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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 10
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黒い影が家の中から飛び出してくる。間一髪で、煌津はそれを躱した。緩やかな坂道を少し滑る。妖しげな世界の太陽が、骸骨の全身をさらけ出す。想像通り、大型犬のようだ。いや、それより体毛は鋭く濃い。まるで狼だ。前脚は人間の腕、後ろ脚は狼のそれだ。どういう構造なのか、前脚の付け根の辺りからさらに二組の二本腕が生えている。黒い髪の毛が残ったままの骸骨は、まるで古い怪談話に出て来る落ち武者みたいだ。
「はぁっ、はぁっ」
意識が朦朧としてくる。傷口から毒が回っている気がする。自分が変質していくのがわかる。
骸骨が唸り声を出しながら、こちらを見る。何か。何かないか。何か、この危機を脱せるものは。
すぐ傍にあるのは家の駐車場だ。横を見ると、細い木が見えた。何の実かもわからない実が成っている。
――ヨモツヘグイ。
「お腹が減ったっていうなら……」
にじり寄り、手を伸ばす。痛みを堪えながら、細い木に成った果実をもぎ取る。
「がるアァっ!」
骸骨の狼が吠えた。
「これでも喰らえ!」
ひゅん、と痛まないほうの腕で投げた果実は放物線を描いて、骸骨の前にぽて、と落ちた。
「すん、すん」
匂いを嗅いだ骸骨が、ぱく、と果実を口にする。じゃり、じゃりという咀嚼音が聞こえる。
嚥下する。特に様子が変わったところはない。
「……ぐぅるぐぅうう」
再び、骸骨がこちらを向いた。
「無駄か……」
これは本当にやばい。逃げないと。
――ドクン――
空間自体が振動する。
「あ、あ、あ、おぅおあ」
骸骨の様子がおかしい。体をくねらせて、のたうち回っている。
空の色が変化してく。赤に青に緑にと。ノイズがひどい。この世界全体が歪められているかのように揺らいでいる。
「異層転移……」
遠くで、何かが爆発するような音。だーん。この音は……。
――ピュン、と。何かが体の脇を掠めた。
がん! 骸骨の頭部が弾かれたように上向く。よろめいた骸骨が再びこちらを向くと、その額には小さな何かが埋まっていた。
「銃、弾……?」
『着弾した!』
ノイズがかかった声が、空から聞こえた。周囲の景色に、別の景色が混ざっている。校舎。植え込み。透明なそれらの景色が重なって見える。
「……ぐぅるぐぅううぁッ!」
骸骨が吠えて、こちらに駆けて来る。早い。あっという間に近付かれる!
「穂結君!」
名前を呼ばれるのと同時に煌津は襟を掴まれ、後ろに引っ張られる。視界が暗転する――
「ぐるっ……があぁ……っ……ぁ、ああぁ、置いて行かないで!」
目の前が真っ暗闇に閉ざされるか否かのその一瞬、少女の叫びが聞こえた。
「はぁっ、はぁっ」
意識が朦朧としてくる。傷口から毒が回っている気がする。自分が変質していくのがわかる。
骸骨が唸り声を出しながら、こちらを見る。何か。何かないか。何か、この危機を脱せるものは。
すぐ傍にあるのは家の駐車場だ。横を見ると、細い木が見えた。何の実かもわからない実が成っている。
――ヨモツヘグイ。
「お腹が減ったっていうなら……」
にじり寄り、手を伸ばす。痛みを堪えながら、細い木に成った果実をもぎ取る。
「がるアァっ!」
骸骨の狼が吠えた。
「これでも喰らえ!」
ひゅん、と痛まないほうの腕で投げた果実は放物線を描いて、骸骨の前にぽて、と落ちた。
「すん、すん」
匂いを嗅いだ骸骨が、ぱく、と果実を口にする。じゃり、じゃりという咀嚼音が聞こえる。
嚥下する。特に様子が変わったところはない。
「……ぐぅるぐぅうう」
再び、骸骨がこちらを向いた。
「無駄か……」
これは本当にやばい。逃げないと。
――ドクン――
空間自体が振動する。
「あ、あ、あ、おぅおあ」
骸骨の様子がおかしい。体をくねらせて、のたうち回っている。
空の色が変化してく。赤に青に緑にと。ノイズがひどい。この世界全体が歪められているかのように揺らいでいる。
「異層転移……」
遠くで、何かが爆発するような音。だーん。この音は……。
――ピュン、と。何かが体の脇を掠めた。
がん! 骸骨の頭部が弾かれたように上向く。よろめいた骸骨が再びこちらを向くと、その額には小さな何かが埋まっていた。
「銃、弾……?」
『着弾した!』
ノイズがかかった声が、空から聞こえた。周囲の景色に、別の景色が混ざっている。校舎。植え込み。透明なそれらの景色が重なって見える。
「……ぐぅるぐぅううぁッ!」
骸骨が吠えて、こちらに駆けて来る。早い。あっという間に近付かれる!
「穂結君!」
名前を呼ばれるのと同時に煌津は襟を掴まれ、後ろに引っ張られる。視界が暗転する――
「ぐるっ……があぁ……っ……ぁ、ああぁ、置いて行かないで!」
目の前が真っ暗闇に閉ざされるか否かのその一瞬、少女の叫びが聞こえた。
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