ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 12

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 どうやら相手が通話を切りそうな気配を感じて、煌津は慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっと。この子ずっといるの? その、この、ハゼランノヒメって子」
『いるよ。明日うちにくるまではずっとね。君の家に、君を連れて帰ってきてから、寝顔をずっと見ていた。……ハゼランノヒメが、ね。私は見ていないから』
「さっき監視してるって……」
『人の寝顔に興味はない』
 怒ったふうでもなく、九宇時那美は言った。
「じゃあ何で寝顔の話――」
『ちゃんとお風呂に入ってきてね。神前に出るのだから。じゃ、おやすみ』
 九宇時那美の声はそれっきり沈黙した。
「九宇時さん……?」
 念のため一分ほど待ってみたが、返事はなかった。
「電話じゃないからわかりづらいな」
 まあいいか。通話は終わりだ。
 薄暗い部屋の中には、相変わらず微笑みを浮かべたハゼランノヒメが佇んでいる。心なしか、煌津の顔をずっと見ているような気さえする。
「寝辛いな……」
 明日の十時か。予定はない。いつもの日曜日のように、昼近く寝ているわけにもいかなさそうだ。
 九宇時神社。九宇時那岐の実家。
「……」
 電灯のリモコンを手に取る。寝やすいように、明かりを完全に決してしまおう。そう思ってスイッチを押すと、
「うわっ」
 途端にハゼランノヒメの体がピンク色に光っていた。まるで蛍光ペンだ。
「ええ……」
 壁のほうを向いて、なるべく目をやらないようにする。だが、部屋の隅がほんのり光っているのがわかる。これ、外から見えたりしないだろうか。
「ごめん……もうちょっと暗くならない?」
 すっと、ハゼランノヒメの光量が落ちた。ダウンライトくらいに。
「ありがとう」
 煌津は眠りに落ちた。

 自分でも驚くほどすっきりと、悪夢の一つも見ずに煌津は目を覚ました。朝七時。風呂に入り、朝食を食べ、簡単に支度をした。九宇時神社の最寄り駅を確認し、以前部活で使っていた文庫本の古事記を読み返す。そうして、何となく落ち着かない時間を過ごした。
「行ってきます」
 家を出た。
 宮瑠璃線に乗り、学校とは反対方向に向かう。高天たかまという駅が目的地である。急行が止まらない駅で、どれだけ焦っていたとしても、各駅停車に乗っていくしかない。
 車両の中は煌津以外の人間はいなかった。高天は九宇時神社のほかは特に見るべきものもない駅だ。日曜とはいえ、各駅停車の利用者も少ないだろう。
 人間は乗っていないが、人間でないものなら向かいの座席に座っている。ハゼランノヒメだ。昨晩から一向に変わる事なく柔和な微笑みを浮かべている。
(本当にずっとついてきている)
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