ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
12 / 100
第一章

カンナギ・ガンスリンガー 9

しおりを挟む
「――――」

 声を出すな、と必死に自分に言い聞かせる。今、大声を出してパニックにさせるのはごめんだ。

「穂結くーん?」

 女子生徒の声がする。すでに黒髪が彼女の顔を覆っているが、まだ彼女は気付いていない。いや、見えていないのだ。

「……オーケー、大丈夫。だいぶ、大丈夫」

 言いながら、煌津は左手を挙げた。それとなく、首の捩じれた女のほうに近付ける。

「ちょ、何……?」

「肩にゴミついているよ」

「えぇ?」

 言いながら、女子生徒は自分の左肩を手で払う。すると、首の捩じれた女の髪が、ずるずると彼女の顔から離れ、代わり煌津の左手へと絡み付いてきた。

 かつて九宇時が教えてくれた事だ。肩を払うのは簡単な魔除け。ただし本来は他人に払ってもらうのが正解だが、今回の場合、目的は達した。

「大丈夫。取れたよ」

 悪霊は、今や煌津の左肩に掴まり、不穏な重みを感じさせていた。

「保健室、行ってくるね」

「う、うん。一人で大丈夫?」

「大丈夫。ありがとう~」

 なるべく不自然にならないように、しかし出来る限り速足で、煌津は踵を返す。耳元では、悪霊がずっと囁き続けている。このまま聞いていれば気が狂う。穢れに、取り込まれる。

(急げ。急げ。急げ。急げ)

 廊下を進む。階段を下りる。二階から一階へ。呪呪呪。頭がおかしくならないうちに!

 一階へ下りた。そのまま突き当りまで進む。古い木製の引き戸が見える。呪。鍵は開いている。さっき煌津が開けたのだ。理科準備室。呪。

「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」

 耳元の囁きを無視して、理科準備室に飛び込む。ほかの誰かが入ってこないように、即座にその辺りにあった椅子を置いて、引き戸が開かないようにする。

「うぅぅうっ!」

 耐え切れなくなって、床に転がる。重い。何十人にものしかかられているかのように、強烈に重い。

「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」

 呪呪呪呪呪呪。穢れが頭の中に侵入してこようとする。匍匐前進のように進んで逃れようとするが、左半身はもうほとんど自由が利かない。右半身も怪しいものだ。力を振り絞って右腕を動かし、上着のポケットからビニール袋を取り出す。開け口側をくわえて、引っ張る。ビニール袋の口が開く。

 ぶわっとこぼれた塩を、煌津は必死に左半身の悪霊にむかって振りかけた。

「ぎぃやあああああああ」

 悪霊が絶叫を上げた。左半身がふっと軽くなる。急いで悪霊から離れる。悪霊を退散させる方法は知らないが、とにかく今は持っている手段を試すしかない。スマホであの動画を検索すれば――

「うっ、うわっ!?」

 右足首が強い力で掴まれ、煌津の体は再び倒された。拍子に、スマホが床を滑って転がっていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...