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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 13
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ハゼランノヒメがいるからなのか、家を出てから怪現象には遭遇していない。電車の中では座席の下に足首だけが見えていないかと不安になったが、今のところ見えない。
『あの世とこの世の境目を、考えた事はあるかい』
一瞬の虚を突かれ、その声に自分の右隣を見る。
九宇時那岐がいた。まだ同じ学校に通っていた頃のまま。
向かいではハゼランノヒメが笑っている。乗客はほかにもいる。立っている客。座っている客。
『わかりやすい境目はない。こちらからあちらへは地続きで、行くのは簡単なんだ』
「やめろよ、九宇時」
いつになく苛々して、煌津は言う。いつの間にか、自分の服が前の学校の制服に変わっていたが、煌津の意識は、その変化を当然のものとして受け入れている。当然だ。九宇時と一緒にいるのだから。
「簡単なわけないだろ。誰だって死ぬのは怖いんだから」
『でも人間の体は脆い。死への恐怖があっても、強度の限界に達すれば境目を越える』
「何が言いたいんだよ」
『この世は留まるに値するかい? 穂結さん』
電車が止まり、乗客がさらに増える。ざわめきが大きくなっていく。
『皆、初めはこの世で生を謳歌したいと思う。でも、だんだん自分と他人の境遇の違いがわかってきて、自分が立っている側がどうやら日の当たらない場所だとわかったら、そこに根を下ろし続ける意味はあるのかい』
「何を……」
何故急にそんな事を言うのか、と言おうとして、煌津は自分がつり革につかまっている事に気が付いた。両隣は知らない乗客。座席に座った那岐は、煌津を見上げている。
『俺たちは影の中で戦い続けるしかない。でもそうなると知っていて、この世界に生まれてきたわけじゃないんだ』
――ふと、目が覚める。
煌津は座席の壁に頭を預けるようにして眠っていた。乗客は自分のほかには誰もいなかった。
『高天。高天です』
やばい。もう駅に着いている。煌津は慌てて電車を降りた。ハゼランノヒメが悠然とした足取りでそれに続く。
高天駅から九宇時神社までの道はわかりやすい。改札を出たら、まず山を探すのだ。九宇時神社は標高八十六メートルの小高い山、一番山の山頂にある。商店街を抜け、区役所の前を通ると、隣の宇瑠市から宮瑠璃市まで続く宇瑠宮瑠璃街道に出る。街道に沿って少し進み、看板が出ているところで曲がる。もう山は見えている。少しずつ、道に傾斜がついてくるので、山に向かって歩いて行く。
ほどなく、一つ目の大きい鳥居が見えた。
『あの世とこの世の境目を、考えた事はあるかい』
一瞬の虚を突かれ、その声に自分の右隣を見る。
九宇時那岐がいた。まだ同じ学校に通っていた頃のまま。
向かいではハゼランノヒメが笑っている。乗客はほかにもいる。立っている客。座っている客。
『わかりやすい境目はない。こちらからあちらへは地続きで、行くのは簡単なんだ』
「やめろよ、九宇時」
いつになく苛々して、煌津は言う。いつの間にか、自分の服が前の学校の制服に変わっていたが、煌津の意識は、その変化を当然のものとして受け入れている。当然だ。九宇時と一緒にいるのだから。
「簡単なわけないだろ。誰だって死ぬのは怖いんだから」
『でも人間の体は脆い。死への恐怖があっても、強度の限界に達すれば境目を越える』
「何が言いたいんだよ」
『この世は留まるに値するかい? 穂結さん』
電車が止まり、乗客がさらに増える。ざわめきが大きくなっていく。
『皆、初めはこの世で生を謳歌したいと思う。でも、だんだん自分と他人の境遇の違いがわかってきて、自分が立っている側がどうやら日の当たらない場所だとわかったら、そこに根を下ろし続ける意味はあるのかい』
「何を……」
何故急にそんな事を言うのか、と言おうとして、煌津は自分がつり革につかまっている事に気が付いた。両隣は知らない乗客。座席に座った那岐は、煌津を見上げている。
『俺たちは影の中で戦い続けるしかない。でもそうなると知っていて、この世界に生まれてきたわけじゃないんだ』
――ふと、目が覚める。
煌津は座席の壁に頭を預けるようにして眠っていた。乗客は自分のほかには誰もいなかった。
『高天。高天です』
やばい。もう駅に着いている。煌津は慌てて電車を降りた。ハゼランノヒメが悠然とした足取りでそれに続く。
高天駅から九宇時神社までの道はわかりやすい。改札を出たら、まず山を探すのだ。九宇時神社は標高八十六メートルの小高い山、一番山の山頂にある。商店街を抜け、区役所の前を通ると、隣の宇瑠市から宮瑠璃市まで続く宇瑠宮瑠璃街道に出る。街道に沿って少し進み、看板が出ているところで曲がる。もう山は見えている。少しずつ、道に傾斜がついてくるので、山に向かって歩いて行く。
ほどなく、一つ目の大きい鳥居が見えた。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
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