 9
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「――――」
声を出すな、と必死に自分に言い聞かせる。今、大声を出してパニックにさせるのはごめんだ。
「穂結くーん?」
女子生徒の声がする。すでに黒髪が彼女の顔を覆っているが、まだ彼女は気付いていない。いや、見えていないのだ。
「……オーケー、大丈夫。だいぶ、大丈夫」
言いながら、煌津は左手を挙げた。それとなく、首の捩じれた女のほうに近付ける。
「ちょ、何……?」
「肩にゴミついているよ」
「えぇ?」
言いながら、女子生徒は自分の左肩を手で払う。すると、首の捩じれた女の髪が、ずるずると彼女の顔から離れ、代わり煌津の左手へと絡み付いてきた。
かつて九宇時が教えてくれた事だ。肩を払うのは簡単な魔除け。ただし本来は他人に払ってもらうのが正解だが、今回の場合、目的は達した。
「大丈夫。取れたよ」
悪霊は、今や煌津の左肩に掴まり、不穏な重みを感じさせていた。
「保健室、行ってくるね」
「う、うん。一人で大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう~」
なるべく不自然にならないように、しかし出来る限り速足で、煌津は踵を返す。耳元では、悪霊がずっと囁き続けている。このまま聞いていれば気が狂う。穢れに、取り込まれる。
(急げ。急げ。急げ。急げ)
廊下を進む。階段を下りる。二階から一階へ。呪呪呪。頭がおかしくならないうちに!
一階へ下りた。そのまま突き当りまで進む。古い木製の引き戸が見える。呪。鍵は開いている。さっき煌津が開けたのだ。理科準備室。呪。
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
耳元の囁きを無視して、理科準備室に飛び込む。ほかの誰かが入ってこないように、即座にその辺りにあった椅子を置いて、引き戸が開かないようにする。
「うぅぅうっ!」
耐え切れなくなって、床に転がる。重い。何十人にものしかかられているかのように、強烈に重い。
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
呪呪呪呪呪呪。穢れが頭の中に侵入してこようとする。匍匐前進のように進んで逃れようとするが、左半身はもうほとんど自由が利かない。右半身も怪しいものだ。力を振り絞って右腕を動かし、上着のポケットからビニール袋を取り出す。開け口側を銜えて、引っ張る。ビニール袋の口が開く。
ぶわっとこぼれた塩を、煌津は必死に左半身の悪霊にむかって振りかけた。
「ぎぃやあああああああ」
悪霊が絶叫を上げた。左半身がふっと軽くなる。急いで悪霊から離れる。悪霊を退散させる方法は知らないが、とにかく今は持っている手段を試すしかない。スマホであの動画を検索すれば――
「うっ、うわっ!?」
右足首が強い力で掴まれ、煌津の体は再び倒された。拍子に、スマホが床を滑って転がっていく。
声を出すな、と必死に自分に言い聞かせる。今、大声を出してパニックにさせるのはごめんだ。
「穂結くーん?」
女子生徒の声がする。すでに黒髪が彼女の顔を覆っているが、まだ彼女は気付いていない。いや、見えていないのだ。
「……オーケー、大丈夫。だいぶ、大丈夫」
言いながら、煌津は左手を挙げた。それとなく、首の捩じれた女のほうに近付ける。
「ちょ、何……?」
「肩にゴミついているよ」
「えぇ?」
言いながら、女子生徒は自分の左肩を手で払う。すると、首の捩じれた女の髪が、ずるずると彼女の顔から離れ、代わり煌津の左手へと絡み付いてきた。
かつて九宇時が教えてくれた事だ。肩を払うのは簡単な魔除け。ただし本来は他人に払ってもらうのが正解だが、今回の場合、目的は達した。
「大丈夫。取れたよ」
悪霊は、今や煌津の左肩に掴まり、不穏な重みを感じさせていた。
「保健室、行ってくるね」
「う、うん。一人で大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう~」
なるべく不自然にならないように、しかし出来る限り速足で、煌津は踵を返す。耳元では、悪霊がずっと囁き続けている。このまま聞いていれば気が狂う。穢れに、取り込まれる。
(急げ。急げ。急げ。急げ)
廊下を進む。階段を下りる。二階から一階へ。呪呪呪。頭がおかしくならないうちに!
一階へ下りた。そのまま突き当りまで進む。古い木製の引き戸が見える。呪。鍵は開いている。さっき煌津が開けたのだ。理科準備室。呪。
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
耳元の囁きを無視して、理科準備室に飛び込む。ほかの誰かが入ってこないように、即座にその辺りにあった椅子を置いて、引き戸が開かないようにする。
「うぅぅうっ!」
耐え切れなくなって、床に転がる。重い。何十人にものしかかられているかのように、強烈に重い。
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
呪呪呪呪呪呪。穢れが頭の中に侵入してこようとする。匍匐前進のように進んで逃れようとするが、左半身はもうほとんど自由が利かない。右半身も怪しいものだ。力を振り絞って右腕を動かし、上着のポケットからビニール袋を取り出す。開け口側を銜えて、引っ張る。ビニール袋の口が開く。
ぶわっとこぼれた塩を、煌津は必死に左半身の悪霊にむかって振りかけた。
「ぎぃやあああああああ」
悪霊が絶叫を上げた。左半身がふっと軽くなる。急いで悪霊から離れる。悪霊を退散させる方法は知らないが、とにかく今は持っている手段を試すしかない。スマホであの動画を検索すれば――
「うっ、うわっ!?」
右足首が強い力で掴まれ、煌津の体は再び倒された。拍子に、スマホが床を滑って転がっていく。
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